久々のオフ。
中居はソファーの上でわめいていた。

「腹減ったー!死ぬー!なんか食いたーい!上手いもん食いたーい!」

一人暮らしの家では返事があるはずはない。

「倒れるー!もう、腹減りすぎて動けない!なんか食わせろー!上手いもん食わせろー!」

今度は一言返ってきた。

「うるっさい!」

ジタバタと動いていた中居の手足を一瞬止めるには十分な低い声。ただ、一生止めるには不十分な低い声。

「ねぇー。なんか美味しいもの作って?」

背を向けて座るつれない相手にくっついてみる。
しかし、相手はなかなか手ごわかった。
無言で払いのけられる。

「なんだよ!せっかく来たのに。じゃあ、俺帰る!」

相手の肩がピクッと動いたのを目ざとく見つける。
押して駄目なら引いてみな。

「あーあ。海老パン食べたかったな。久しぶりのオフに美味しい料理食べたかったなぁ。木村の料理、食べたかったなぁ。」

わざとらしすぎる声に、とうとう相手は白旗を揚げた。

「ったく!分かったってば!作りゃあいいんだろ?」
「うん。ありがと。」

満面の笑みで答える。

「じゃあ、買出し行くぞ!」

結局負けたことになった木村はどこと無く不機嫌だが、勝った中居はお構いなし。
「るんるん」と鼻歌が聞こえそうに足取りが軽い。




「やっぱ、海老は上等な方が美味しいだろ?食パンと。他、何作る?」

作るとなったら木村はこだわる。
中居に意見を求めつつも、頭の中では既に献立ができ始めている。
その時、そんな彼の思考を遮る声が聞こえた。

「あ!あれやろうぜ!UFOキャッチャー!」
「は?」

止めようと思ったときには、もう中居は横にいなかった。
ゲームセンターの入り口で目を輝かせている。
視線の先にはおおきなぬいぐるみ。
欲しいはずないのに・・・。そんな大きいの、もし取れたらどうやって持って帰るんだよ。
てゆーか、おなかすいてんじゃねーの?
木村の眉間がギュッと寄せられるが、今日の中居はお構いなし。
上目遣いでお金をねだる中居に、木村はここでも勝てなかった。


「あー!取れない!もう1回!」

中居はさっきからこの調子。
「もう行くよ。」と、一応抵抗している木村の声なんて耳に入っていない。
その時、パッと木村を振り向くと、意味ありげに笑顔を作った。

「ねぇ。木村やってみて。」

欲しくもないはずのぬいぐるみなのに、取れないとなると手に入れずには気がすまないらしい。
そして、おねだりされるとやらずにはいられない木村。もとより負けず嫌いである。
途端に夢中になる。
中居以上に。

中居はと言うと、
「もうちょっと!あ、取れそう!」などと言っていたものの、しばらくすると飽きたらしい。

「もう行こうぜ。」

冷たく言い放った。
中居の為に、と頑張っていた木村は全く報われないが、大人しく付いて行く。
抵抗しても無駄な事くらい百も承知だ。

「じゃあ、早く材料買っちゃおうゼ!」
「おう!」

息もあって、目的地へ向かう足取りも揃う2人。
が、また中居の目がきょろきょろと動き始める。

「あれ、食べたい。」

立ち止まって指差した先にはソフトクリーム。甘いものなんて好きじゃないじゃん!
心の中では突っ込みながらも、手には既にお財布が握られている。
精神年齢小学生になった中居には何を言っても無駄。諦めて付き合ってやるのが一番。
それが木村の中居操縦法だ。

結局、一緒になって食べ始めたが・・・

「甘い。もういらない。木村、やるよ。」

せっかく買ってやったのに。お前が食べたいっていうから。
そんな言葉は全て二人分のソフトクリームと一緒に飲み込む。
そんな木村に向けられたのは、

「早く行こうぜ。さっさと食べろよ。」

という非情な言葉。
それにも耐えると、二人は目的地へ到着。



「海老だろ。パンだろ。酒も飲みたいし、肉も魚も。」

たくさんの食材にご機嫌な中居と、夫婦みたいじゃん、とご機嫌な木村。
ただ、木村の持つかごにはドンドン食材が放り込まれていく。
重いなんて一言も言わずに優しい夫気分の木村は、木村にだけ新妻に見える中居を見つめる。

「これも買っていい?」

振り向いて首をかしげる中居が持つものは、好物の梨が入った思うそうな袋。

「あー、いいよ。」

可愛い妻にかっこいい夫は優しく答えた。
途端にかごは重くなるが、ジム通いの成果の見せ所。軽々と持ってみせる。
そんな木村の見せ所にも気付かず、中居はちょこちょこと歩き回る。

人にぶつかりそうになるとさりげなく肩を抱き守り、狭い通路を通る時は勿論道を譲る。
それが当たり前の中居にはお礼も言われないが、それでも木村は中居を見守る。
買い忘れているものがあれば、さりげなくフォローするのも忘れない。

そして、全て買い終えた二人。
満足する中居は何も持たない手を大きく振って歩き、重い荷物で少し遅れる木村を振り返る。

「やっぱり木村と一緒がいいな。」

可愛いと褒められる事を嫌がる中居は、しかしその効果の程を熟知していた。
にこっと可愛い笑顔を前に、とうとう木村の口から文句は出なかった。




そして、帰ってきた木村邸。
広い台所は二人で作るにも十分だった。が、結局一人で台所に立つ木村にその広さは不要だったかも知れない。
手伝う素振りなど全く見せない中居をよそに心地よい風を感じながら木村は熱心に手を動かしていた。
が、何かを感じてその手を止めた。
自分の手先だけを見ていた目を上げると、自分を見つめる綺麗な目。
正確には自分の手先を見つめる大きな目。
椅子の背に顎を乗せ、同じ事を繰り返す単純作業を飽きもせずに見ていたらしい。
いきなり手を止めた木村をその目は不審気に見上げた。

「中居もやる?」
「いい。」

そんなに興味があるのなら、と言ってみたが速攻で断られた。
そんな彼に苦笑しつつ、再び手を動かしだすと、彼も再びその手を見る。

「木村が作った方が美味しいからな。」
「もうすっかり作り方も覚えたのにな。」

まだ絆創膏を巻いている手の間にすっぽりと収まった小さい顔を見ながらからかってみる。

「ラジオで随分詳しく説明してたじゃん。」

途端に大きな目が木村の顔を捉え、そして決まり悪そうにうつむいた。

「上手くいかなかったって?」
「うん。」

ぶっきら棒に答えるのは照れている証拠だ。
そして、「教えて」と言って来ないのも中居らしかった。

「ま、俺はその方がいいけど。」

嬉しそうに言う木村を中居が訝しがる。

「なんだよ、それ。俺がまずいもの食べてる方がいいのかよ!」

口を尖らせ、むくれる。笑いにせず、本気になるのは素の中居。

「俺より上手くなられてもなー。うちに中居が食べに来なくなるのも寂しいし。」

笑いをかみ殺して言われたその言葉に中居は睨んでいた目をそらす。

「自分でやってもうまく行かなかったから食べさせろって、あのラジオ、そういう意味だろ?」
「ちげーよ。」

強い語調で言うものの、そっぽを見ているのは図星だからだろう。

「ま、いくらでも作ってやるけどさ。」
「うん。つーか、お前さっきから汚い!」
「何が?!」
「ちゃんと見て作れよ!全然大きさ違うじゃん!」
「こんなん適当でいいの!」

手で形を整える様子に中居が立ち上がる。

「汚い!スプーンでやれよ!手でやるな!」
「綺麗に洗ってるだろ!人の手を汚いって失礼だぞ!」
「やなの!そういうの!気持ち悪い。」
「気持ち悪いって何だよ。あー、もう海老パン作るのやーめた!」

そう言うと冷たい視線で中居を見下ろす。
二人の我慢比べが始まりそうだった。

しかし、本気モードにはならずに木村が先に笑ってにらめっこは終了した。

「ほんとに、几帳面だな。」
「A型だもん。」
「人見知りだしな。」
「A型だもん。」
「でもAとOって相性いいらしいぞ。」
「ふーん。」

木村が言った説は男女の場合なのだが、中居はまんざらでもなさそうに聞いている。

「なあ。」
「何?」
「さっきから手ぇ、止まってんぞ!」
「おまえなぁ・・・。」


二人の休日は始まったばかり。



2004.10.13UP
以前に書いた日記からの改訂版です。
てゆーか、中居さん、おなかすかないのかな?(笑)
普通待ちくたびれるよね。
木村さんのことだから、何か与えて待たせてるのかもね。

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SMAPファンに55のお題
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