同窓会へ行こう(後編)

2人が着いたのは格式ばっていない和食屋さんだった。
立派な料亭ではなく、かといって居酒屋よりは雰囲気のよさそうな、きちんと個室のあるそこは2人にとって居心地がよさそうに見え、入り口へと足を進める。
案内された部屋からは笑い声が漏れていた。目を合わせると、木村が引き戸に手を掛ける。

「うーっす。」
当然のように中居が先に入り、木村がそれに続く。
「お久しぶりでーす。」

二人の登場に場が沸くが、ここは同窓会。2人も有名人である前に同級生だった。
空いた席に二人並んで座ると、懐かしい面々が集まってくる。

「とりあえずなんか頼む?」

が一息つく合図だった。

「てゆーか、普通先に何か頼むだろ。」
「だよな。いきなりみんな喋りすぎ!」
「中居に言われたくない。」
「で、何頼むんだよ。」

テンポよく会話は弾んでいく。

「うーん、俺、それよりトイレ行きたいの。適当に頼んどいて。」
「適当って・・・。」
困る仲間たちから視線を外す。
「木村、適当に頼んどいて。」
「はいよ。」
言われた木村はこともなげに頼んでいく。
「中居って好き嫌い多くなかった?」
「うん、多いよ。」

「だから何?」とでも言いたそうな木村に2人の間に流れた時間を感じた。
「ずっと一緒だもんな。好みぐらい簡単に分かるか。」
「ん?うん。え?」

級友の真意が木村には上手く伝わらないようだった。
中居の分の注文を平気ですることなんて木村にとっては日常過ぎて驚きの対象になるとも感じていなかったのだ。
そして、中居も同様に木村が頼んだものが的を外していない事に驚くことすら忘れていた。

「木村は木村で普通に頼んでるし。」
「中居は中居で普通に食べてるし。」
「普通自分の食べたいものを相手がちゃんと頼んでたら驚くよな。」
「な。それがあいつらにとっては普通なんだろうな。」
「やっぱSMAPすげーな。」

妙な一言で自分達の関係がまとめられてる事も知らずに、2人は時を遡って楽しんでいた。
あっちにふらふら、こっちにふらふら、戻ってきてはまた立ち上がり。
2人が隣同士に座っていたのは、最初の何分間かだけのようだった。後は全くばらばらに行動しているように見えたが・・・。

「何があんなに楽しいんだろ?」
「え?」
指差す先にはSMAP2人が輪を外れて壁にもたれている。
「めちゃくちゃ笑顔だな。」
「ずっとばらばらでいるから、同じグループっていってもやっぱりそんなもんかと思ってたのに。」
「なんだかな。」
「しかも、いつの間にか2人だけで話してることとか、他の奴といる時とは違う顔してることとか、全然気付いてないんだろうな。」
「絆ってやつか?」
「ラブラブだな。」
そう言って笑いあう笑顔は2人の表情が写ったようだった。
周りまで巻き込む笑顔。ただ、それも長続きはせず、気がつくと全く別の方向に2人はいた。





沢山頼んだはずの食事も次々と無くなっていき、楽しい時は足早に過ぎていく。

「中居、なんか飲む?」
「んー、水割りと、オレンジジュース。」
「オレンジジュース?!」
「ん?ああ、木村の。」
「え?」
「今、木村ここにいないだろ?どこ行ってんのか知らないけど。だから。」
「でも、なんでオレンジジュース?」
「ん?なんとなく。車だから酒飲めないし、なんかオレンジジュース。」
「ふーん。」

理由もわけが分からなければ、木村がいないことをちゃんと把握していた中居の思考回路も不明だが、本人は特に気にも留めていないようだった。

問題のオレンジジュースが運ばれてくる少し前、木村も部屋に戻ってきていた。
奥の右隅にいる中居と、左の入り口近くにいる木村。
中居と話をした友人は木村の反応が気になって側へと寄って行った。
くだらない話にみんなが盛り上がり、誰も芸能界の話、SMAPの話なんて聞こうとしなかった。
これで酒が飲めたらな、と木村は密かに思っていたが、勿論顔にも口にも出さなかった。
高校時代の思い出話に廊下にまで響く笑い声が起きていた。

「笑いすぎてのど渇いた。俺、なんか頼もう。んー、オレンジジュース!」
「マジで?!」
「え?何?」

友人のやけに驚いた表情に木村本人の方が驚く。

「や、さっき中居が木村の分って言って頼んでたから。」
「オレンジジュース?」
「うん、もうすぐ来るよ。」

その声と同時にオレンジジュースはお盆に載せられ、沢山の飲み物と一緒に運ばれてきた。
木村はそれを受け取ると、近くにはいない相手を見る。
視線を感じたのが中居はオレンジジュースを軽くあげる木村の姿を捉えると、同じく軽く手を上げ答える。
それで終了。
「ありがとう」も「飲んでいいの?」もない会話。

「凄いよな。」
「何が?」
「木村と中居。」
「だから何が?」
「分かり合いすぎ。」
「そっか?」
「そうだよ。そのことに気付いてないあたりが、また凄い。」
「ん?よくわかんねー。」
「普通、自分が頼もうと思ってたものを相手が頼んでたら驚くだろ?」
「でも中居だよ。」

「当然だろ?」「何に驚くの?」木村の顔に演技は入っていなかった。

「だから!そこが凄いの!凄い事が普通って凄いじゃん!」
熱弁を振るう友に木村が笑う。
「何笑ってんだよ!」
「なんか凄い熱いから。うちらそんなたいした関係じゃないよ。」
「そんな関係持ってるから言えんだよ。」
「そんなもんか?ま、人生は半分以上一緒にいればな。」
「いいよ、それ。」
「うーん、ま、捨てる気も譲る気も無いな。時々面倒くさいけど。」
「ん?」
「なんか分かられすぎるっていうのもな。」
「嫌なのか?」
「嫌じゃないよ、じゃないけど、ほっといてくれって思うときはあるかもな。きっとお互い様だよ。」
「例えば?」
「ん、まぁ、体調悪いとか、機嫌悪いとか、いちいちばれるから。」
「なるほどね。」
「ノロケ話にしか聞こえないけどね。」

いつから聞いていたのが別の友達まで顔を突っ込む。
「しかも、中居もさっき全く同じ事言ってたよ。」
「え?」
「本当、そのまんま。両想いってやつ?」
「なんか違うだろ、それ。」

気のない返事をしつつ、木村の顔は緩み、その視線はいつも隣にあるはずの存在に向いていた。
それに気付いたのか、中居はふらふらと立ち上がる。
既にその足元はおぼつかなく、酔って寝ている級友を踏みつけそうだった。
思わず手を差し伸べる木村に甘えるように笑う中居。

「何、自分だけ酔ってるんだよ!」
誰にも言わなかった不満を漏らす。
「だって楽しいんだもん。」
トロンとした口調は酔っている印。
呆れて首をひねるがその顔は至って穏やかだ。
しなだれかかってくる頭に
(変な我が儘言い出すんじゃないの?)
と危惧を抱いたとき、案の定甘えた声が聞こえてきた。

「歌、歌って。世界、歌って。」
「何言ってんの?お前。」
「いいじゃん!みんなも聞きたいって!」
「言ってないから。」

あり得ない、と声を上げる木村だが、周りは中居の声に盛り上がりだした。

「いいじゃん!じゃあ、そろそろ場所帰る?」
「あり得ないって!」
木村はまだ中居と言い争っている。
「いいじゃん。歌ってよ。木村の上手な歌が聞きたい。」
「じゃあ、中居も歌えよ。」
「じゃあ、俺、木村役ね。」

始まったよ、と木村はさらに頭を抱えたが、周りは既に移動を決めたようだった。

軽く一回挨拶程度に歌うと、後は聞き役に徹する。
周りもそれ以上は求めずにやりやすかった。
ソファーにもたれ、会話が弾む。
その間、近寄ってくる中居を、喉をくすぐりながら適当にあしらう。
「俺、猫じゃない」最初はそう言っていた人間もそのうちごろごろと喉を鳴らし始めた。
ソファーに寝転がりだしたら、引き上げ時だ。
しかし、今日は同窓会。そう簡単には帰れない。既に膝の上でくつろぎだした猫を見る。

「結局行きつく先は木村なんだな。」
「ん?」

三毛猫のようになっている髪に手を滑らしながら友人を見る。

「だって中居がこんなになってるの見ないぞ。」
「いつも車で来てて飲まないからだろ。」
「でもさ、他のやつにはこんな甘えないじゃん。」
「そっかぁ?」

木村の手は一定の速度で動き、中居を眠りの世界へと深くいざなう。

「やっぱ、俺、お前らに嫉妬するわ。」
返答に困り苦笑する。
遠くではマイクを持った友人が2人を呼んでいる。
木村は「無理」と声を上げる代わりに、膝の上を指差し、ごめんと手で答える。

「そろそろ帰るかな。」
その一声に周りがざわめく。引き止める声に笑顔を返しつつ、
「でもこれじゃあいても意味ないでしょ。」
と膝の上を見る。
起きるそぶりを見せない中居に周囲も頷くが
「でも、起こすの大変そうだから起きるまで待てば。」
という声が、更に多くの賛同を得た。

木村は困って中居を見る。
盛り上がりが衰えない周りを見て、
「ひろくーん」
小さく呼びかける。
「ひろちゃーん」
全く反応のない様子に木村が更に声を潜め、
「まぁちゃーん」
と呼びかけようとしたその瞬間、最後まで言わせずに中居が目を開けた。
パチっと音を立てたかと錯覚するほど見事に。

「たぬき」
「ちげーよ」
「だって起きてんじゃん」
「お前の声で目が覚めたの!」
「あっそ、じゃ、まだ帰んなくていいんだな。」

木村の突き放した言い方に中居は少しうつむいた。

「帰る」
(ほら、見ろ) 目だけでそういう。
「じゃあ、あいつらに言わなきゃ。ほら」
差し出された手を掴むと、強く引っ張られた。
肩を抱かれ、中央に連れて行かれる。

「えー、うちの中居くんがもうおねむだそうなので、そろそろ帰ります。」
その言われ方に中居は口を尖らせ、睨む。
「ほら、ひろちゃん、挨拶して。」
「えー。本当は木村君の方が、もう帰りたいということなので、僕は本当に残念ですが、ここらへんで失礼します。」

ここでもミニコントを繰り広げる2人に場が沸く。

「まだいろよ。」「本当に帰るの?」「また遊ぼうね」
様々な声に見送られながら2人は会場を後にした。

外では、秋の冷気が二人の火照った体を迎える。

「案外寒いのな。」
中居が体を震わせる。
「風邪引くなよ。」
「うん、早く車のろ。」

そう言って乗り込んだ車の中は適度に暖められていて、中居のいったん覚めた眠りを誘った。
「いいよ、寝てて。どうせさっきまで寝てなかったんだろ?」
「そんなこと、」
「中居は知らないと思うけど、枕にされてる方って、そういうのすぐ分かるの。ま、ああでもしないと帰れないしな。」
「ん。やっぱりいっか。」
狸寝入りを見破られて気まずそうだった中居が突然声を明るくした。
「は?」
「言われたの、木村との関係羨ましいって。そうかな?と思ったけど、やっぱりいいかもね。ま、なんたって木村拓哉が運転手してくれんだもんな。」
いい気になって「お疲れ」と肩を叩いてくる中居を小突く。
「あ、いってー!ご主人様に向かってなんだよ〜!」
「誰がご主人様だって?ここらへんに置いてくぞ。」
木村の言葉に嘘と分かっていても慌てて擦り寄ってくるのは、相当稀に見る機嫌の良さかもしれない。

「やだー、たっくん。冗談だよ。こんなトコに置いていかれたらマコ困っちゃう。」
上目遣いに見上げる中居は、運転手付きの偉いさんから可愛い彼女にはやがわりする。
「つよちゃんか誰かが来てくれんじゃねーの。」
木村はつれない彼氏役だ。
「たっくんのいじわる。」
得意の嘘泣きまで出してきたところで、木村が先に噴出した。

「負けた」
「勝った。なんか奢って。」
「なんでだよ。」
「いいじゃん、同窓会だったし。」
「わけわかんねーって。」

2人の会話はお気に入りの曲をBGMに次々と繰り広げられていった。
時間が遅いせいか、行きよりも家路は短く、話が尽きないうちに車は見慣れたマンションに到着した。

「着いちゃった。」
どちらともなく名残惜しそうな言葉が口をついて出た。
「早かったな、帰り。」
「あー、すいてたしな。」
「楽しかったな、同窓会。」
「うん、短かったけどな。」
「中居が寝ちゃうから。」
「木村が起こすから。」
「だって、本当には寝てなかったじゃん!」
「ああやってんのが気持ちいいの!」
「こっちは重いの!」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「やっぱお前ヤダ」
「は?」
「寝てないとか気付くのヤダ。」
「何年一緒にいると思ってんだよ。」
「16、17年」
「そう、17年目。」
「長いな。」
「長いよ。」
「分かって当然か。」
「当然だな。」

降りるタイミングも降ろすタイミングも失い、2人は車の中でぼそぼそと喋っていた。
BGMも一周して停止し、お互いの声とそして沈黙ばかりが聞こえた。

「てゆーか、俺、降りようかな。」
「そうだな」
「ずっと駐車場で話してるっておかしくない?」
「まあな。でも懐かしい感じしない?」

「降りる」という言葉を理解しつつも、どちらも実行に移そうとはしなかった。
ひとしきり会話が続き、次に沈黙が巡ってきた時、とうとう中居の手が動いた。

「そろそろ行くわ。」
「あー。」
「じゃあ、またな。」
「あー。来週。」
木村が軽く手を上げ、そう返すと中居が顔をほころばせた。
「何?」
「や、さっきまであってた奴らとは次いつ会うか分からないのに、木村とはまた一週間もしないうちに会うんだな、と思ってさ。」
「当たり前だろ。じゃ、行くから」
そう言うと、木村は颯爽と車を動かし、しかし、駐車場の出口で律儀に止めると

パ  パ  パ  パ  パ

ブレーキランプを点滅させて見せた。
「アイシテル。馬鹿じゃねぇ?」
中居の視力ではよく見えないが、バックミラーにかすかに映る木村の口がそう動いたように見えた。

「ハラヘッタ。モウネムイ。ハシャギスギ。」
5文字の言葉を指折り、呟きながら廊下を歩く。







次の週。
スマスマ撮影時。

木村を見るなり、中居が話しかける。
「な、こないだの、ハラヘッタ?それとも、コショウシタ?」
「チゲーよ。ノミスギダって言ったの!」
からかうような口ぶりの中居だったが、木村のほうが一枚上手だった。
「なんだよぉ。」
拗ねたように言うと、木村を壁にし、もたれかかる。
「今度は俺が車出してやるよ。」
「あー。」
「・・・・・・」
「やっぱり嫌かもな。」
「あ?」
「俺が本当は飲みたかったのとか全部分かるの嫌かも。」
中居はそれに小さく笑って答える。きっと木村の言葉の続きが分かっていたからだろう。


「「でも、やっぱりいっか。」」


「また行くべ。」
「おう!」
「幹事しちゃう?」

2人の同窓会はまだ終わらない。







2004.11.10 UP
大変遅くなりましたが、「同窓会へ行こう」の続きです。
ずーっと暖めてたネタ(?)なので完成は早かったんですけど
打つのが面倒くさくて(^^;)
ちょうどお題シリーズに当てはまってよかったです。
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SMAPファンに55のお題
thanks to「Wish Garden」植木屋様
http://www.geocities.jp/wish_garden_new/odai/00.htm
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