*このお話にはメンバーの死に関する部分があります。
 苦手な方はご遠慮ください。各自でご判断をお願いいたします*



















最近雨が多かった。





税率が上がり、保険料も上がった。
老人が増え、子供は減った。
議員は当てにならず、隣人にも気を許せなかった。
格差社会は拡がり、顔色の悪い人が増えた。
満員電車は相変わらずで、それでも外車は増え続けた。
戦争が始まりそうでもなく、不景気の底にいるわけでもないのに世の中は暗かった。



真実しか放送してはいけないと、TVにも規制が生まれた。
TVに楽しさ、明るさを求めなくなった。
アイドルに、ドラマに夢を見る人が減り、TVの存在意義が危ぶまれた。
自分たちの未来にも暗雲が立ち込めていた。





俺は機嫌が悪く、そして今日も雨が降っていた。

























「行ってくる。」
「行ってらっしゃい。」

送り出してくれた顔はいつもと変わりなかった。
木村にだって生きにくい世の中になっただろうに。










きっかけがあった。





大事にしていた番組が終了する事を告げられた。
生きる事に必死な人が多い中、くだらない。
そう評価されたらしい。

上下に分かれた日本。
かたやTVを見る暇もない程、遊ぶことに必死で、
かたやTVを見る暇もないほど、働くことに必死だった。


長年続いた番組の終焉は自分たちの冠番組の今後を考えさせた。



切り出したのは俺だった。


「やれるだけやろうと」と誰かが言った。
「悲しい事言わないでよ」と誰かが言った。
「まだまだ頑張ろうよ」と誰かが言った。
「気持ちは分かる」と木村が言った。


メンバーと、
スタッフと、
マネージャーと、
社長と、
何度も話し合いの場が持たれた。


忘れられる前に、
もういらないと思われる前に、
過去の存在だと言われる前に、
打ち切られる前に、
終わらせたかった。

国民的アイドルという、今では何の効力も持たない飾り文句を
それでも持ったままやめたかった。





結果はなかなか出なかった。
その事が嬉しくもあり、悲しくもあった。
終わった方がいいのではないかと思いながらの収録はうまく行かず、
その原因は俺だと慎吾の目が言っていた。


「ちょっと気分転換もいいんじゃない?」
渡された大リーグのチケット。
はしゃいだふりして楽しめなかった。


笑顔を作る口の端が痛かった。


求められることには応えつつ、それでも、もう限界だと思った。
木村が準備してくれた風呂は、吾郎が気に入っているバスソルトの匂いがした。

「ゆっくり浸かってリラックスしてこいよ。」
体も心も疲れきっていた。















メンバーとの話し合いは、スタジオで、会社で、ホテルの一室で、
そして各自の家で行われた。


剛の家でみんなで酒を飲んでいた時だった。
珍しく木村が止めようとせず、
いつも通り慎吾と剛は酔っていた。
遅れてやってきた吾郎が
「僕も今日は君たちに付き合って焼酎にしようかな」
と言ったとき、電話が鳴った。


「あんた達、今どこにいるの?今から行っていい?」

マネージャーの引きつった声に言われなくても全て分かった。
自分から提案した割にショックが大きかった。
本当に必要とされていないんだ、とさすがに辛かった。

慎吾と剛は泣いていた。
吾郎は持ってきたらしいソムリエナイフを弄んでいた。
木村はじっと空を睨んでいた。

























その日は、木村の家に、木村と俺の家に集まっていた。
遠からず、解散の話が出てくることは分かっていたが、
誰もそれには触れず、いつも通りふざけあっていた。





俺はそれを、
ただ
ボーっと見ていた。


その後のことは
覚えていない。





気づいたら、吾郎が膝から崩れ落ちていた。
なるべく痛い思いはさせたくないと、一思いにバッドを振り下ろした。
剛は恐怖に顔を引きつらせていた。
慎吾は有らん限りの力で抵抗したが、
「大人しくしろ」
の一言に身を任せた。
もっといい言葉をかけてやればよかったと思い、他の二人には何の言葉もかけなかった事に気づいた。

向き直った時、木村が目の前に立ちはだかった。

「やっぱり最後は木村か。」

木村には勝てないと思い、初めて死に対する恐怖を感じた。

怖かった。

死ぬ事も、人を殺した事も、今になって怖くなった。
怖気づく俺を尻目に、木村はコップを二つ用意した。
蛇口から水を注ぎ、白い粉を入れる。

「一緒に死のう。」

そう言って、コップを片方差し出した。
おずおずと見返す俺を木村はしっかり見据え大きく一回頷いた。
俺はそれに頷き返し、一緒に飲み干した。

すぐには何も変化がなく、確実に死にたくて、もう一杯飲む俺を木村がじっと見ていた。
強い眠気のようなものを感じ、このまま死ねるならいいな、と思った。

「向こうに行こう。」

木村にベッドへと連れて行かれた。
二人でベッドで心中なんて、漫画みたいだと思った。
朦朧としながら白いシーツが引かれたベッドに手招きされた。
木村の腕の中に納まり、これで終わりか、そう思って木村を見たら、
口から血が吹き出ていた。


白いシーツ、白い枕に赤い血が綺麗だった。
























カーテンの光に目が覚めた。
死ねなかったんだと絶望を感じた。
木村は冷たくなって


いなかった。


横たわっている筈の木村はいなかった。
リビングから物音が聞こえた。

「木村?」
「あ、おはよ。」
「なんで?」
「え?」
「だって、俺。」
「悪い夢でも見たのか?」

そう言って微笑みかける木村に、膝が笑った。
立っていられずに床に手をついた。

「夢だよ。」
木村が見透かしたように言った。
「夢だ。」


TV好きの木村がTVを付けず、
いつも用意してくれている筈の朝刊が食卓になかった。
その事に俺は気づかなかった。

なかなか起き上がることができず、
寝転んでただ天井を見つめていた。





真っ白い天上を
ただ
ずっと
見つめていた。










「誰かに壊されるなら、俺が壊したかった。自分の手で、終わらせたかったんだ。」
「分かってるよ。」


















2007.7.26UP
元ネタは聖奈の夢です。
「中居君が次々とメンバーを殺して行き
最後にたっくんと心中する」
というなんともいえない夢を見ました。
ちなみに、最後の「天井」と「天上」一応誤字ではありませんので・・・。