プロモーションビデオの撮影をすると言われ、黒い衣装に身を包んだ五人は今、 揃ってスタジオの廊下を歩いていた。
「ロケって聞いたんだけど?」
吾郎の問いに答えられるメンバーはいない。
決められたように木村が先頭を歩き、しんがりをつとめる事も多い中居は今日は木村の横に並んでいる。
「これか?」
木村が中居に指し示したドアには
「弾丸ファイターズ(SMAP)の皆様」
と書かれた紙が貼ってある。
聞かれた中居も答えは知らない。
訝しながらも顎を軽く動かすと木村がドアを開けた。
耳に栓をしたり、誰かを盾にしたり、それぞれにその瞬間を迎えたが、爆音が鳴ることも、冷たい二酸化炭素が吹き付けられる事もなかった。
部屋の真ん中には机が一台。その上には封筒が一枚置いてある。
「気をつけろよ」
中居の言葉を受け木村が開封する。吾郎、剛、慎吾はただその手元を見つめた。
「指令:パーティーをするから準備をしろ。だって」
木村が読み上げた文面に多少強張っていたメンバーの顔が緩んだ。
「何どういう事?」
「一人一つずつ必要な物を買ってこい。買うものは先に相談していい。ただし同 じ場所に二人以上が買いに行ってはならない。戻って来たらまた指示を出す。だって」
木村から受け取って中居が再度黙読する中、慎吾は既に
「面白そ〜う!」
と盛り上がっている。
「じゃあ早速決めようか」
段取りがいいのは吾郎で慎吾に手伝わせ必要な物をリストアップしている。
内容を確認し終えた中居もその輪の中に入る。

「この時期にパーティーって言ったら、やっぱりクリスマスって事だよな?」
「だろうな。」
「じゃあ、俺か慎吾がツリー調達だな」
木村の言葉に
「せっかくだから大きいのよろしくね」
と吾郎が言葉を返す。
「出たよ〜」
慎吾がそう返すのはいつものパターンだ。

「じゃあ年齢順に買う物を決めていこうよ。」
剛が珍しく仕切った。
「俺ねぇ…」
言いながら最初に選ぶ権利を与えられた中居が上からリストを覗き込む。
「あ。これ。紙皿、紙コップ。これにする!1番軽そうだし」
「いい?中居君。普段スタジオに置いてあるような真っ白いのじゃないよ。ちゃんとパーティーっぽい可愛いの買ってきてよ。この時期なら探さなくてもサンタクロースとか付いてるのあるから。わかる?」
吾郎の指示に嫌そうな顔をしつつも中居は首を縦に振った。
「じゃあ次は木村くん」
「つよぽん、妙に仕切るねぇ」
慎吾の言葉は中居にひとにらみされ消えていく。
「慎吾、どうする?ツリー、俺 ?お前?」
「んとね、僕ね、他に買いに行きたい物があるからお願いしていい?」
「じゃあ俺、ツリー」
「木村君なら本物用意してくれそう」
吾郎の過度の期待に木村が苦笑する。
「じゃあ次は吾郎さん。吾郎さんはねぇ…」
「剛が決めてくれるの?」
わざとらしく吾郎が言い、他のメンバーが囃し立てる。
気にせず剛は話を進める。
「吾郎さんはねぇ、これテディベア」
「テディベア?!」
思わず吾郎の声が裏返った。
「え?ワインじゃないの?」
他のメンバーも予想を裏切られたじろいだ。
「てゆーか、テディベアなんかいらねえだろ?」
中居の言葉に反論するのは慎吾だった。
「テディベアはいるでしょ!クリスマスだよ?」
「ただのクマだろ?わけわかんねぇ」
「わかってないなぁ。あのねー、」

「はい、はい、はい。ちょっと質問」
右手を挙げて中居と慎吾の間に割って入ったのは木村だった。
「なんでぇ…なんで吾郎はテディベアなんですか?」
視線の先には剛がいる。
「なんでワインじゃないんですか?」
「んとね、それはね」
剛はあくまでもマイペースだった。
「吾郎さんがワインって言うのは、はっきり言って普通すぎる!ありきたり!」
「またズバッと来たねぇ」
とは慎吾の言葉。中居はただじっと聞いている。
「じゃあ、なんでテディベアなわけ?」
「吾郎さん、今年はナヌーやったでしょ?だから。だから僕は吾郎さんにテディベアを買ってきて貰いたい!」
熱のこもった剛の言葉に、中居が一言
「いんじゃねえ?」
と言えば、そこで話は終了。吾郎の担当はテディベアに決まった。

「じゃあ、次、つよぽん。つよぽんはどうするのさ?」
「そうだねぇ、じゃあ…僕はこれにするよ、帽子」
「帽子??!」
声を揃えて聞き返したのは中居と木村だ。
「そう。これってパーティー用の三角帽子の事でしょ?」
「「そう」」
当たり前のように聞き、当たり前のように答える三人に
「下三人怖ぇ〜」
と上二人はお互いを抱き寄せた。 残ったのは慎吾だ。
「最後、僕ね!僕はCD!BGM担当するよ」
「「異議なし」」
上二人が声を揃え、真ん中二人が頷けば第一回会議は終了。

「じゃあ、これでとりあえず買いにでればいいんだよな?」
木村の言葉を合図に五人は銀座の街に散らばって行った。









街中を歩き、目的地へ向かう五人にカメラが張り付く。
新曲を聞きながら街を闊歩し、時に曲に合わせて顔を作り、体を動かす。
身一つで銀座の街を歩く彼らはかっこよく、しかし頭の中ではどこで自分の買い物を済ますか計算されていた。



調子よく歩いていた中居は目指すポイントまで来るとカメラから目線を外した。
「これ、買い物してる所も映すの?マジで?俺、映されたくねぇ!」
しかし、カメラは無言で付いてくる。仕方なく中居は店内に入り目当ての物を探す。
若干不機嫌そうな中居の横顔はカメラを通して大人のかっこよさに変換された。
俯きがちに店内をさ迷っていた中居の瞳がサンタの笑顔に引き寄せられたのは、そんなに後の事ではなかった。
一直線に目指す背中はかっこよかったが、手に取った物は可愛い紙コップ。
いくつかあるデザインの中から1番可愛い物を選んで笑顔をキメる。
カメラいっぱいに映し出される中居の笑顔。
いかにも作り笑顔らしくはあったが、サンタにも負けない完璧な笑みだった。
紙皿、紙コップを両手に持ち機嫌よくサンタとのツーショット。
それを終えると、おそらく意識的に顔を素に戻しレジへと向かう。



ポケットに手を突っ込んだ木村は街を満喫する。
「ツリーねぇ。マジでどっかで本物売ってねぇかな?」
事前にスタッフとそんな会話をし、左右に隈なく目を光らせる。
その度に上がる歓声を聞きながらクリスマス気分を楽しんだ。
「お!」
リズムに乗って歩いていた木村の目の先には大きなツリー。
「本物じゃないけど、あれ位大きければいいんじゃないの?」
駆け寄っていき、ツリーの横で見つめる木村。しゃがみ込んだり、立ち上がったり、その姿は銀座の街でさまになった。
引きの映像に顔のアップ。後ろ姿に横顔。
カメラが満足するだけそこに佇むと木村は店内へ入っていった。
次にカメラが捉えた姿は大きな荷物をかっこよく持つ木村だった。



稲垣は気分よく中央通りを歩いていた。
堂々と一人歩きを楽しめるせっかくの機会に視線がカメラではなくウインドウに向いてしまいがちなのはご愛嬌。
「新作出たんだ」
ふらふらと寄って行きそうになるのは、さすがに抑える。
歩いているだけで気分が高揚し自然に笑みが浮かぶ。
「帰りに寄ろうっと」
春の新作に別れを告げ、目指す店舗に入っていく。
吾郎が求めるのは、可愛いよりも上質なテディベア。
それでも大きなクマに抱き着いてカメラを見つめるサービスショットは忘れない。
ひとしきり売り場のクマ達と戯れ終わると、吾郎の目が真剣になった。
気になるものを手に取り見定める。
ワインのテイスティングをするような真剣さは、しかし、相手がクマなだけあって、なかなか可愛い仕種となった。
見つめ合って面接を終えると吾郎は一体のテディベアを抱き上げた。
「君に決定」
カメラに紹介して買い物は終了。
袋に結ばれた大きな赤いリボンが真っ黒な吾郎の衣装に映えた。



剛は笑顔だった。ひたすら笑顔だった。
「楽しいね〜。いいよね〜」
言葉にしなくても顔が表していた。
浮き浮きと街を歩く剛の足は常にステップを踏んでいた。
時々沸き上がる歓声にも笑顔を撒き散らし、曲に合わせて大きく体を動かす。
「メリークリスマス」
つい、そんな事も口走る。
目的地に着いた剛は次々商品を手に取っていく。
帽子を被っただけでは物足りず 鼻眼鏡にヒゲまで付けておどけて見せる。
「いけない。みんなかっこよく撮ってるかもしれないよね。僕だけお笑いになっちゃう。」
そう言って笑顔を封印すると綺麗なラインの横顔を見せ、帰り道はカッコイイ姿を見せ付けた。



慎吾は新曲を聞きながら別の曲の事を考えるという器用な事をやって見せた。
「ずっと聞きながら買うの難しいなぁ」
と言いながら何か考えがある顔付きだ。
大人の雰囲気で歩きながらもクリスマスの飾りに笑顔が浮かぶ。
手を振る子供に振り返すその顔は満面の笑みだったが、店内に入ると一気に表情が引き締まる。
真剣な目付きでしかし戸惑うことなく買い物を終えると、またその目元は緩み、大きな口は笑みをたたえた。
「これきっとみんな喜ぶと思うんだよ。最高のパーティーにしてやるぜ!」
カメラに顔を近づけ、言い放つ。
「今のね、木村君風。」
楽しそうに笑いながら、慎吾は店を後にした。



五人がそれぞれ包みを抱えて同じ場所を目指す。
ばらばらの地点から別々の道を通って一点を目指す。



「ただいま〜。って俺、1番?」
慎吾がそう言った時、中居が帰って来た。
剛が
「遠くまで行っちゃったよ」
と戻ってきたのがその少し後で木村と吾郎は遅れていた。
「木村君、木を切りに森まで行っちゃってないよね?」
剛がそんな冗談を言った時、ドアが開き二人が入って来た。
近くで木村にあったという吾郎は
「もう、お前、ウインドウショッピング楽しみすぎ」
と注意されているが
「だって、どうしても目を奪われちゃうんだもん」
と悪びれる素振りもない。
「吾郎さん、寄り道しないで早く帰ってきてよ。」
「うん、ごめんね、剛」
二人の会話に嫌そうな顔をしてみせた慎吾は話を木村に向けた。

「次の指令っていうのはどうなってるんだろ?」
「それなら俺が戻って来た時にはここにあったけど?」
封筒を右手に持ち、答えたのは中居だった。
「お前、気付かなかったの?」
そう言いつつ封筒を木村に渡す。
「指令:まだパーティーは開けない。五人一緒に買い物に行け。だって。地図が入ってる。」
「確かにまだパーティーにはならないね」

五人の回りにあるものはツリー・テディベア・三角帽子・紙皿紙コップ・CD
「なんでこんな必要の無いものばっかり買って来てんだよ」
唯一実用性のある物を買ってきた中居が吐き捨てた。
「確かにな。」
木村は賛同するが、後の三人は口を尖らせた。
「そんな事ないよね?」
「「ねぇ」」












2007.12.21UP
12月にはいる前にはできていた筈が・・・
せめて発売日には間に合わせたかったのに残念。
PVをみて、「ただ歩いてるだけじゃ・・・」
と物足りなくなった聖奈の妄想です。
一応続く予定です。