花のくちづけ
「ありがとう」
テレビ用に満面の笑みを浮かべて受け取り、大きく掲げてみたものの、楽屋に戻るまで大きすぎるその花束の存在はすっかり忘れていた。
ドアを開けた途端目に飛び込んだ異質なものに、一瞬それがなんだか分かりかねたほどで、
「どうすっかな。これ」
つい、独り言も出る。
ゲストの二人が心をこめて選んでくれた物でないことくらい知っている。
実際に買ってきたADにしても同じだろう。
それでも置いて帰るには心苦しく、かといって持って帰るには大きすぎた。
「かみくぅ・・・もいらないよな。」
「何がですか?」
「これ、花。」
「ああ、いらないですね。」
あっけなく断られ、とりあえず両手に抱えてみた。
きっと前に立っているマネージャーからは中居の顔も上半身も見えないことだろう。
「どうすっかな。吾郎だったら喜ぶんだろうけど・・・。」
「とりあえず車に積みますか。」
「うん。」
「快気祝い」と名づけられた恒例の飲み会は、いつもより少し豪華に、しかし、まだ全快ではない中居のために短めに行われる筈だった。
「お酒、飲みすぎないで下さいね。」
と釘を刺されながらでも、顔馴染みが揃ったその場にいるのは楽しかった。
「中居君、まだ大丈夫?」
「大丈夫ですよ。」
明るくそう返したとき、新しくしたばかりの携帯がなった。
通話の着信ではなく、メールの着信だった。
少しこわごわボタンを押す中居を周りが面白そうに見ている。
表示された名前は、メールの着信履歴の常連だった。
「そろそろ薬の時間。」
一言だけのメールに時計を確認する。
怒ってるような、心配してるような、ちょっとむすっとした顔なんだろうな、と想像しながら返事を返す。
「もう帰る。」
長く打つのは、まだあまり得意ではない。一言だけ返すと、心配そうに自分を見ている人に向かって顔を上げる。
「やっぱりそろそろ帰りますね。」
「まだ痛いの?」
「そうじゃないんですけど、一応薬だけまだ飲んでて。持ってくるの忘れちゃったんで今日はお先に失礼します。もうちょっと居たいんですけど。」
(うるさいのが待ってるんで)という一言は飲み込む。
立ち上がると、みんなが注目しているのを確認してから、挨拶する。
「えっと、今日は一応僕の快気祝いと言うことで」
「一応」と強調して笑いを誘う。
「お集まり頂き有難うございました。今後はお休みのないように気をつけます。今日は、念のため、早めに帰りますので。これで、失礼します。」
かしこまって挨拶し、頭を下げる。あげたと同時ににこっと笑うと、拍手が起きる。
マネージャーに視線を移すと、車の準備のために立ち上がっていた。
再度頭を下げ、個人的に挨拶するべき人に挨拶すると外に出る。
「さんきゅ。」
後部座席に座ると、もう一度携帯を取り出す。
「いま車にのりました。」
送信ボタンを押すと、カバンにしまう。
「やっぱり飲み会楽しいな。」
「よかったですね。もう腫れも引いたし。」
「薬ももうあと2日くらいだろ?そしたら、こうやって呼び出しが掛かることもなくなるな。」
その日を心待ちにする様子の中居に再度釘を刺す。
「無理しないで下さいよ。」
「あいよ〜。」
中居からのメールに視線を落とす木村。
時計を見て、到着するだろう時間を確認する。
ピンポン
鍵を開けて入ってくるはずのドアが開くことなくチャイムが鳴る。
インターホンを取るとがさがさ音をさせている中居が見えた。
「はい」
「俺。開けて。」
映っていることが分かっていないのか、一生懸命花束を自分の背中に隠そうとする姿がほほえましい。
「おかえり。どうしたの?」
何気なさを装って出迎える。
隠しきれていない大きな花束が背中から見えているが、本人は気づいていないらしい。
「じゃん!」
効果音つきで差し出す。
「プレゼント。ってわけじゃないけど。」
後半は小声で誤魔化す。
抱えきれない花束を抱え、少し照れくさそうにする中居は、十分「プレゼント」に値した。
2007.1.19UP
「パソコンの中から発掘したよ」キャンペーン!
ということで。
どうやら、中居さんの結膜炎復帰のときに書いた物らしいです。
当時はまだ続けようと思ってたのか、なんなのか、
完成した覚えはなかったんですけど、
読み返してみたら出来上がってたという。
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SMAPファンに55のお題
thanks to「Wish Garden」植木屋様
http://www.geocities.jp/wish_garden_new/odai/00.htm
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