キャンドルナイト。
まだ日本に浸透しているとはいえないこのキャンペーンのCMを任された。
ecoが叫ばれているこの時代に、お洒落な嗜みとして広がればいい。
そう思い企画に乗った。
クリスマスやバレンタインのように定着するのは無理だとしても、
せめて浴衣を着て花火を見に行く程度には受け入れて貰えればと思う。
それにより、日本を、いや、世界を、地球を変える必要があるのなら、使うタレントは彼らしかいない。

その名はSMAP。
テーマは「大人が過ごす夏の夜」

『時には星の煌きに心を奪われてみませんか?
キャンドルの灯をともして友と語らい、月明かりを頼りに一人の時間を楽しんでみませんか?』

この言葉がCMの冒頭に来る。
話を聞いてすぐに思いついた言葉だ。
言って貰うのは当然、稲垣吾郎。
彼以外にこの言葉が似合うメンバーはいない。

全編BGMは静かなボサノヴァを流し、SMAPの声は流さない。
月光とキャンドルの灯り、抑えたBGM、そしてSMAP。
海辺のアジアンテイストなコテージを借りて撮影に望む。











時には星の煌きに心を奪われてみませんか?
キャンドルの灯をともして友と語らい、月明かりを頼りに一人の時間を楽しんでみませんか?


ホワイト、ピンク、クリーム、ブルー。
色も形も様々なキャンドルを揃え、映し出す。
香りが伝わらないのが惜しいが、画面に映る心地よさそうな表情から伝わることを願う。
キャンドルのアップから、それを持つ手、そして顔へと引いていき、全身を映す。
大小様々の灯りを各部屋へ届ける様子をそっとカメラは見守る。
揺らめく灯りを消さぬよう、そっと静かに部屋をめぐる。
それは、さながら神聖な儀式。
軽やかな白い衣装を身にまとう稲垣。
小さな灯と静かな音楽、そして穏やかな表情が画面に広がる。
それは、まさに癒しの時間。
キャンドルナイトの始まりを告げる。


人工光を廃したコテージ。
小さな光が各所で揺れる。
海のさざめきがボサノヴァに変わる。
画面の住人は草g。
木目調の家具でまとめられた一部屋で気持ちよさそうに身を横たえる。
サイドボードにはキャンドル、静かに漏れ聞こえるボサノヴァが今再びBGMとなる。
満たされた表情のアップから次第にカメラを引いていく。


揺らめくキャンドルを観客にウクレレを弾いてるのは香取。
穏やかな曲が静かに響く。
ポロンポロンと爪弾かれた曲がコテージを満たす。
バルコニーに出てそれを声を合わせるのは木村。
画面の左に木村、右に部屋の中の香取。
目線はあわなくとも、心の通じたハーモニー。
二人の織り成す旋律が夏の夜に流れ出す。


庭へのアプローチに置かれた小さな灯。
たどり着いたその先には月明かりの下の月見草。
月の光をその身に受けて、ますます輝く白い花を中居はじっと見つめていた。
その耳に届くのは木村、香取のハーモニー。
花を覗き込むその横顔をカメラはじっと捉えていた。
大きな瞳がゆっくりと瞬きをした時、花びらが一枚散り零れた。
少し驚いた顔をした中居は、また静かに表情を戻した。
そっと佇むその姿に月見草と、そして月を重ね映す。


風通しのいい場所に置かれたカウチには二つの影。
小さな声で、しかし話は盛り上がる。
すっかりくつろぎ横たわっているのは稲垣。
肘掛に座り、稲垣を見下ろす木村の頬には微笑み。
絡まっては離れ、一方が逃げると一方が追う。
見下ろす視線と見上げる視線の遊戯。
遊び疲れ、今、静かに視線が結ばれる。
少し下がった温度の中、香りを楽しむ稲垣。
その手にあるキャンドルが木村の手へと渡った。
稲垣による講義が始まる。


パシャパシャと水音が響く。
大きめのキャンドルが置かれたそこは、星空を天井にしたプール。
水中から顔を上げた香取は水を滴らせ、キャンドルに身を光らせる。
天を見上げ仰向けになり、揺れる水面に身を任せると、香取は一人天然のプラネタリウムを楽しんだ。
天空の星の、さらにその奥にあるものが見えているような瞳。
その瞳の持ち主は、今再び大きく息を吸うと、ゆったりとしたフォームで泳ぎ始めた。
その様子をカメラは静かに収め、プールサイドに上がる引き締まった体を追った。
背中から零れ落ちる滴がきらきらと輝いた。


テラスに置かれたテーブル。
肘をつき、置かれたキャンドルを目の高さまで持ち上げる。
少し寄り目になった瞳にその色が映る。
気持ちよく魅入っていた稲垣の手からキャンドルが取り上げられ、代わりにグラスが納まった。
後ろから現れたのは中居。
稲垣の微笑みに迎えられ、正面に座る。
美味しそうにグラスを傾け、語らいが静かに始まる。
斜に座った中居はふと目の前に広がる海に眼をやった。


中居の視線の先には人影。
月明かりと波灯りがサーフボードとその持ち主を照らし出す。
真剣な目で手入れをする木村。
その姿は砂浜に映え、時折その目がきらりと光る。それはまるで星明り。
手を休め、目を上げ、星を見つめる。
それは少し切なげな横顔。
しかし、再び手を動かす時に見せるのは精悍な表情。
その、相対する表情と引き締まった体をカメラはいつまでも捉えて離さなかった。


稲垣の部屋には薔薇色と乳白色の二色のキャンドル。
手元を優しく照らすと、どっしりと存在感のある机に向かう。
手に合った万年筆と、お気に入りの便箋。
さらさらと動かし手紙を書く。
キャンドルに照らされた横顔。真剣な瞳が少し濡れて見える。
手を止め、遠くを見つめ、物思いにふけるその姿をアップで映す。
相手を想い、自然と笑みがこぼれる、その様子をカメラが収めた。
部屋が明るくなったように見えた。


ダイニングには草gと香取。
向かい合い静かに会話が進む。
手持ち無沙汰に手遊びしつつ、顔を上げては目を合わせる。
机に片肘をつきぽつぽつと語る草gと、椅子の上で胡坐をかき、とつとつと話す香取。
二人の間には揺らめくキャンドルがひとつ。次第にその灯を小さくしていく。
笑いのない淡々とした二人の世界をカメラは遠くからそっと見守った。


海辺に二人の姿。海を見つめて砂浜に座る。
傍らにはキャンドルが二つ。
月明かりにゆらめく海。
よせてはかえすさざ波が小さな会話を消し去っていた。
小さなBGMにのり、二人の顔が画面に映る。
海を見つめる大きな瞳は、時に相手を見遣っても、二人の視線は交わらない。
日焼けした肌が夜風に気持ち良い。
中居がその心地よさに頬を緩めたとき、木村の顔にも微笑が浮かぶ。
画面が切り替わるその寸前、二人の視線がそっと絡まった。


コテージ前に5人が集まる。
その手には花火。次々に火をつけて夏の夜を楽しむ。
ボサノヴァをBGMに花火と五人の男たち。
スロー再生とモノクロ映像がアダルトな空気を煽る。
煙がフォーカスをかすませ、幻影的な効果を誘う。
短い輝きを見つめるアップ。
言葉もなくそばに寄り添うツーショット。
笑顔に包まれるスリーショットそして、次第に距離を縮めるファイブショットを存分に取り込む。
大人の夜の楽しみ方。
花火が子供の遊びではなくなった瞬間だった。


夜が更けるころ、キャンドルナイトも終わりを告げる。
コテージ内のキャンドルを集めて周り、五人が集まる。
その手にはキャンドル。
優しい横顔、穏やかな横顔、引き締まった横顔。
キャンドルを見つめる横顔を順に映す。
輪になった五人はお互いを見遣り、そして誰かが小さくささやいた。
「せーの」
キャンドルは消され、夜の帳が下りた。
けれど、それは闇ではない。
画面に、五人の微笑が映った。


時には星の煌きに心を奪われてみませんか?
キャンドルの灯をともして友と語らい、月明かりを頼りに一人の時間を楽しむ。
きっとそれは至福の時間。
極上の夜へ貴方を誘(いざな)います。















2008.8.20UP
いいCMが見たいとぼやきすぎた結果、
自分で作っちゃいました。前々作くらいから、
友達が「担当さん」として付いてくれるようになったので、
作品作りがはかどります。
一応、メイキングを用意していますので
楽しみに待っていていただけると幸いです。