「今日はよろしくお願いします!」

若手お笑いと呼ばれる人達が挨拶に来る。

「あ、お願いしまーす。」
「テレビ見てますよ。」

少し緊張気味な面持ちに笑顔で返す。
何組目かの挨拶に、つい同じように返そうとして、慌てて言葉を繋いだ。

「あ、いつもうちの吾郎がお世話になってます。」

しっかりと下げた頭に、更に相手の頭が低くなる。

「いえ、こちらこそ、楽しくお仕事させて頂いてます。」
「大丈夫ですか?あいつ、やりにくくないですか?」
「そんな、とんでもないです。かっこよくて、可愛くて面白くて。」

中居はまるでその言葉を待っていたかのように満足そうな笑みを浮かべると、
恐縮している相手を開放する事にしたらしい。
目の力を少し弱め穏やかな笑みを作る。
もう、いいよとばかりに出口を見ると、見慣れた細身の体がもたれ掛かっていた。

「お前、立ち聞きすんなよ。」
「だって、なんか中居君、圧力かけてるからおかしくて。」

ふふん、と鼻を鳴らして笑うと、そのまま中に入って来た。
「吾郎。勝手に入ってくるなよ。」
非難がましい声を気にもせず、
「ま、いいじゃない。」
さらっと断ると、笑顔を作る。

「ごめんね。うちのリーダーが変な事言って。」
「いや。全然。」
「うちの従業員虐めないでね。」

中居に向けてまた笑顔を作ると、

「じゃあ後でね。」
そう言って二人の足を外へと向けた。

「で?お前は出ていかないの?」
「行かないよ。」
「お前さ、いっつもこの番組の前、俺の部屋にいない?」
「かもね。」

会話を返しつつ、吾郎は大して面白くも無いはずの中居の楽屋を物色している。 
「いつも楽屋来たりしないじゃん。」
「だって、いつもは剛と一緒だし。」
「なんだよ。俺は剛の代わり?」
「そうじゃないよ。あれ?なんか気に障る事でも言った?」
「いや。別に。」

言い合ってもしょうがないと思ったらしい中居は言葉を短く切った。
すっかり寛ぐ吾郎に中居も被っていた兜を脱いだ。

「お茶入れてよ。」
「僕が?」
「そう。」
「どうして?」
「吾郎が入れた方がうまそうだから。」

きょとんとして自分を見つめる吾郎に、中居は当たり前だと言葉を返した。
一瞬言葉を呑んだ吾郎は、それでも語気を変えずに続けた。

「確かに君より上手く入れられるけど。」
「けど?」
「今日は僕が入れて貰いたい気分なんだけど。」
「なんで?」
「僕、お客様でしょう?」

当然の事言わせないでよ、と瞳がまっすぐに中居を捕える。
中居はそれを面白そうに見遣ると、意地悪な表情になった。

「俺がお前に入れてやると思う?」
「くれないの?」
「あげないなぁ。」
「そう。なーんだ。」

じゃあ、と立ち上がる吾郎に声をかける。

「戻るの?」
「だって自分で入れたくないんだもん。中居君が入れてくれないなら、戻ってマネージャーさんに入れて貰うしかないじゃない。」

酷く責める口調に中居は目を大きく見開いた。

「何、いきなりキレてるの?」
「キレてなんかないじゃない。」
「キレてるじゃん。」
「違うよ!もう!今日僕が頑張れなかったら中居君のせいだからね!」

可愛すぎる捨て台詞をそうとは気付かずに吐き捨てると、吾郎はドアを乱暴に開け、出て…行こうとして立ち止まった。

中居に挨拶に来た人達がドアを開けられずに待っていたのだ。
困って中居を振り向く。
苦笑した中居はよっこいしょとばかりに立ち上がり、ドアまで行くと、吾郎の肩に手をかけた。

「ほら〜。吾郎ちゃんがいきなりキレるから、みんな入って来れなかったじゃん!」

わざとらしい口ぶりを真に取って表情を曇らせる。

「ちょっと中居さん。稲垣さん、悲しそうな顔になっちゃったじゃないですか。」
見ていた来客者の方が慌てる。
「え?吾郎、泣いちゃう?」
「泣かないよ!」

尖った声に中居が笑う。

「だからキレるなって!」
「だって中居君が!!」
「分ーかったって!!分かったから、お茶も入れてやるから中、座ってな。」

拗ねる吾郎の背中を押すと、簡単に挨拶を済ませてしまおうと思いながら顔を向ける。しかし、そのつもりが、次第に話が長くなり、
「ちょっとぉ、中居君、話長くない?」
後ろから野次が飛ぶ。
「うっせー!」

返す中居にも見ている来客者にも笑顔が浮かぶ。我が儘も笑いに変えられる空気を感じ取り、言葉を重ねる。

「お茶〜。」

子供っぽくねだる声に、話がきりあがる。

「じゃあ、お願いします。」
「お願いします。」
「稲垣さんも、よろしくお願いします。」
「あ、お願いします。」

やっと挨拶が終わり、部屋の中が急に静かになる。

さ、入れてやるかと振り向くと、小さな机に肘をつき上目使いに自分を見上げる吾郎が待ち構えていた。

「ぅわっ。」
「早くね。」
「はいはい。」

自分が入れた、大して美味しくもなさそうなお茶に満足そうな笑みを浮かべる吾郎に、つい一言いいたくなる。

「お前、これ飲んだんだから勝って終われよ。」
「うん。大丈夫。僕、スターだから。」
「自分で言うなよ、自分で。」
「だって僕、SMAPだよ。」

二人きりで続く会話はどこと無くこそばゆく、それでいて心地良かった。
幼い頃、兄弟達を退けて、母親を独占できた時のようなそんな気持ちを思い出す。

「じゃあ、行くね。」

中居の入れたお茶に満足したらしい吾郎は笑顔で部屋を出て行った。

その後姿を見つめながら、次にこの番組に来るのは誰だろうかと、そんな事に思いを馳せて、中居は口元が綻ぶのをとめられなかった。











2006.4.17UP
言わずと知れた「春祭」からの妄想です。