初恋




「君を好きになってもいいですか?」

彼女がそう言った時、僕は彼女の睫毛を見ていた。
長くて可愛い、そう思っていた。

だから、その言葉を聞いた時、本当にビックリした。

その日、僕と彼女は同じ仕事をしていた。
でも、僕は途中で嫌になっちゃったから、遊んでいて、彼女はムッとした顔をしながらそれを見ていた。
だから、お小言でも言いに来たんだろう、そう思っていた。

だって、彼女は可愛くて、有能で、みんなに人気があって、僕じゃない誰かの事が好きなんだと思っていた。
おまけに、まっすぐ歩いてきて、まっすぐに僕を見つめながらそう言った。

何度だって、同じような事は言われてるけど、みんな恥ずかしそうに、不安そうに、でも嬉しそうに、ちょっと顔を赤らめながら来たのに。
今だって、僕はいつもと同じように、彼女を焦らして見せてるのに、顔をうつむけるわけでもなく大きな目でじっと僕を見ている。

この子を彼女にするのに問題なんて、どこにもない。
たった一つの理由を除いては。
だから、僕はいつもと同じようにこう答えた。今までの19回と同じように。

「いいよ。いいけど、僕には他に好きな人がいる。」

ここで泣き出すような子は嫌いだ。
でも、彼女は平然とこう言った。

「ええ、知ってます。」

本当に僕のことが好きなのかな?そう思ってしまうくらい表情を変えなかった。
でも、本当に僕のことが好きで、ずっと僕を見ていたなら、それくらい気付いてて当然かもね。

それで、僕と彼女は付き合うようになった。
彼女は可愛いし、性格もいい、趣味も合うし、価値観も一緒だ。僕に対する理解もある。
だから、その日々は結構楽しかった。
他に好きな人がいるのをわかっているのにそれでも束縛しようなんて、そんな馬鹿なこともしなかったし、
いつか自分だけを見てくれる、なんて夢も抱いていなかった。

だから、思いのほか、楽しくて、彼女も楽しんでいるように見えた。
彼女の笑顔は素敵だった。素敵過ぎて、時々あの人を思い出したけど。
でも、その笑顔は突然泣き顔に変わった。

「やっぱり、君が私以外の人を見ているのは辛すぎる」
「なんでだよ、そんなこと初めからわかっていたことだろう?」
そこらへんの男ならそういうかもしれない。でも、僕はそんなこと言わない。
ただ、どうして、突然笑っていた大きな目から涙が溢れ出したのか考えていた。
いつだって、笑顔だったのに。いつだって、楽しそうにしていたのに。

そう、僕は彼女が演技が上手いことを忘れていた。
泣きたい気持ちを抑えて笑う事なんて、お手の物だった。
作り笑顔だって得意だったんだ。

そうか・・・という事はあの人も。
なんてまたあの人のことを思い出したりもしたけど。

彼女の唯一の欠点は、僕にあの人のことを思い出させること。でも、僕は君との生活が楽しかったのに。
そう思うと、ちょっと、いらいらした。いらいらして、髪に手をやったら、髪形が乱れた。

「ああ、もう、君のせいで髪の毛が・・・」
僕はそんなこと一言も言わなかった。なのに、彼女は、今、そう思ったでしょ?そう言い当てて見せた。

これだけ物分りがいい子なんてなかなかいないのに。
ワインを飲みながら交わす会話も楽しかったのに。
服のセンスも良かったのに。

みんなあの人よりいいのに。

「君のことを好きになれてよかった。君に少しでも好きになってもらえてよかった。君といれて良かった。ありがとう。」

そうだね、僕には君を引き止めることなんてできない。
みんな、いつだってみんな、知らないうちに胸元に入ってきてて、僕が出してあげるって言う前に出て行っちゃうんだから。
その後の寂しさなんて、だれも気付いてくれないんだから。

そう言う所までも、あの人を思い出させるのに。

「じゃあね、ばいばい」
僕は本当はちょっと泣きそうだったのに、かっこよく
「ああ、またね」
といい、片手をかっこいい角度に上げ、かっこよく微笑んで見せた。

「かっこいいよ、君。早くあの人にも伝わるといいね。」

そういった彼女はやっぱり可愛かった。

ちっとも可愛い顔を見せてくれないこの人を見て、
「やっぱり惜しかったかな」
なんて思ってたら。
「なんだよ、お前、女のにおいがする。また可愛い子騙してきたんだろ?」
なんて言うから。
「うん、まあね。でも、ふっちゃった。」
ちょっと気障な男風に言ってみた。
そしたら、目の前の人の顔が急に変わった。
「なんだよぉ。ふってきたんだろ?」
「うん、そうだよ。」
「振られてきたんじゃないんだろ?」
「当たり前でしょ。失礼なこと言わないでよ。」
「じゃあ・・・何泣いてんだよ?」
「え?」
最初、言ってる意味が分からなかった。だって、僕が泣くわけない。
なのに、暖かい手が僕に触れるから、恐々頬を触るから、
だから、涙が止まらなくなっちゃったじゃないか。

涙が止まらないのも、彼女と別れたのも全部君のせいなんだからね!
「しょうがないな。」
そんな風に背中を優しくとんとんするなんてずるいよ。

だから


「君を好きになってもいいですか?」


彼女のおかげで気付いた、君の作り笑顔を、僕がはぎ取ってあげる。








2004.12.8 up
Happy Birthday to GORO!!
吾郎ちゃんのお誕生日、何UPしようかな、と思っていて
突然思い浮かんだお話です。
吾郎ちゃんにはね、女の子を泣かせていて欲しい(笑)
それを見ても、淡々としていて欲しい。
女の子に困らない吾郎ちゃんで今年もいてくれますように(?)
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SMAPファンに55のお題
thanks to「Wish Garden」植木屋様
http://www.geocities.jp/wish_garden_new/odai/00.htm
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