「俺達、仲間じゃん」
照準の中には無理矢理の笑顔。その瞳には確かに懇願の色が浮かんでいた。
「仲間って何?」
「……」

顔色を失った「仲間」。
顔面蒼白とはどういう意味なのか分かった。

「BURRN!」
「……」
死んでしまったかと思った体は震えと共に解凍された。
「嘘だよ。びっくりした?」
あの頃と変わらない筈の笑顔。

BURRN!

「マジやめろよ。仲間でやり合うとか無しだろ。」

きっと言いたかっただろう言葉を代わりに言ってやる。
最期の顔は、安心と驚愕が入り混じっていた。


鏡の中の自分と目が合った。
絵に描いたような廃屋はまるで映画のセットのようで、そこで一人腹を抱える長身の男はさながら映画俳優のようだった。
渇いた笑いがいつまでも響いた。


銃弾は二発。四人が見た鏡は蜘蛛の巣柄になっていた。















「この期に及んで仲間だとか言うんだもん。」
笑っちゃうよね、と目が笑っていない笑顔でグリーンが話す。
「先に裏切ったのはどっちかって話だよ。全く。ねぇ?」

返す言葉に迷い、返事をイエローに任せる。
前を行くブルーの横顔が傷付いていた。









サンサンと降り注ぐ光。
緑萌ゆる木々。
あどけない子供達とにこやかな母親。
長閑過ぎる昼下がり。
少し離れて座る男は昼休み中のサラリーマンのようには見えなかった。


「浮いてるんだけど、あの人」
気配を消すと、そっと背後から近寄った。
「BURRN!」
指鉄砲を構えたまま前に回る。
「BIRDMAN失格じゃない?ブルー」
「うるせー」
声にいつもの力がなかった。
「間違ってなかったと思うよ。」
「何が。」
「どうせグリーンの事、また後悔してたんでしょ?」
思ったとおりの心底嫌そうな顔。
「お前のそういう所が嫌いなんだよ。」
「そ?僕は君の事、好きだけど。」















「お前はさ、見張りの係」
「見張り?」
仲間の内の一人は、まだ少年に成り立てだった。それでも使いようはいくらでもある。
「そう。敵が来たら大声で知らせろ。そしたら助けに来るから。」
「うん。」
「お前のお陰で俺達は安心して盗める。お前の事は俺達が助ける。な?持ちつ持たれつ助け合い。いいだろう?」
「うん」
頷く顔は真剣そのものだった。
「お互いに信頼しあってるって事だ。」
「信頼。」
「そう、信じ合うって事だ。」
「うん。信頼!」
少年に成り立ての子供を相手にするなんて初めてだが、人を動かすのは慣れていた。

「じゃあここで見張りを頼むぞ。敵が来たら大きな声を出すんだぞ」
「分かった。」
大きな瞳は真剣そのもので、口角はきゅっと上に上がっていた。
「俺たち、仲間だからな。」
「うん、そうだよね。仲間。」


それを傍から見ていた少年が一人。
こちらは青年に近づいた少年。
ライバルの仕事を見てやろうと、離れた場所から様子を見ていた。
しかし、偶然そのやり取りを聞いてしまった。


「やり方、汚ねぇ」
口にはしないが、そっと唇をかんだ。

それでも悪いのは、小さな少年。
この世界、騙されたら負け。
「人を騙してはいけません」
「嘘をついてはいけません」
そんなルールは通用しない。

「気付けよ、助けに来るわけ無いじゃん。」
それでも、捨て駒にされた少年から目が離せなかった。


冷たいと常日頃言われていた。
目的の為なら手段は選ばなかった。
成功に犠牲はつきものだ、そう豪語してはばからなかった。


「来いよ。」
それなのに、気が付いた時には手を引いていた。
ポカンと見上げる顔を一瞥し先に立って細い腕を引っ張る。
「お前、このままじゃ殺されるぞ。」
背を向けていたからどんな表情を浮かべたのかわからない。ただ小さな声が聞こえた。

「見張りなの、僕」
「知ってるよ。でもお前に見張りは無理だよ。」
「でも敵が来たら知らせないと。」
「知らせても誰も助けに来ないぞ。死にたいのか?」
「だって!」
「声がでかいよ」
顔が泣きそうに歪んだ。子供の扱いには慣れていなかった。

その時、人の気配を感じた。
さっと身を隠し、少年を引き寄せる。

「絶対に声を出すな。動くな。気配を消せ。」
張り詰めた空気に圧倒され声も出ない様子だった。

黒一色の男達。
太刀打ちできそうには見えなかった。

凄いの相手にしたな、と妙な関心をしていると足元で子供が震えていた。

微笑み、安心させる余裕も、抱きしめる優しさも持っていなかった。

自分の珍しいお節介を悔やみ、唇を噛んだ。
少年を庇いながら逃げおおせる自信はなく、ただ気付かれないよう祈る事しか出来なかった。

空気が動いたのを感じて下を見る。その時、少年の口元が微かに動いた。

「来た〜!」


BURRN!
BURRN!
BURRN!


響き渡るのは銃声ばかり。
「仲間」の足音が聞こえる事はなかった。

「な?助けになんか来ないだろ?逃げて正解だっただろ?」

顔色を失った子供にかける言葉なんて持っていなかった。
心がパリンと砕ける音が聞こえた。





男達は去った。
鼠が一匹死んでいた。
本当だったらこれは僕。
甲高い声に助けられ、仲間は上手く逃げおおせたらしい。
成功に犠牲は付き物。
今日見た鼠。明日は僕?










「死ぬには早過ぎる年齢だったんでしょう?」
「この世界、死ぬに早いも遅いもないよ。」
「でも今、彼は幸せだと思うよ。いい仲間にも恵まれて。」
「自分で言うな、お坊ちゃま。」
「やな事言ったね。人を信頼したまま死なせてやったほうがよかったかも、なんてあまっちょろい考えの人に言われたくないよ」

ここで「ごめん」というようなブルーは嫌いだった。

「それより、お前、ここで何やってるんだよ。」
「おさんぽ♪」

まだ嫌いにならずに済みそうだった。









「一人人数が足りないと思ったんだ」
ブルーが持ってきた仕事に明るい声が上がった。
「でも、ま、人数が減ることなんてよくあるし・・・と思ってたんだけど。なんなら俺が囮になろうか?ほら、仲間だったしさ」
いちいち傷つくブルーがもどかしかった。
「それが、一番うまく行くならそれもありかと思うけど」
レッドが話を続ける。
「今さら、仲間とかって、それこそ怪しすぎるだろ。この間のが、うちのチームだってわかってるだろうし。」
「得策とは思えないね」
その言葉に違う声がかぶった。
「うまくやる自信があるんだ。」
口角がキュっと上がっていた。



恨んでるつもりも、傷ついたつもりもなかった。
でも、ただやりあうだけじゃつまらない、そう思った。
どうやら、本能では仕返ししたかったらしい。



五人の力を持ってすれば、敵陣に乗り込むのは簡単だった。


「よっ」
あっという間に思い描いた人物が目の前にいた。
「何?また見張り?」
口を歪めて笑う人だった。


「うーん、ま、そんな所?今、この間に多分他の仲間は色々頂いてるよ。」
「仲間…ねぇ。」
「そう、仲間。俺たち、昔仲間だったよね?助けてあげようか。」


「そんな簡単な罠にはまるかっつーの。」
馬鹿にしたように笑った。
「そ?」
「お前に助けてもらうくらいだったら死ぬし。」
「なら、いいけど。別にあんたが生きてたところで痛くも痒くも無いから、もうちょっと生きてたいなら、見逃してあげようかと思って。」
「口が過ぎるんじゃないのか?」
「せっかくだしさ、もうちょっと喋ろうよ。」

わざとらしく子供っぽい口調を使う。
できることなら応援が来るまで待ちたかった。

「やろうぜ。それとも、お前、お仲間が助けに来るの待ってるのか?」
「うん、まぁね。」
「学習能力無いんだな。前にも裏切られたじゃん、お前。」
「……。」
「あの時、何を学んだんだよ。」

タイミングよく、鼠が顔を出した。
まるで計ったかのように。
しかし、それでももうフラッシュバックはしない。

「今日見た鼠。明日の……お前」
「なんだ、それ。それより、来ないじゃん。やっぱ捨てられたんじゃないの?また。」
「来るよ。」
「来ないよ。仲間なんて裏切るもんなんだよ。」
「俺の仲間は、あんたの仲間とは違う。」

BURRN!
BURRN!

「ほら。まだ信じてるのかよ。」
「信じてるよ!」

BURRN!
BURRN!

「裏切られたんだよ。お前はいつでも捨て駒なんだ。」
「違う!俺はもうあの日の鼠じゃない!」


足音が聞こえた。
一番に顔を出すのはブルー。


「悪い!待たせた!」
「ほらね。」


BURRN!


冬の夜に向日葵が咲いた。





2008


2008.5.29UP
BIRDMANシリーズ第2弾です。
もう無理と思った矢先に降りてきました。
またしても、友にお世話になりました。
thanks a lot!!
素材⇒【おしゃれ泥棒】
http://www.galu.net/osyare/