「木村、送って。」 抑揚の無いその声からは何も読み取れなかった。 マネージャー変わったんだっけ?相変わらず人見知りだな。 そんなことをぼんやりと考えながら、駐車場へと向かう。 中居はなぜか運転席に回ってきた。 「何?」 「車、買い替えようと思うから運転し心地どうかな、って。」 まるで話にもならない嘘だった。 「いいから、さっさと乗れよ。」 「運転したいの!」 「こんな車、お前の趣味と全然違うだろ!何、子供みたいなこと言ってるの?」 膨れっ面で助手席に座る中居を見て、このまま家につれて帰ったほうがいいのか、どこかへ連れて行こうか、一瞬でそんなことを考える。 刷り込まれてるな、そう思って軽く笑ったのを中居は見たのだろうか。 「やっと顔が変わった。」 前を見たまま呟いた。 「何?」 「どうした?」 「こっちが聞いてるんだけど。」 顔がきつくなったのを自分でも感じた。 「ほら、その顔。」 大きな目で覗き込まれるのが鬱陶しかった。近くで見るその目の下にはくっきりと隈があって、やはりどこかへ連れて行くことにした。 「送ってって言っただけなんだけど。」 家とは別の方向に走り出したのを見て不満そうにしている。 暗に連れて行くことを強要したの誰だよ、言い返す気にもならなかった。 中居が入れたCDからは懐かしい曲が流れてきた。 高校から現場への移動車の中でしょっちゅう聞かされていた曲だ。 好きでもないのにいつの間にか完璧に歌えるようになっていたそのアルバム。 「中居?」 「ん?」 「寝てていいぞ。」 「うん。」 そう答えると大きく伸びをしたから、すぐに寝息が聞こえてくるものと思った。 「な?聞いてる?」 「え?!」 「運転してる時にぼーっとするなよ。危ないな。」 「うん。で、何?」 「これ、このCD、まだあるとは思わなかった。」 「え?お前のじゃないの?」 「ちげーよ、ここに入ってたの!」 「「あっ」」 二人が共有する思い出。二人が同時に思い出した過去。 「木村、忘れてたんだろ?ひどい男だな。」 「中居だって忘れてたんだろ?」 「覚えてたよ。」 そういう中居は高い位置で腕を組んでいて、それは分かりやすい嘘判別方法だった。 「ほら、腕、高い位置で組んでる。」 中居は「見つかった」と言いながら子供のように笑った。 「お転婆な顔してる〜!」 そういった俺の顔も小学生のようだっただろうか。 「でもあの時の車、これじゃなかったのに。ちゃんと新車にも積んでくれてるんじゃん!優しいのな、木村。」 「う、うん。」 「でも存在忘れてたっぽいから、やっぱり酷い!」 「どっちだよ!」 当時の中居はこのCDを手放そうとはせず、これを聞いては笑い、泣き、眉間にしわを寄せ、そして嬉しそうにしていた。 俺がすっかり聞き飽きても掛ける事をやめず、たまのドライブの時に聞けないのを残念がった。 何度目かの不機嫌に、とうとう二人で二枚目を買いに行った。そんなことも、このCDの存在もすっかり忘れていた。 やっぱり疲れているのかもしれない。素直に考えられ始めた頃、目的地が見えてきた。お決まりの海。 いつも一緒で能がないなんて思っていたら、見透かしたように声が聞こえた。 「好きだよ。」 「え?」 「木村と来る海。」 「ああ。」 「今、俺からの告白と思った?」 「ま、まさか。」 「ほら、言い当てられて焦ってる。木村のそういうところ、可愛いよな。好きだよ。」 「え。」 完全に中居に飲まれてる。 「木村のそういう顔も好き。あ、今のも告白とはちょっと違うから。」 一体どういうつもりで言ってるのだろうと見た顔は、綺麗な横顔だった。 まっすぐに前を向いて、遠くどこまでも見えていそうだった。 透き通った瞳は曇りが無く、今、心の中もこんなに綺麗なんだろうな、と思った。 その整った横顔をじっと見ていたら、盗み見している気分になって、下を向いた。 「なんかあったんだろう?話したかったら聞くし、話したくなかったら何も聞かない。木村の好きにすればいいよ」 遠くを見つめたまま、中居は目の前の海と同じくらい穏やかな声で話した。 いつもなら話したりしない。それは中居も同じ事で、お互いに悩みを打ち明けたりなんかしない。寄り添うだけで立ち直れる。 ただ、今日は何かがいつもと違ったらしい。ぽつぽつと言葉が口の端から零れて行った。 そのうち、目の端からも ぽろぽろと零れ落ちる物があることに気付いた。 中居がギュッと俺を抱きしめ、 怖々指で拭ってくれた。 「きっとさ、木村はすぐに壁を乗り越えるんだろうけど」 中居の息が頬にかかり、少しくすぐったかった。 「一つだけ言っとく。俺は、ずっと木村の味方だから。何かあったら、木村が求めたら、いつでも助けるから。多少なら金もあるし、ツテもコネもある。 ま、大して木村と変わらないけどな。馬鹿だけど、何かアイディアも浮かぶかもしれな い。だから…」 「泣くなよ」と小さい声が聞こえた。 「……うん」 「おまじないしてやるよ」 中居はそう言うとチュッと唇に触れて行った。 「おまじない。効くぞぉ!」 ニコッと笑う綺麗な顔に、俺は二度目のおまじないをかけられた気分だった。 う〜っ 中居は大きく伸びをすると、立ち上がった。 「帰ろうか。」 出された手には、少し砂がついていた。 「うん。」 「俺、明日も仕事あるし。」 「うん。」 帰り道は、自分が運転すると譲らない中居が運転席に納まった。 うとうとしながら、起きる度に中居の横顔が目に入った。 完璧な横顔が、自分のすぐ横にあることを実感しながら、見る夢は、とても素敵な夢だった。 中居の我が儘に付き合っているつもりで通った道。 今は、ちゃんと分かる。 送って、とそういわせたのは俺だった。 |
2005.10.26 UP
ずっと前に前半部分を書いたまま、
ずっと持ち越してました。
かっこいい中居さんを書きたいと思ったんですけど・・・
どうでしょう??
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SMAPファンに55のお題
thanks to「Wish Garden」植木屋様
http://www.geocities.jp/wish_garden_new/odai/00.htm
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