「全員揃ったか」
「ああ」

中居の言葉に木村が返す。

「5人なんだから、わざわざ確認しなくたってすぐわかるじゃん、ねぇ、つよぽん」
随分前なら口にしたそんな言葉も、今は黙って、お口にチャック。

「深刻そうな顔してるけど、どうせたいした話じゃないんでしょ?」
そんな皮肉も胸に封印。

「SMAP5人で紅白の司会を担当することになった」

中居が重々しく口を開いた。
渋い表情で、低い声。
しかし、それで緊張する4人ではない。

けれど、

「へぇ〜そうなんだぁ、凄いねぇ」

などと言ってはいけない。

神妙な顔を作り、「ごっこ遊び」を楽しむのがSMAP流。

「5人で紅白両組の司会を担当するということだ。」
「異例だな」
「そうだ。そこでだ。今から、紅組の司会と、白組の司会に振り分ける。」

やっと4人の目が面白そうに輝きだす。
しかし、まだ中居が作り出している重い「風」の空気を崩してはいけない。

「まず、吾郎」
ひたと視線をすえられて、
「はい」
こちらも真剣な表情を作る。
「お前は紅組。」
「はい。」
「いいな。」
「はい。」
「任せたぞ。」
「はい。頑張ります。」

何かもう一言言わないと、すぐ次に行ってしまいそうな雰囲気に吾郎が慌てて口を開く。

「え?でも、なんで?」

ここで、「ごっこ遊び」が中断される。
中居の口調も途端に変わる。

「だって、お前、女優だろ?」
「しかも、OLなんだよね、吾郎ちゃん。」
「うん、そうだけど。」
「って、認めたよ。」
「だから、紅組。」
「そっか、うん、ま、いいけど。僕が一番女性の気持ちがわかるしね。歌姫たちをエスコートするよ」

とくに異存がないらしい吾郎は、逆に紅組担当になったことに喜んでいる。

「次、木村。」

また、中居が少し声を低くする。「ごっこ遊び」の再開だ。

「はい」
「お前は、白組。」
「はい。」
「頼むぞ」
「はい」
「で、いいけど、理由は?」

また空気が日常に戻る。

「え?」
「ん?理由。俺が白組な理由。」
「それは・・」
「それは?」
「木村は男らしいから。以上」
「・・・・・・。」
「次、慎吾。」

中居と木村の赤くなった顔のことには武士の情けで突っ込まない。
けれど、中居はもう重い空気には戻せないでいた。

「はいはーい。僕はどっち?」
「慎吾は紅。」
「え〜!!俺、木村君と一緒に白がいい!」
「だって、よく女装してるだろう。」
「そうだけどぉ。それとこれとは」
「慎吾は紅」

ぶつぶつ言ってる慎吾を尻目に中居が最終決断を下した。

「え〜!吾郎ちゃんと一緒ぉ?」
「なんか言った?慎吾。」
「・・・何も言ってません。」
「一緒に乙女気分で頑張ろうね!」
「・・・う、うん。」

「次、剛。」
「剛も紅だろ?」

本人が口を開く前に、木村が口を挟む。

「なんで?」
「だって、俺と中居が白で、吾郎と剛と慎吾が紅って言う方が、いいだろ?や、いいかなって。」
「うん。僕、吾郎さんと慎吾と一緒に紅組の司会するよ。」
「ダメ、お前は白。」
「なんでだよ!」

反論したのは剛ではなく木村だった。

「中居君も白だよね?つよぽんちょっと可哀想だね。」
「あの二人と一緒はきついよね」

吾郎と慎吾のコソコソ話は、話題の「二人」には届かない。

「どうして中居と俺と二人で白組の司会じゃダメなんだよ」

木村の追及は少し的を外している。

「俺とお前と剛なんて、変な組み合わせじゃん。」

木村の叫びを中居は余裕の表情で聞いている。

「確かにそうかもね。僕と慎吾、中居君と木村君と剛って言うのは珍しい組み合わせだね。」
「中居君と木村君と吾郎ちゃん、僕とつよぽんって言う方が、まだ年順でいいんじゃないの?」
「じゃなければ、中居君と木村君と慎吾のいじめっ子組とか。」

吾郎と慎吾が意見を出す。
話題の中心にあるはずの剛はただ、黙って4人を見ている。

「なんか言いなよ、つよぽん」
「何?中居、何かあるの?」

低い位置にあるはずの中居の顔を見上げるように見つめていた木村が、慎吾の言葉に被せて言った。

「ん?いや。」
「そうだよ、中居君何か隠してるの?」
「なんか変だよ!中居君。」

騒ぎ立て始めたメンバーを尻目にじっと中居を観察していた吾郎が静かに問いただした。

「中居君、君はどっちの組の司会をするの?」

8対の目が中居に注がれる。

「俺?俺は・・・総合司会だから。」
「「「え〜?」」」
「やっぱり」
「え?吾郎ちゃん気づいてたの?」
「ううん。今、ふとそんな気がしただけ。」

「どういうことだよ!中居」
「だって、俺ら、5人だろ?チームは二つ。不均等になったらよくないじゃん。だから、俺は総合司会。
で、木村と剛が白組の司会。吾郎と慎吾が紅組の司会。はい、決定!!」

中居が「決定」といったら、それはもう動かすことのできない決定事項だった。







恒例の面接に加え、全体打ち合わせ、各組打ち合わせ、とそれでなくても忙しい年末のスケジュールがいつも以上にタイトになる。
そんな中での息抜きは衣装合わせのようだった。
緊張感もそれほど必要とせず、意識的なのか、ただ、その日しかスケジュールが合わなかったからなのか、
全員一斉に行われたそれは学芸会の前の教室のような騒々しいものになった。

「俺、今年もハーフパンツとブーツがいい」
と言っているのは中居で
「や、あれも可愛かったけどさ、やっぱり最後はハーフパンツじゃない方がいいと思ったぞ」
となだめているのが木村。
「これ、木村君は似合うだろうけど、僕は微妙だよ〜。」
と苦笑いしているのは剛。
そこにひときわ大きい声が響いた。
「ちょっと〜!なにこれ!吾郎ちゃん?!」
慎吾の声だ。
「どうして?いいでしょ?」
慎吾が衣装さんから手渡されたのは、いわゆる王子様ファッション。
「慎吾だってそういうの着慣れないわけじゃないでしょ?」
「そりゃそうだけどさ。」
「それに紅白だよ?いつも、結構派手なの着たりするじゃない?」
「そうだけどさ・・・」
「ならいいじゃない。どこがどう不満なの?」
「どこがどうって・・・。」
「言ってごらん。」

言い負かされそうになった慎吾は、ひとまず他の三人の元に逃げることにした。

「ちょっと聞いてよぉ!」
「どうした?」
振り向いたのは木村だった。
(やっぱりこういう時頼りになるのは木村君だ)
そう改めて感じた慎吾は思いの丈を木村に伝えた。
「吾郎ちゃんがさ・・・こんなの着るって言うんだよ。」
「ぅわぁ〜」
後ろに一歩下がった木村の横で、
「王子様って感じだね」
と剛が微笑む。
「いいんじゃない?きっと二人とも似合うよ」
「や、そういうことじゃなくてさ・・・。ね、木村君。」
すがるような慎吾の視線に、木村はその肩を抱くと、
「頑張れ」
とだけ強く言い放った。
「え・・・それだけ??」
拍子抜けする慎吾に
「俺、剛と一緒に白組で本当よかった。な、剛。」
「ね、木村君。」
二人は微笑みあって見せた。



「木村君・・・今日、僕の中の木村君像が崩れていったよ。」
ぶつぶつ言う慎吾を横目で見ているのは中居だった。
「だから、なんなんだよ。」
「中居君はどう思う?」
「何が?木村の反応?それともその衣装?」
「どっちもだよ。そして、ついでに今の僕のこの境遇。」

しょんぼりと体を一回り小さく見せて言い募る慎吾に中居は大きく息をついた。

「木村の反応は妥当じゃねぇ?俺だってそう言う。」
「そっか。やっぱ2TOPは同意見か。」
「2TOPってなんだよ。」
おざなりに突っ込むと、中居は、
「やっぱ俺、ハーフパンツ」
と衣装さんに告げた。

慎吾が戻ると、もう吾郎は他の衣装の打ち合わせをしていた。

「あ、慎吾。おかえり。これとこれも決まったから。」
いかにも吾郎が好きそうな、そして似合いそうな衣装が二つ、壁にかけられていた。
「ねぇ、吾郎ちゃん、僕の意見は?」
「打ち合わせしてる最中にどこかに行くほうが悪いと思わない?衣装さんをお待たせするわけにもいかないしね。」
がっくり肩を落とす慎吾を剛が心配そうに見つめていた。

かくして、中居の衣装はほんの少しの木村の意見とその他大部分は中居の意見のままに決まり、
白組の衣装はあまりもめることもなかったが木村の意見を中心に決まった。
異議を唱える気力を失った慎吾は、静かに衣装が決まっていくのを見届け、結果紅組は吾郎の思い通りの衣装となった。

「どうせ王子様ファッションなら、カツラかぶろうよ」
という小さな抗いも
「却下」
という一言だけでなかったものにされた。



そして、当日。



「なんで?なんで中居、ハーフパンツなの??」と混乱したスタジオの隅で一人さらに混乱する木村。
「やっぱ、僕似合わないよ〜!」と眉をハの字にして叫ぶ剛。
「こういう格好もたまにはいいよね」とご満悦の様子で衣装さんに首もとのリボンを結んでもらう吾郎。
せめてもの抵抗だと、そのリボンを解いては吾郎にキレられる慎吾。

そこに
「SMAP集合!」中居の声が響く。

そして、また「ごっこ遊び」が始まる。
国民的番組の裏の国民的アイドル。

「いいか、この番組で粗相があってはならない。」
「「「「はい。」」」」
「その上、生放送だ。ミスは取り返しがつかない。」
「「「「はい。」」」」
「各自、細心の注意を払い、周囲の様子にも目と気を配り、番組を進行していくこと。」
「「「「はい。」」」」

「ま、俺ららしく楽しもうぜ」

重い「風」空気を木村が取り去る。

「ちょっと、木村ぁ。」
「だって、剛がマジで緊張してるんだもん。」
「そりゃ、緊張するよぉ。」

「吾郎ちゃん、黙ってようかと思ったけど、やっぱり言ってあげる。」
「何?」
「襟、出てないよ。」
「ちょっと、どうして早く言ってくれないの?」
「どうして、吾郎ちゃんってそういうところ、抜けちゃうんだろうね。」



司会者は他の出演者より先にスタンバイする。
挨拶を交わし、ステージへ送り出し、そして、自らが登場する。

最初だけはと5人お揃いの服を着たSMAP。
コンセプトは吾郎によると「執事」らしい。
出演者と視聴者を快く出迎える、そういう意味がこめられている。

白組、紅組、それぞれの司会が先にステージに向かう。

4人を送り出し、自分の名前が会場に響く。
中居はそっと後ろを振り向く。
後に続くものがないことを確認し、顔を引き締め歩き出す。

右足
左足

光の中へ。




2009.6.4UP
「いつの話?」って思いますよね・・・。
そうですよね・・・。
もう、何も言わずに立ち去ります。