5人揃っての収録時、中居が熱を出した。 久しぶりの発熱は、高温まで達し、中居を弱らせた。 一人では立っていられないほどなのに、 「なんか体弱いみたいで、やだ。」 と病人扱いされるのを拒み、家路に着くのを嫌がった。 「まだいる。平気。」 熱で潤んだ目で睨まれても、全く説得力に欠け、回らなくなった口で言われても、少しの効果もないことに奴は気付いていない。 「そんな事言ってないで、早く帰りなよ。」 なんて説得しようとしていたのは随分昔の話。今ではそれが逆効果なことくらい分かっている。 ぐずぐず言い出してから、15分。 まだ残っているメンバーを未練がましく見つめつつ、 「帰る。」 口を尖らせながら呟いた。 「お大事にね。」 なんて優しい言葉は誰もかけない。 「そうだよ。早く帰ってよ。僕まで風邪引いたら君のせいだからね。」 心底嫌そうに言うのは吾郎。 「ちゃんと木村君の言うこと聞きなよ。」 子ども扱いするのは慎吾。 「早く治さないと、明日の仕事辛いね。」 追い討ちをかけるのは剛。 「なんだよ、みんな冷たいんでやんの。」 膨れつつ、安心した顔をする中居。 お互いが嫌がる言葉なんて分かりすぎるほど分かっている。 「「「じゃ、木村君、よろしくねー。」」」 3人ののん気な声と心配そうなまなざしを、先にドアを出た中居は受け止めることなく、俺は片手を挙げて応えつつ、外に出る。 ふらりふらりと力ない後姿は、しかし、手を貸す事を拒絶している。 不機嫌そうに口を閉じ、車に乗り込んでくる。 「寝てれば?」 「いい。」 想像通りの答えに苦笑する。 「冷蔵庫、なんか入ってる?」 「氷、麦茶、卵、ベーコン、シップ、電池。」 これまた思ったとおり。 「じゃ、ちょっと寄ってくわ。」 そう言い、大型店の駐車場へと車を向けると、さすがに嫌そうな顔をした。 「パッと買ってくるから、寝ときな。」 今回はさすがに言葉どおりにシートを倒し、寝る体勢に入る。 苦しそうに眉間に皺を寄せたのは見逃すわけには行かない。 「すぐ帰ってくるから。」 言い捨て、外に出る。反応はないが、元から期待もしていない。 不機嫌そうなあいつを想って、さっさと買い物を済ませる。 食べさせたいもの、食べさせなきゃいけないもの、食べて欲しいもの。 食べて欲しくないけど、機嫌をとるためにはしょうがないものにも手を伸ばす。 「これは無理か。栄養あるんだけどな。」 食べて欲しくても手を伸ばさないものもある。 「よし、OK!」 一声自分にかけて、車へと急ぐ。 「遅い。」 「・・・起きてたんだ。」 掛けられた言葉に一瞬ムッとしつつ答える。 言って欲しい言葉は「遅い」ではなく、「お帰り」。最初の字しかあってない。 それきり何も言わない中居にため息をつく。 少し睨んでみたものの、何の反応も得られず、車を出す。 今日の中居は病人だ。張り合うわけには行かない。 「全然寝なかったの?」 「・・・・・・。」 「寝れないほど頭痛い?」横目で見ながら鎌をかける。 「・・・・・・。」 返事がないのは肯定なのだろう。 信号が赤になるのを待ち、手を伸ばす。 触れた温度は想像以上だった。 正直、慌てた。 「熱い?」 「・・・・・・。」 「寒い?」 「うん。」 小さく返事が聞こえた。急いで後部座席に手を伸ばし、毛布を手に取る。 中居はそれに器用にくるまると、耐えるように端をぎゅっと握った。 「ごめん。急ぐな。」 「うん。」力ない声に不安が募る。 中居のマンションには案外早く着いた。 「着いたぞ。」 「うん。」 「降りれるか?」 「・・・木村・・・」 「なに?おぶろうか?」 「うん」 「ん、あ、うん、ちょ、ちょっと待って。」 素直な中居の言葉にうろたえる自分の姿をバックミラーで目にし、逆に冷静さを取り戻す。 「大丈夫だよ。」 この言葉が自分に向けてなのか、中居に向けてなのかは分からない。 素直に背中に乗っていた中居は熱く、しかし、小刻みに震え、そして軽かった。 なのに、息だけは荒く、症状の重さを知る。 勝手知ったるロビーを通る。暗証番号も合鍵も、もうすっかり手に馴染んでる。 背中の重みを心配しつつ、部屋を目指す。 表札のないプレート。鍵を差し込む。見慣れた玄関。 「着いたぞ。」 返事は規則正しい呼吸音。 「中居?」 「・・・・・・」 奥まで入り、リビングの窓ガラスに自分を映す。 夜の闇に映し出される自分と中居。 顔を熱で真っ赤にし、苦悶の表情で、しかし、眠りに落ちたらしい中居。 肩越しには見れないその顔を、窓ガラス越しに確認する。 起こさないようにベッドに下ろすのは至難の業だ。 「んん。」 「ごめん、起きた?」 帰ってくるのは規則正しい、しかし荒い息のみ。 そっと布団を掛ける手に願いを込める。 早く良くなりますように。 食べれるかどうか怪しいものの、買って来た食材で料理を始める。 「後は弱火で煮込むだけ。」 独り言を言って視線を上げると、白い大きなツリーが目に入る。 中居が欲しがっていた白いツリー。 12月の入ってすぐの収録後、一緒に買いに行った。 「どれがいいの?」という俺に、 「これにする」と照れながらぶっきら棒に答えた中居は可愛かった。 一緒にたくさん買った筈のオーナメントは何故か3つだけ飾られている。少し寂しそうに。 何で3つなんだろう?首をかしげ考える。 途中で飽きたのかな?いかにもありそうなことに小さく笑う。 せっかくだから飾ってやろうと思ったが、どこにしまってあるか見つけられずに諦めた。 手持ち無沙汰になり、ドアに目をやる。 静かに開け、中を覗き込む。 ちゃんと眠れているらしい中居の額に手をやり、すっかり熱くなっている冷却材を取り替える。 「木村?」 突然呼ばれ、驚いた。 「大丈夫か?」 潤んだ瞳に優しく問いかける。 「今日・・・このまま、ここにいるのか?」緊張が声に滲む。 「いるよ。いていい?」許可を待って中居をじっと見つめる。 「うん。」2人同時に安堵の笑みを浮かべたのを感じた。 「なんか食べる?」 「いらない」いやいやと中居が首を振る。 「服、そのままなの嫌だろ?着替えな。」 「うん」 中居は体を起こす事さえいとわしい様子だが、それでも、 「見てるなよ。」 と文句を言う事は忘れなかった。 「はいはい。」両手を挙げ、すごすごと引き下がる。 「あ、風呂は?」 閉めかけたドアを思いついて開けると、くじらのクッションが顔面に的中した。 「見んな!開けんな!」 「お前なぁ!」 ムッとしたものの、弱りきった姿に中居らしさが加わり、ほっとし、笑みがこぼれる。 「なに笑ってんだよ!変態!」 「変態ってないだろ!」 「人の着替え見て笑ってるなんて変態だろ!」 「てゆーか、元気じゃん!」 「元気じゃない!」思いっきり威勢のいい声が返ってきた。 苦笑しつつドアを閉める。 「もういいかい」 「まーだだよ」 ドアの中から返ってくる声に顔がにやける。いつもこれくらい素直ならいいのに。 「もういいかい」 「まーだだよ」 「もういいかい」 「もういいよ」 お許しが出たところでドアを開ける。 「だんな様、お風呂はどうなさいますか?」 「今日はいい。」 「お食事をしていただいて、お薬を飲んでいただけるとありがたいのですが。」 「・・・・・・・。んー、動きたくない。」 起き上がっていた体をクッションの中にうずめ、甘えた声を出している。 つい聞きたくなる。 「誘ってるの?」 でも、その後無視される事間違いなしだから、がんばって口を閉じ、別の言葉を捜す。 「でも、そこで食べんの嫌なんだろ?」 「今日はご飯いい。」クッションの中から上目遣いで見上げてくる。 「それじゃ、治んないだろ!」 「うーん、ねぇ、木村、今日どこで寝んの?」病人のくせにパッと話を切り替えてくる。 「ん?中居のベッド。」 「じゃ、俺は?」 「お前のベッド。」 「うつるぞ。」少し間が空いて、慎重な声が聞こえた。 「もらってやるよ。」 「しらないからな。」中居が珍しくOKを出した。 「いいよ。」 「・・・・・・。」 「俺、腹減ったから、飯食うわ。鍋だけど、本当に要らないの?」 「んー、牡蠣?」 「タラ。」 「・・・・・・。」 迷うそぶりは、ダルさと眠さ、食欲とが戦っているのだろう。 「水菜、豆腐。」 「やっぱ、今いい。」情けない声が耳に届く。 「じゃ、食えるようになったら食べな。」 「ん。」 しばらく様子を伺ってると、すぐに寝息が聞こえ出した。 睡眠が一番の薬かもしれない。 結局、その日はテレビの中の中居と鍋をつつくはめになり、 翌朝やつはかなりの回復力を見せた。 「俺、まだまだいけるわ!」 とご満悦な中居に昨日の鍋の残りを食べさせ、家へ帰る準備をする。 「いい」という声も聞かず、駐車場まで送りに来る中居をからかう。 「きっと、今日雪だな。」 「?」首をかしげ、俺を見上げる中居。 「やけに中居、可愛いし。」 思いっきりにやけて言う俺を中居は一睨みするとそっぽを向いた。 「あ、可愛いついでに教えてよ。」 「何?」嫌そうな顔のまま、それでも答えてくる。 「オーナメント、どうして全部つけないの?」 「別に。」何かを隠してる口調に追求してみる。 「だって、いっぱい買ったのに、変じゃん。」 「別にいいだろ!」 「何?何か隠してんの?」 「何も隠してない!」 顔は赤いし、口調は子どもだし、絶対何かあるが、今日はここで諦める。 「わかったよ。最後に不機嫌になるなよ。じゃ、俺、帰るから。」 「ん。じゃあな。」 モコモコになるまで暖かく着せられた中居が手を突き出して見送る姿に、調子に乗って車の中から合図を送った。 ちょっと嫌そうな顔をしたのが、中居の回復を表しているようだった。 「素直じゃないな。」それでも、律儀に見送る姿に呟く。 数日後、中居の家に行くと、オーナメントは4つになっていた。 1つ増えた事に、もしやと思い 「もしかして、俺が来た回数?」 そう聞くと、次から次へとクッションが投げつけられた。 くじら、ペンギン・・・・・・最後はイルカ。 でも、この反応は、きっと図星だ。 分かりにくいような、分かりやすいような。 可愛いような、可愛くないような。 冷たいような、優しいような。 まだまだ分からないからこそ面白いのかもしれない。 とりあえずは、目の前でご立腹な様子の閻魔様を、少しやせて華奢に戻った閻魔様をどうするか。 まずは謝って、アイシーでも作ろうか。 「寒いのに食えるか!」「俺をあやすな!」 そんな声が今から聞こえるけども。 「クリスマスまでにオーナメント何個になるだろうね?」 バタンッ!! 寝室のドアはそれからしばらく開かなかった。 |
2004.12.23UP
元々は壮絶な喧嘩話になるはずでした。
それを、クリスマス前ということで甘い話に急遽切り替え、
甘くするために久々に定番の「風邪ネタ」を持ち出してみました。
いきなりの方向転換のせいか、なんとも微妙な気もするんですけど、
クリスマスという事で、許してください。
でも、果たしてこの話、「華奢な閻魔様」の話になってるかしら?
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SMAPファンに55のお題
thanks to「Wish Garden」植木屋様
http://www.geocities.jp/wish_garden_new/odai/00.htm
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