椅子を部屋の隅にもって行き静かに座る。
ふと落ち着いた空気が僕の周りを支配する。
部屋の中央には人。
みんなで盛り上がっている。
そこにはざわついた空気。
僕はそれを傍観する。

誰も僕に気づかない。
みんな話に熱中している。
僕はそれをただじっと見つめる。

仲間に入りたいとも思わない。
仲間はずれにされているわけでもない。
もちろん、彼らが嫌いなわけでもない。
でも、一歩はずれて、外から彼らを見るのが楽しかった。

大人たちが集まって子供のようにはしゃいでる。
その中に入るのもいいけれど、たまにはこうして
一人大人を演じてみるのもいい。

ひざをかかえ、斜に構え、ちょっと冷めた視線で見つめてみる。

僕の周りには静かな空気。
温度さえ、少し低い気がする。
それが心地いい。

アロマキャンドルとおいしい紅茶。
そんなものがあればもっといい。
この椅子がパイプ椅子じゃなくて、重厚な座り心地のいい椅子ならもっといい。

でも、それがなくても、僕は十分に世界に浸れるんだ。

「ねぇ、リーダー」
誰かが呼んだ声に目を覚ます。
自分が作り上げた世界に浸ってたつもりが、そのままうとうとしていたらしい。
もう一度元いた世界にもどろうとして違和感を感じ耳を澄ます。

「ほら、リーダー。」
また聞こえた。

誰のことだろう?
暫く見ていると謎が解けた。確かにそんなあだ名だと聞いたことがある。

僕は足を組みなおし、左右の腕を絡ませる。
更に顔に手を近づけると、妙な違和感に漣が立っていた心が若干安らぐようだった。








「みんなが呼んでるあだ名だったら僕もそう呼んだ方がいいのかな?」
それとなく聞いてみると
「そのほうが一体感が増すかもね。いいんじゃない?呼んでみれば?」
隣でそう応える声がした。
「そうかなぁ。」
「そうだよ。」








僕は彼のことをリーダーと呼べるかな。
僕は彼以外のことをリーダーと呼べるかな。

稽古の内容よりもその事に気が向いていたといったら怒られてしまうだろう。

休憩時間、またみんなが盛り上がっている。
今日は僕もその輪の中に飛び込む。
歓迎され中心へと招かれる。

僕は俳優なんだからと、跳ねる心臓を押さえつけ、何気なさを装い、みんなの真似をして呼んでみる。
「リー・・・ダーはどうなの?」
どうやら僕は演技が下手らしい。
これから1ヶ月近く主演を務めるのに大丈夫かな。

「やだなー、無理しないでよ。」
「すみません。」

なんか、彼を裏切った気分になり、落ち込んだ。

「謝らないでよぉ。」
「や・・・なんか。」
「吾郎ちゃんにはほかにリーダーがいるんだもんね。」

みんなが僕の周りで微笑んでいた。
急にホームシックになったように悲しくなった。

義理の家族たちの元を離れて、義理の兄弟たちの元へといく。
兄弟であり、友だちであり、仕事仲間でもあり、パートナーでもある彼らの元へ。




















「おはよう」
3人と挨拶を交わし、残り一人を探す。
今日はまだ来てない。

「あれから、あだ名で呼んでみた?」
「ああ、うん、やってみたけど。」
「どうだった?」
「うーん。」

黙った顔を心配そうに見られる。

「なんかしっくり来なかったよ。」
「かもね。やっぱり僕らのリーダーはあの人だけだよね」

あの人はまだ来ない。

一番早く会える場所を探して、前室に落ち着く。
自分の楽屋にいるよりは早く会えると思う。

30分経過。
あの人はまだ来ない。

もうとっくに時間過ぎてるじゃん!
口には出さずにムッとしてたら、スタッフさんが寄ってこなくなった。

「うわぁ〜吾郎、機嫌悪そう」
人の気も知らずに通り過ぎていく人。

「吾郎さん、どうしたの?リラックス、リラックス」
肩を叩いていく人。

「吾郎ちゃーん、眉間に皺よってるよ。イライラはお肌に悪いよ。」
余計にイライラさせる人。

ただ座っているのでさえ癪に障り、勢いよく立ち上がったところで大きい声が上がった。

「うわぁっ!なんだよ、びっくりさせんなよ。」
「・・・・・・。」
「何?お前、なにそんなに怒ってるの?」
「・・・・・・。中居君が来ないからだよ!!」
「え?」
「もうとっくに時間過ぎてるでしょ?!」
「ん・・・うん。え?何?俺、謝ればいいの?」
「そういう問題じゃないんだよ。」

理不尽な怒りだと分かっていても止められない。
それでも遅刻したのは事実なんだからいいか、と自分の気持ちに折り合いをつける。

「なんだよ、悪かったよ。そんな怒らなくたっていいじゃん。」
「僕、待ってたのに。もういいよ。」

あっけに取られたように大きい目を更に大きくする中居君を置いて、部屋に戻ってきてしまった。

「わけわかんねぇよ」

中居君と同じ言葉を僕も呟きたかった。
ただ一言を言うだけに、ずっと待っていたのに。
中学生の女の子のようなことを恥ずかしげもなくしていたのに。

「あーあ」
楽屋に戻り盛大にため息をつく。

「中居君来た?」
「うん。」
「呼んでみた?」
「え?」
「中居君のこと」
「・・・・・・。」
「リーダーって呼びたかったんでしょ?」
「・・・・・・。」
「吾郎さんが呼ばないなら、僕が呼んじゃうよ。」
「ちょっと、剛。」

気持ちを見抜かれていたことに、そして今、きっかけを与えられようとしていることに気恥ずかしさを感じる。
それでもすぐにドアを開けて続くには気持ちがくすぶっていて、十分に躊躇った後、廊下に出た。
僕を待っていてくれた屈託のない笑顔に救われる。

「ちょうど、もう時間だしね」
「そうだよね」

さっき一人でイライラと待っていた場所に二人で戻る。
さっき一人でイライラと待っていた場所には既に3人がニコニコしていて、
さっき一人でイライラと待っていた人がそこにいた。

入ってきた僕を見て笑顔をしまった彼は、心配そうな顔になり
「お前どうした?」
と僕の肩を抱く。

拒絶もしなければ、笑いにもしないその様子が気に入って、僕の機嫌は上昇する。
真っ直ぐに見つめてくる大きな瞳も気に入って、もう少しだけ、独り占めしたくなる。

「うーん。ま、言ってもしょうがないんだけどさ」
「ん?」
「なんかさ、ちょっと」
「うん」

せかさずに話を聞いてくれようとするのが嬉しかった。

「舞台のことでね」
「うん。なんかあったのか?」
「うん。」
「ん?」
「今日は随分ゆっくりと話を聞いてくれるんだね、リーダー。」

にっこりと笑った僕に怪訝そうに眉をひそめる。

「ねぇ、リーダー、あのね、舞台のときにね。」
「いい!」
「え?」
「どうせ、お前、大したことないんだろ。」
「なんでよ、聞いてよ。リーダー」
「やだよ、なんだよ、それ」
「リーダー!」

それっきり、彼は背中を向けてしまった。

「リーダー!」
しつこく呼んでいたら、
「木村」
と呼ぶ声がした。
「うるさいから、ひっぱたいといて」

それは嫌だけど、
叩かれるのは嫌だけど、
もう一度あの顔が見たくて

「リーダー」
「・・・・・・」















「リーダー」
「え?何?吾郎ちゃん」

笑顔で振り向いてくれる彼に、やっぱり違和感を感じる。

「やっぱり、僕、『さん』付けで呼んでいいですか?」
「え?」
「リーダーじゃなくて、河原さんって呼びますね。」
「分かってるよ、だから、無理しないでって言ったでしょ。だって、吾郎ちゃんのリーダーは中居君だもん。」

彼の笑顔に釣られて僕も笑顔になる。
いい笑顔を見たときよりも、あの嫌そうな顔を見たときのほうが嬉しいだなんて、
眉をひそめたあの顔の方がいいだなんて、むっつりと閉じられた口の方がいいだなんて、
僕も変わり者だな。

そう思いながらも気分が晴れて、その日は余分にぴょんぴょん飛んじゃった。
苦笑しているであろう彼の顔がよく見えるように。









2007.8.2UP
吾郎さんが舞台「魔法の万年筆」で共演していた
俳優さんのblogを読んで思いつきました。
河原さん!ありがとう!!(笑)
最後の部分は舞台を見に行った人ならお分かりかとは思いますが、
劇中のシーンより。
残念ながら、彼のリーダーはパルコに足を運ばなかったようですが・・・。
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SMAPファンに55のお題
thanks to「Wish Garden」植木屋様
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