ちちんぷいぷい



「今日、吾郎が出るんでお願いします。」
開口一番、頭を下げる中居を大先輩はほほえましく見つめた。
「久しぶりだね、吾郎ちゃん。分かったよ、大丈夫。」
「頼みます。」
再度軽く頼んだ中居は打ち合わせが終わると珍しくいそいそと楽屋に帰って行った。

その判断は正解だったようで、すぐに楽屋のドアが叩かれた。

「どうぞ。」
と答える前に覗いた顔は吾郎。
「中居君、今日よろしくね。」
「お前、いきなり開けるなよ。」
中居は顔をしかめるが
「美味しい紅茶入れてあげるよ」
吾郎は全く気にしない。
中居のしかめっつらはわざとなのだから当然かもしれないが、そのらしい姿に中居は呆れた顔をしてみせた。
「ツアー中、中居君とはゆっくりできなかったからね」
「お前、ちゃんと挨拶して来た?」
自分が挨拶してきた相手の名前を出す。
「失礼だなぁ。それくらい言われなくてもするよ。」
口を尖らせながらも、吾郎はティーカップを丁寧に並べている。
「あ、そ。」
つれなく返すものの
「そこにある差し入れ。お前の好きなクッキーだろ。開けていいぞ」
照れたように付け加える所が好きだな、と吾郎は思った。

遠慮なく包装紙を破く吾郎を、中居はどこか関心しながら見ていたのだが、せわしない打ち合わせのせいで、
なかなか一緒にゆっくりする事が出来なかった。
「僕の事は気にしないで」
スタッフが来る度に本気とも冗談ともとれない口調で言う吾郎は、中居の殺風景な楽屋の中で
妙に優雅な雰囲気を醸し出していた。
「悪い。」
と謝る自分に
「別にいいよ。僕が勝手に押しかけたんだから。」
と、しれっと答える吾郎が中居には心地よかった。自然に小さな笑みが生まれた。


それから暫くして漸く中居が吾郎の横に座った。
「うまいっ」
「でしょ?紅茶は入れ方によって全然違うんだから。」
いつもなら半分も話を聞かない中居も二人でいれば素直に耳を傾ける。
「もういい。」
と途中で口を挟む事は忘れなかったが、その空気が二人には似合っていた。

吾郎のおしゃべりに中居が付き合う形で、二人の短い一時は過ぎて行った。


「そろそろお願いします!」
スタッフの声が掛かる。先導されて行った場所には出演者が勢揃いしていて、司会を務める中居は一斉に挨拶を受ける。
それを見て吾郎が誇らしそうな、そして少し寂しそうな顔をしたのを中居は見逃さなかった。

「中居さんはこちらです」
「じゃあ」
と手を挙げ、背を向けようとして、中居は吾郎を引き止めた。
「吾郎。」
「ん?」
無言で吾郎の襟元、袖口、そして裾と順に直して行くのを出演者は見るとも無しに見ていた。
「ん、OK。じゃ、後でな」
「うん。後でね」

お洒落に気を使う割におおざっぱな所がある吾郎だが、生放送前のチェックを怠る筈がなかった。
「ああいう想いを口で表せない所が中居君は可愛いよね」

不器用でも人の気持ちに繊細な中居は全てお見通しだった。
「あれで素直に喜ぶ所が吾郎は可愛いよな」

こんな小さなおまじないが大きな奇跡を生んだのかも知れない。


 

                       

                                                            


2005.10.12 UP
吾郎ちゃん出演の「秋祭」を見て思いついたお話です。
最近中居くん×吾郎ちゃんコンビが
気になってしょうがないんです。
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SMAPファンに55のお題
thanks to「Wish Garden」植木屋様
http://www.geocities.jp/wish_garden_new/odai/00.htm
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