「信じてる」

最初、その言葉をどう解釈するべきなのか迷った。
一時の気の迷いに流されずに彼の望みを叶える為に側にいる事を望まれているのか。
それとも、自分の判断に任せると言われているのか。
きっと、彼自身もはっきりとわからないまま口にしたんじゃないかと今は思う。

自分の夢、六人の夢、彼の夢。
多くの人に迷惑をかけて、大事な彼を傷付けて、それでも叶える価値があるのか 、ずっと考えていた。

喜ぶ人
悲しむ人
応援してくれる人
困惑する人
怒る人

彼は「信じてる」と繰り返した。


「ねぇ、あれどういう意味だったの?」
今なら分かる。
きっと、離ればなれになっても、自分達の関係は変わらないと「信じてる」 そういう意味だったんだろう。

「何が?」
目の前で瞳を潤ませている彼は、たとえ酔っていても素直に答えを教えてくれたりはしないだろう。
だからこそ僕も改めて聞いたりなんてできる。

「信じてるってどういう意味だったの?」
「いつの話だよ!しらねえよ!」

ほらね。
それでいいんだ。だってもう僕は分かってるんだもの。

「どんな道を選んでも、森がベストを尽くすって信じてる。SMAPだった事を誇りに頑張ってくれると信じてる」
「え?」
「そんな感じだよ。」
「もう一回!」
「なんだよ。ちゃんと聞いとけよ。もういわねえよ。」

それっきり、彼はそっぽを向いてしまった。
こんな所で泣かされるつもりの無かった僕も焦ってしまって、お互いに暫く目を合わさずに飲む羽目になってしまっ た。

「なんだよ。どうしたんだよ。いきなり、なんでそんな事、聞いたんだよ。」
暫くして口を開いたのはシャイな彼だった。
「別に理由があったわけじゃないけど」
「……」
「今なら聞けるかなって思ったから」
「ふぅん。お前さ、早くさ、ビストロ来いよ」
「え?」
「大活躍してさ、早くビストロに来い。」

彼の潤んだ瞳にドキッとする。いつでも潤みを帯びていると、もう知ってるのに 。

「もう夢なんかほとんど叶ったから、あとはそれくらいかな。森に俺の夢を叶えて欲しい。」

一度は彼の夢を握り潰した。 僕の行動が、彼の心に傷を付けた。
なのに、今、また僕は彼の夢を叶えられる。その権利を与えられた。
今度こそ潰しはしない。

「でも、その為に張り切られて、また怪我でもされたら困るしなぁ」
そう言って笑う彼は強い眼差しで僕をじっと見据えていた。
その視線に背筋が伸びた。
気を抜いていては、置いていかれる。あっという間に追いつけない程、差を開けられる。そう思った。

「誰にも何も言われる事なく、正々堂々とビストロに来い」
「うん」
「待ってるから」
「うん。必ず行く」

僕の答えを聞くと、それきり彼は酔っ払いに戻ってしまった。
僕は酔うことも出来ずに彼を見ていた。

今、再び交わした約束を反芻しながら。







2007.5.13UP
「モアイ」を聞きながら電車の中で思いつきました。