「吾郎ちゃんいる?」
ドアの向こうに金髪が見え隠れする。
「今、いません」

分かりやすい居留守に
「あ、そう。っているんじゃん!」
おざなりなノリツッコミをして慎吾はドアを強く引いた。

「何?今日はせっかくの休日だから朝から大掃除してるんだけど」

窓が大きく開けられ、日の光がサンサンと降り注いでる気持ちのよい部屋。
たまの休日を過ごすには相応し過ぎるその部屋には、清々しい空気と、そして、
荷物が溢れかえっていた。

「これって、片付けようとしたら、収拾がつかなくなったパターンじゃない?」

棚の場所は中途半端に動かされ、自慢のソファーの上にも物が散乱している。
確かに慎吾にそう言われても当然の状態だったし、吾郎は掃除が苦手だった。
が、図星を指されるのはもっと苦手だった。

「で、何しにきたのさ」
いきなり機嫌が悪くなる。
「ちょっと、ちょっと待ってよ!」
それを察して焦るのは慎吾。
「何?!」
「ごはん!」
「え゛?」
「お願い!ごはん!食べさせて!」

吾郎の目が大きく見開かれた。

ソファーに座り込み、慎吾が涙ながらに語った話をまとめるとこういう事らしい。

ドラマの撮影で疲労困憊して、お腹は空いているが、食事を作る気力はない。

つまりはこれだけの話だ。うっすら涙を浮かべた所で、それに騙される吾郎では
ない。けれど、

「何が食べたいかな?て思った時に吾郎ちゃんの手料理が目に浮かんだんだよ」
「僕には吾郎ちゃんしかいないんだよ」

の言葉は少し自尊心をくすぐる。しかし、それでも吾郎は吾郎。

冷蔵庫の中を確認する吾郎を見て、安心した慎吾に投げ掛けられた言葉は

「じゃあ、まずその棚をこっちに移してくれない?」

驚く慎吾に次々と指示が飛ぶ。

「そっちのランプが置いてある台。それはここね。あ!そのランプは高価だから、
気をつけて触ってよ!」
「……」
「あと、外に布団が干してあるから取り込んでね」

一気に言うと慎吾の顔を見る。

「どうしたの?じゃ、僕、作ってるからよろしくね」

来た時よりも一層ぐったりしている慎吾だったが、従っておかないと後が面倒臭
い事を知っている。その上、元々模様替えは嫌いじゃない。
「やっぱり、つよぽんの所に行けばよかったか〜」

と後悔しつつも、やり始めると凝ってしまい鼻歌まで出て来た。
結局、
「あ〜、さっぱりした!」

と大声を出し、吾郎を満足げに笑わせた。

「「いただきます」」
二人のランチタイムが始まる。