「慎吾、慎吾」

戸が叩かれて、小さな頭がぴょこんと覗いた。

「ん?何?」

ちょっと可愛いなぁ、と思いながら慎吾は笑顔を見せた。

「いいもんやるからおいで」
「何、何?」
「いいから、いいから」

手招きに応じて席を立った。前を行く小さな背中に素直に着いて家に入る。

部屋の真ん中に椅子が置いてあった。

「ん?」

首を捻る慎吾の手の平に小さな包みが載せられた。不器用にリボンが付けられた小さな包み。

「それ、なんか有名なチョコなんだって。やるよ。」
「ありがとう。」

小さなチョコレートよりも、小さなリボンが嬉しくて声を弾ませた。

苦心して結ぶ中居の姿が目に浮かぶ。それとも、器用な中居の事だから案外素早くやっただろうか。

「でさ」

上目づかいで自分を見る大きな目に

「来た〜!」

と心の中で声を上げた。

「何?」
「電気がさ、切れたっぽいんだ。換えてくれない?」
「はいはい」

「なんだよぉ」
可愛い顔をしたまま中居は口を尖らせる。
「なんかやらされるんだろうなって思ってたから」
中居は口を尖らせたままだったが
「それじゃあ話が早いな。よろしく」
と肩を叩いた。

椅子に乗って取り替える。背の低い中居にはきつい作業だろうが、慎吾には至って簡単な頼まれ事だった。

「できたよ!」
椅子の上から笑顔を向けると、中居はちょっと困った顔をして時計を見た。

「ん?」

「んーと、お茶でも飲む?」
「ん?うん」

案外丁寧に中居がお茶を入れてると電話がなった。

「出ようか?」
「ダメ〜!」

受話器に飛び付く中居を見て首を捻る。

「もしもし?うん。もう終わった。うん。早くな。うん。うん。バイバイ。」

内容の分からない電話は短く済まされた。
「どう?慎吾。最近」
「何?どうしたの?」
「ん?なんとなく」
「ま、忙しいけど。中居君は?」
「俺はいいんだよ、俺は」
「なんでよ。中居君の話が聞きたいよ。」

面倒臭いと嫌そうに顔をしかめる中居がおかしかった。

「まぁ、それはいいから。じゃあ、最近、剛とはどうなんだよ」
「え?つよぽん?」
「そう。あいつ、吾郎と仲がいいみたいだけど、慎吾的にはどうなのよ」
「確かにちょっと取られちゃった気はするけどぉ」
「やっぱりするんだ」
「そりゃね。中居君はどうよ?木村君と」
「だから俺の話はいいっつーの」
「え〜?」
「じゃあ…」

テレビで見せる名司会者っぷりは影を潜め、自分との会話を必死に繋ごうとする中居。その姿を慎吾は面白そうに眺めていた。

(これはなにかあるな)

慎吾の口の端がキューっと持ち上がった。
ニコニコ見つめる慎吾と眉毛の下がった中居。
そこへ

ピンポン

とチャイムがなって、話題を探してキョロキョロしていた中居の目が嬉しそうに輝いた。
「慎吾。ちょっと待ってな」

いそいそと玄関へ向かう足取りは軽く、来客者を引き連れて戻ってくる顔は誇らしげだった。

見慣れた四人の顔を見て慎吾が顔を綻ばす。
「何?今日なんかあるの?」

慎吾が問い掛けた時
「誕生日おめでとう!!!」

盛大にクラッカーが鳴らされた。

「えっ?!」
「今日はお前の誕生日!忙しすぎて忘れてただろ?」
「え〜?俺、今日誕生日?」
「こいつ本気で忘れてるよ〜!」
「29年前の今日、君が生まれた大事な日なのに」
「本当にそんなに忙しいの?大丈夫?慎吾」
四人に思い思いの言葉をかけられ、慎吾の目がどんどん輝いていく。

「本気で忘れてた〜!みんなありがとう!」

木村から全員に帽子が配られたら準備完了。
三角形の帽子を被った五人はカメラの回らないパーティーを始めた。