トントン
コポコポコポコポ
シューシュー
遠くで微かに聞こえていた音が次第に耳障りになり、惰眠を貧っていた天使を目覚めさせた。
不機嫌を顕わに目を細く開ける。すると横にいた筈のまくらがいない。
自分の腕の代わりに、いるかさんのクッションを置いてベッドを出ていた。
それが無性に気に入らなくて、自分の為の食事と分かっていても強く唇を噛んだ。
「うるさい!」
手近にあったくじらさんを投げ付け、いるかさんに顔を押し付ける。
すっかり拗ねて二度寝しようとしていた耳に近付いてくる足音が聞こえた。
覗き込む視線に背を向ける。
「起きてるの?」
「寝てる!」
顔にかかった髪に触れる指を拒否する。
「起きてるんじゃん」
甘ったるい声にだんまりを決める。
「どうしたの?まだお眠?」
頑な背中に天を仰ぐ。
「くじらさん落ちちゃってるよ」
「……」
「まだ寝るの?もう半日終わっちゃうよ」
「……」
不機嫌の理由が分からずに困り果てる気配を無視してふて寝を決め込む。
可愛くない態度をとってもそれでも愛おしそうに見つめる視線が重かった。
「目が覚めた時に横にいて欲しい」
そんなくだらない我が儘を、単なる不機嫌を、見破られることも、説明することも、真っ平だった。
狸寝入りのつもりだったが、いつしか眠りに落ちていたらしい。
ふと横を見ると、頭の下にはいるかさんの代わりにたくましい腕。
微笑みを浮かべた天使は、添い寝する体に少し近付いた。
たくましい腕を提供したまくらこそが狸寝入りだった事を天使は知らない。
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