中居の電話はいつも突然で
「別に用は無い」なんて言いながら、そうでもない。

何かを求めてかける。
必要の無いときにはかけない。


疲れて帰ってきた夜、日付はもう変わっていた。2月19日。
起きたら電話しよ。少し変わった計画を立て、中居はベッドに入った。

眠れない。

体は疲れきっている。
が、心も疲れきっていて、安易に眠りに落ちれそうにもなかった。

03:38

朝まであと5時間。
その時間になれば、相手も起きているだろう。

明けない夜は無い。

弱気になって気障なことを考える。

睡眠薬になるはずの液体はもう飲み干し、煙草も手元に無い。
取りに行く体力も無い。


部屋に満ちている闇。
引きずり込まれるように眠りに落ちる。

暗い眠り
黒い夢


もがきながら抜け出し、朝を迎える。








「もしもし。中居だけど。」
「おはよう。ひどい声だね。」
「誕生日おめでとう。」
「ありがとう。久しぶりだね。最近どう?ドラマ見てるよ。」
「今日、時間空いて無いか?」
「今日?ちょっと待ってね。」 チグハグな会話も気にせずに、予定を確認する音が聞こえる。
「夕方ならあいてるけど?」
「じゃ、行くわ。」
「分かった。」 仕事は?なんて愚問はしない。行くと言っているのだから、来るのだろう。無理を推してでも。
「じゃ、あとで。」
「うん。」




「来いよ」ではなく、「行く」という中居は厄介だ。
面倒臭そうな予感もするが、「ま、いっか」あっけらかんと一言で片付けると
彼は窓ガラスに笑顔を映した。
爽やかな笑顔に明るい声。さっぱりとして考え方。
今の中居とは正反対。彼が求めるものがここにはある。



変わらない風景と変わらない音。
そこに変わらない笑顔で中居を待つ人がいて
「久しぶり。中居ちゃん。」
変わらない呼び方で中居を呼ぶ。
その声に既に心がほぐれていくのを感じながら中居は軽く手を上げる。



「んーっす。誕生日おめでとう。これやるわ。」
「わー。何?ありがとう。開けていい?指はどう?」 素直に喜びを表しつつ、相手への気遣いも忘れない。それも変わらない。
「うん、ま、まあまあ、かな。」 苦笑する中居にあまり良くないことを知りつつ、
「そう、無理はしないで。」 と、あっさり流す。そして、
「わー、これ!ありがとう!!」 喜びを存分に表す。そっけないようでいて、嫌味の無い態度。これまた変わらない。


ここに来てよかった。
中居はそう思い、最近良く見る夕焼けに目を細める。


「中居ちゃん、僕の欲しいものまでよく分かったね。」
「ん?うん。」
「しかも忙しいのにわざわざありがとう。」
「うん。」
「で、どうしたの?何かあった?中居ちゃん。」 察しのいい相手の小気味よい物言いに中居はゆがんだ笑顔を返す。(困ったな)そう言いたげに。
「何?どうしたの?」

「森。」
「うん?」
「お前がいなくなってから、俺、「中居くん」になったんだな。」
「え?」
「お前がいたときは、俺、「中居ちゃん」だった。お前がいなくなって、誰もそう呼ばなくなって、俺、「中居くん」になったよ。」
「そうだね。でもどうしたの?もう「中居くん」になって8年たつよ。」
「や、なんとなく。」 そう言うと中居は気まずそうに下を向いた。
「だめだよ。」 そんな中居の様子に森は、はっきりと告げた。
「え?」 中居は驚いて顔をあげる。その目に映った森は、大きな瞳でしっかり前を見据えていた。
「僕は寂しくなっても、辛くなっても、1人で頑張ってるのに、周りに4人も仲間がいる人が、ちょっと躓いたくらいでここに来ちゃだめ。」
「・・・・・・。」
「ね。」 また下を向きそうになった中居を見て、今度は優しくそう言う。しかし、そこには中居がこれ以上踏み込めない何かがあった。

違う世界で立派にやっているんだという自負。
もう同じグループの仲間では無いという隔たり。
「一緒には解決してあげられないよ」 と冷たく拒否されたように中居は感じた。

「なんだよ、それ。」 面白くなさそうに呟く中居を森は切なく見ていた。

今、中居を甘やかしたら、中居の甘えを受け入れたら、自分も中居を支えにしてしまう。中居を拒否することは、森にとって自分の弱さを拒否することだった。
お互い、支えあって生きていく。
彼らが生きているのはそんな甘い世界ではなかった。

「なんだよ、それ。」 中居が呟いた言葉を違う声が繰り返す。
「いいじゃん。躓いて仲間のところに来たって。いいじゃん。1人で頑張らなくたって。」
「ま、僕たちのところに来ないで、森君のところに来たって言うのは、ちょっと問題だけどね。」
「森君も1人で抱えるのは良くないよ。」
「てゆーか、お誕生日、何2人だけで祝ってんの?」
「そうだよ。」
「でも選べるプレゼントはひとつだけだよ。」
「中居くんのも一回返して。」
「あ、でも中居からって分かっちゃってんじゃん!」
「「「あ!」」」
「え、何?どういうこと?」 立て続けにいわれる言葉にやっと口を挟む。
「バースデーSMAPだよ。知らないの?ちゃんとスマスマ見てる?」
「あー、知ってる、知ってる。中居ちゃん、2連続で選ばれてたよね。」
「そう、だから今日は森君のバースデーSMAPだったのに。」
「中居が先渡しちゃったからできなくなっちゃったじゃん。」
「しょうがないから、5個貰っていいことにしたげようよ。」
「お、剛。いい事いう!」

みんなが盛り上がってる中、一人会話に参加しない中居に木村が目を向け、そんな木村に吾郎が目を向ける。

「ね、森君。僕たちおなかすいてるんだよね。」
「え、あ、そっか。」
「よし!パーっと行こう!」
「うん。パーっと。」 森ら3人の気分を上手く乗せ、誘導に成功する。
「中居くん、木村君、移動するよ。」 吾郎の言葉に
「うん、分かった。」 サンキュと目だけで合図し
「中居。」 座ったままの中居に手を出す。

その手を掴まずにいる中居。夕陽に作り出される影が深い。

「どうして俺のところじゃなかったんだよ。」 ふてくされたようにそう言うと、口の端をゆがめて笑う。「冗談だよ」と。

「ちゃんと来いよ。」

最後まで中居は木村を見なかった。諦めて後ろを見つつ4人に駆け寄る。
「森、中居が今欲しいの、お前の手みたいよ。」
「え?」
「1年に1回くらい、手出してやって。ほら、待ってるから、あいつ。」 顎で指された先には、落ちきる夕陽を見続ける中居。
「いいんじゃない。支えあうことって弱いことじゃないと思うよ。」 吾郎が核心をついた言葉で後押しする。

森はその言葉を反芻するように静かに頷くと、中居の元へ走って行った。


「中居ちゃん。」
求めていた声が、求めていた名前で自分を呼ぶ。
そして差し出された手を見て、疲れた笑顔を見せる。
「そんな顔しないでくれる?僕、今日誕生日なんだから。」
しばらくその手を見、躊躇した後、中居は今度はその手をとった。

立ち上がり、森の目を見て小さく頷く。
―もう大丈夫―

2人は4人に合流し、


―影が6つ並んでいた―









2004.2.19 UP
Happy Birthday to Katsuyuki
森くんのお誕生日記念です。
聖奈の書く中居くんは弱いです。
というのも、誰にも見せない弱さを
メンバーにだけは見せる、という関係が好きだから。
「森がいないと寝れない。」
そんな中居くんの発言を思い出してみました。