8月9日木曜日。晴れ。

暑い。
すっごい暑い。
吾郎はバルコニーで何かしてる。
僕も行きたいけど、行くと怒るから中にいる。

でも暑い。
すっごい暑い。
どこにいても暑い。

吾郎、ピッてやらないかな?
あれすると涼しくなるんだよな。

「もうすぐ涼しくなるよ、ぴろた。」

ピッするのかな?

「今ね、打ち水したから。2度も温度が変わるんだって。朝やるのがポイントらしいよ」

なんだろ?よくわからないけど。

「あ、ぴろたもシャワーする?それか、ベランダで水浴びする?ぴろたなら洗面器でもプールになるかな?」

なになに?なんかウキウキ吾郎になってるけど。

「ほら、ぴろた、おいで」

なになに?
あ、バルコニー。
出ていいの?

「ほら、気持ちいいよ」

ちょっと顔に水かけんなよぉ。
でも暑くない!

「あ!」
「わ〜!」
「気持ちいい〜!」
「うーん♪」

「気に入ってくれたみたいだね、よかった。」
「吾郎も入っていいぞ」
「洗面器で遊べちゃうなんて、ちっちゃいね、ぴろた。」


Pululu

「あ、電話だ。ちょっと遊んでてね、ぴろた。」

「もしもし」
「あ?木村君」
「うん、今、ぴろたバルコニーで遊ばせてるところ」
「うん。そう、洗面器で十分みたいだから。別に泳ぐわけじゃないし。」
「え?写メール?うん。わかった」

「お待たせ、ぴろた。木村君だったよ。」
「にしても、木村君、何の用だったんだろう?ま、いっか。とりあえず、写メール送らないとね」

「ぴろた、こっち向いて」
「ん?」
「うん♪可愛く撮れたよ」


吾郎がごちゃごちゃやってる。
四角いのに向かって、なんか喋ってるけど、大丈夫かな?
何やってんだろう?

「なぁ」
「ん?」
「なぁ!」
「うん。」
「なぁ!!」
「ちょっと待って。」

パシャン

「あ!!ちょっとぉ!!ぴろた!!」
「な・・・なんだよ・・・。大きい声だすなよ」
「もうびしょぬれじゃない!!ちょっと、携帯つかえなくなったらどうするの?!」
「なんだよ。そんなに怒らなくてもいいだろ?」
「もう、ぴろたなんて知らない!!」

って、吾郎どこ行くんだよ。
なんか、ぷりぷりして行っちゃったけど。
水、嫌いなのかな?
いつも、ふんふん〜♪っていいながらシャワー気持ちよさそうにしてるのに。

ま、いっか。
いつもは外に出ちゃダメ!って言われるのに、今日はいいみたいだし。
俺、これ一度触ってみたかったんだよな。
この、赤とか白とか紫とかの。
お、なんかいい匂いする。
緑のもいろんな匂いがする。


Pululu

「もしもし?木村君?なに?写メールなら送ったでしょ?」
「だって、ぴろたが僕に水かけたんだもん。危うく携帯ダメになるところだったよ。」
「今?バルコニーでほったらかしにしてるけど」
「熱射病?大丈夫だよ。打ち水したし、洗面器だけどプールもあるし、うちはハーブとかいっぱいで陰もあるし。」
「え?わざわざ買ったの?ああ、しんくん喜んでるでしょ?」
「ぴろた?今日?うーん、ま、連れて行ってもいいけど。」
「うん。はいはい」

「まったく強引なんだから」
「ぴろた?あ!お花落としちゃダメだって!!ラベンダーにも悪戯しないで!」

なんだよ。今日の吾郎はうるさいなぁ。

「ぴろた、おでかけだよ。体拭いてあげるからおいで」

なんかよくわからないけど、俺、まだ遊んでるの。

「ちょっと、ぴろた!」
「うるさいなぁ。」
「もう!!」

うわっ!
だから、いきなり抱っこするなって。
しかも、痛いよ。

「どうして、言うこと聞かないの?!お出かけするって言ってるでしょ?」

なんだよ、イライラ吾郎だな。
強くゴシゴシするなよ。痛いじゃん。

「ちょっと僕、出かける準備するからいい子にしててよ!!」
「がみがみうるさいなぁ。」

全くやんなっちゃうよね。

「全くやんなっちゃうよね。ぴろたは水かけてくるし、木村君は強引だし。僕の予定も色々あるのにさ。ま、今日は何にもなかったけど。」

吾郎もなんかぶつぶつ言ってる。
俺だってぶつぶつ文句言っちゃうもんね。
せっかく水で遊んでたのに、吾郎がいきなりキレるしさ。
まだ遊んでるって言うのに、いきなり出かけるって言うしさ。
強引なんだよ!

「あ、キャリーバック置いてきちゃった。待っててね。」
「あ、箱登場だよ。俺、嫌だって言ってるじゃん。それ嫌いなの。」
「もう、ぴろた、ニャーニャー言ってないで入ってよ。いくら車でも、抱っこしては連れて行けないよ。」
「俺、それ嫌いなの。大体出かけるのなんて面倒くさいだろ。吾郎、一人で行けよ」
「もーう!!やっぱり今日は出かけるのやめよ!」

なんだよ。吾郎どうした?いきなり大人しくなっちゃって。

「もう、行くのやーめた」
「何?どうしたの?行かないの?」
「もう、疲れちゃったもん。ぴろたは言うこと聞かないし、木村君は強引だし。」
「何、ぶつぶつ言ってるんだよ。どっか行くんだろ?」
「・・・・・・。」
「こんなか、入ればいいんだろう?全く吾郎は世話が焼けるな」
「・・・あ・・・ぴろたが自分で入った・・・」
「ほら、これでいいんだろう?」
「可愛い。やっぱり僕の育て方は間違ってなかったんだね。じゃ、いこっか。」

なんだよ。すっかりにこにこ吾郎じゃん。



ってここどこだろう?

ピンポン

「いらっしゃい!遅かったじゃん。」
「うん。もう来るのやめようかと思ったんだけど」
「え?どうして?」
「だって、ぴろたは言うこと聞かないし、木村君は強引だし」
「お前、それで機嫌悪かったの?」
「そうだよ。どうして僕の予定も聞かないでさ・・・。それにあの時は、ぴろたのせいで髪も洋服も濡れてたし。」
「・・・。でも、来てくれたってことは、ちょっとは機嫌よくなったんだ。」
「まぁね。でも、どうせ木村君は僕よりもぴろたに会いたかったんでしょ!」
「・・・。やっぱりまだ機嫌悪いんじゃん。」

「あ、しんくん、こんにちは。ぴろたもどうぞ、出ていいよ。」
「あ、ぴろくんだ。あそぼ、あそぼ」
「わ・・・ここ、木村んち?また面倒なやつがいるよ」

「あ、本当に大きいプール買ったんだ。」
「うん。どうせ、しんはすぐ大きくなるだろうし。」

「ね、ぴろくん、あそぼ。」
「やだよ、俺、もう今日、遊んできたの。」
「どこで?どこであそんだの?」
「家で」
「だれと?」
「吾郎と。」
「しんくんとも、あそぼ」
「木村と遊べばいいじゃん」

「しん〜。プール入っていいぞ〜」
「うん」
「ぴろたも遊ぼうぜ〜」
「え〜、俺いい。」
「もしかして、ぴろた、水、怖ぇの?」

なんだろ?
何言ってるんだろう?
なんか、面倒くさい。

「ほら、ぴろたったら」
「だから、いきなり抱っこするなってば!!」
「もう、木村君。ぴろた嫌がってるよ。」
「そんなことないよな?なぁ?」

すっげー、顔近い。

「大きいプールも楽しいぞ〜」
「おぼれさせないでね。」

もう!なんで無理やり入れようとするんだよ!!
なんだよ、これ!
あ〜もう!濡れるじゃん!!

「ぴろくん♪」
「お前、おっきいんだから、波が立つだろう?」
「え?なぁに?」
「ああ!もう飛沫が掛かる!!」

「やっぱ、飼い主に似るんだな。」
「何が?」
「ほら、ぴろたも顔に水がかかるの嫌がってる。髪が濡れるの嫌がるお前見たいじゃん。」
「普通、猫って嫌がるでしょ。」
「・・・そろそろ機嫌直せよ。」
「・・・・・・。」

あ〜もう!俺さっきの、小さいのでよかったのに。
なんだよ、この大きいみずたまり。
しんが、走るたんびにじゃぷんじゃぷんなるし。
外、出ようと思っても自分じゃ出れなさそうだし。
吾郎は違う方見てるし、木村に出してもらうのはなんかムカつくし。

あ・・・しんが出てった。

「あ!!」
「え?なに?ぴろくん?」
「ぶるぶるってしたら、吾郎が怒るよ。」
「え?」

あ・・・
あーあ。
せっかく注意してやったのに、ぶるぶるってしちゃった。

「ちょっとぉ、しんくん!」

ほらね。
でも、木村はあんまり嫌そうな顔しないんだな。

「なぁ、吾郎、俺も、もう、この水いい。」
「ん?ぴろたも、もう出る?」
「もういい。」

吾郎がタオルでゴシゴシする。
さっきは痛かったけど、今は痛くない。

「なに?ぴろたって、いちいちタオルで拭くの?」
「ん?そうだよ。いつもは、ドライヤーもするけど?」
「マジで?」
「うん。ぶるぶるって飛沫飛ばすと、僕が嫌がるから、しないんだよ。ね?ぴろた」

なんか木村が変な顔してる。

「動物なんだから、するのが当たり前だろ?」
「でも、ぴろたは飼い猫だし。家猫だから。」
「なんか、俺、そういうの違う気がする。」
「木村君が違うと思っても、僕とぴろたが快適に暮らすためのルールなの、これは。」

吾郎と木村、喧嘩してるみたい。
うわっ!なんか、しんが部屋の中と外、行ったり来たりしてる。
水もいっぱい飛ばしてるし。
これ、吾郎だったらすっごいキレるだろうな。
しんを怒らないって事は、木村はなかなかいいやつなのかもしれないな。

でも、喧嘩してるのはうるさい。
俺が可愛い顔してみせてやったら、木村は黙るんだろうけど。
木村の味方みたいな事したら、あとで吾郎がうるさそうだし。

あ・・・しんが行った。
じゃ、俺も吾郎の味方してやろうっと。

「あ、しんくんも、ぴろたも来た。」
「しん、ぴろたどうした?」
「大きい声出しすぎたかな?」

「ちゃんと仲直りしろよな。」
「なんのおはなししてるの?」

ってなんだよ。仲裁しにきたんじゃないのかよ!

ま、いっか、二人とも笑ってるし。
本当、手がかかるよな。
全く、もう。
俺に迷惑かけるなよな。
喧嘩はしちゃいけないんだからな。












2007.9.14UP