その日2人は散歩に出かけた。
ただ何となく天気がよくて、気分もよくて、時間もあったからなのだが、知らないほうに行ってみようと冒険したのが間違いだったらしい。
雲ひとつなかった空はいつしか灰色へと変わり、目的地に着かないまま夕暮れを迎えようとしている。
おのずと2人は無口になりだし、10分前から冷戦が始まった。



どちらが悪いわけでも無い。それなのに「お前のせいで」とあからさまに責められては、さすがに腹が立つ。
しかし、それをまともに買ったのがまずかった。
中居はさっきから、ひたすら前だけを見つめて歩いている。
その後ろを歩く木村は何とかこの状況を打開しようと思案している。

その時、車が中居の横ギリギリを通過して行った。
思わず立ち止まる中居に木村は自分が車道側に立ち、左を指差す。
「中居、こっち歩けよ。」
「いい。」
「だって、危なかったじゃん。今。」
「いいってば!俺、お前の女じゃないんだから。」

不機嫌な顔のまま、木村の目を見ることなく言うと、中居はまた前だけを見て歩き出した。

自分の思いやりを強い語調で拒まれては、平常心ではいられない。木村は不機嫌をあらわにする。
もう二度とかばうものかと顔を背け、手をポケットに突っ込む。
違う道を行こうかとも思ったが、残念ながら目の前に続くのは一本道だった。
腹立たしい相手との距離を十二分にとってふてくされて歩く。





中居は自分の後ろにあるはずの気配が無いことに気付いていた。
そして、かなり後ろから険悪なオーラが漂っている事にも。
(まいったな。)
今度は中居がこの状況を打開しようと思案していた。

「木村。」
顔は仏頂面のまま手を差し出す。しかし、木村はその手を一瞥するのみ。十二分に取った距離を縮める気は無い。
2人は向かい合ったまま立ち尽くすことになった。ただ、その間は大きく開いていた。
「ほら。」
(早くしろよ。)
とでも言うように中居は手を差し出し続けるが、木村は無視して中居の横を通り過ぎる。
そこで不機嫌のままいれば冷戦は長期化するが、今日は中居が折れた。
本格的に暗くなる前に帰りたかった、この後の仕事に響かせたくなかった、理由は色々あるがそれだけでもなかったのかもしれない。



手をポケットに入れたままにしている木村の腕に無理やり自分の腕を絡ませる。
様子を伺いながらキュッとくっつきカップルを装う。
変わらない木村の表情に今度は自分も同じポケットに手を突っ込む。
さすがに、「拓哉ぁ」と甘えられる雰囲気はなく、ぎこちない。
コントにできれば楽なのにと思いながら、お互いの無表情は緩まない。
諦めて、中居は木村を見つめる。
「手、つな・・・。」
言いずらさが言葉をにごらせる。
「何?」
「手、つなご。」
言い切った途端恥ずかしさがこみ上げたのか、顔を真っ赤にし、後ろを向くと、後ろ手で木村の手を掴んだ。
ギュッと掴むとそのまま怒っているように肩をいからせて歩く。どこか早足で、腕を大きく振り木村を引っ張る。
でも、繋いだ手が緩まる気配は無い。

痛いくらいに繋がれた手。

「ごめん。」
「俺も。」

どちらからともなく言葉が出た。
中居が少し歩調を緩め、木村の横に並ぶ。それでも繋がれた手はほどけない。





「そんなに強く握らなくても、俺、どこにも行かないんですけど。連行されてるみたいじゃん。」
木村の軽口にも中居は手を緩めない。
「中居?」
「夢見た。」
「ん?」
「夢見た。」
「うん。」
「木村がいなくなる夢。」
その夢を思い出したのだろうか、不安そうな中居の顔に木村が思い出したことがある。
それは吾郎から知らされた中居の様子。
「赤絨毯の上に立つ木村君見ながら、木村帰ってくるかな?って。このまま帰ってこなかったりしない?て。中居くん不安そうだった。」
吾郎は木村にそう告げた。
その話を聞いたときは「嘘だろ」の一言で一蹴したのだが、今、目の前にいる中居を見ていると吾郎の言葉に真実味が増す。
「どっか行っちゃったんだよ。それでさ、俺、すげー探してさ。でも木村いなくて。」
次第に中居の顔が曇っていく。



「いるじゃん、ほら、ここに。」
木村はそう言って力を込められた手を見せる。
それを見て中居は安心したように微笑み、力を抜いた。
繋いだ手はそのままに。

「だってさ、木村、世界にまで出て行っちゃうんだもん。そんな夢だって見るよな。」
「自分だってもうすぐアテネじゃん。」
「それとはちょっと違うだろ。」
「でも、俺だって不安なんだけど。」
「え?」
「いつテレビ付けたってお前がいて、いつも笑ってて。俺ら以外のやつらに囲まれて凄い楽しそうにしてて。うちら4人はもう必要ないのかな、とかさ。」
自分の言葉がせっかく暖まった空気を冷やしたのに気付き、木村が自嘲する。




「なんか俺ら、束縛しあってる彼氏と彼女みたいじゃねえ?あ、勿論、中居が彼女な。」
「なんでだよ!」
「当たり前じゃん!」
「どこがだよ!」
「俺より女装が似合う!」
「ま、それはそうだけど。」
「認めたな。でも、もうちょっと痩せた方がいいと思うけどな。」
「うるさい!」

すっかり、空気が温まった頃、2人の目に見慣れた景色と人ごみが入ってきた。

「あ、やっといつもの交差点じゃん。」
「あー、助かった。俺、木村と野宿かと思った。」
「それは、いくらなんでも大げさだろ。」

そう言って、木村が目を向けると、にこやかに話す中居の視線が下に下がっていた。
繋がれた手を持ち上げ、木村を見つめてくる。首をかしげながら。
木村はそれを見るとにやっと不敵に笑い、それまでより大きく手を振って歩き出した。中居もそれに合わせる。



「これ、撮られたらどうする?」
「やばい?」
「やばいよ。SMAPホモ疑惑!とか書かれるぜ」
「じゃ、撮られないように走る!」
「え?木村、ちょっと待て!転ぶ!危ないだろ!」
突然引っ張られた中居は怒りながらも口調が笑っている。
それを引っ張る木村はさらに笑顔で、2人はくすぐったそうな満面の笑顔を見せた。
「ばっかだな、俺ら。」
「いいんじゃねーの?」

気付く人、気付かない人、騒ぐ人、呆然とする人。
人ごみの中を2人は走る。
そうっとしといてあげよう。思わずそう思うほどの笑顔を振りまきながら。
信号でさえも2人を止める気はなく、道はずっと青信号だった。
道は2人の前に続いている。妨げるものは何も無い。
2人はそのまま進んでいく。お互いの手は離さずに。
走って、走って、走って・・・・・・。


「着いた!」
家の扉を後ろ手で締め、2人は同時に笑い出した。
木村はしゃがみこみ、中居は床に転がり、2人の手は離れた。
「多分撮られなかったな。」
そう言ってハイタッチをしたとき、もう一度繋がれそして爽やかに離れた。
そして、2人は同じ天井を見ながら肩で息をし、また手を繋いだ。




一度味わった心地よさ。
それは何度でも味わえるものだと知った。
二度と離さない、離せない。
そんな悲壮感が漂った帰り道。
でも、もう何度でも繋ぎなおせる事を知った。
いつも繋いでるだけが、信頼じゃない。
でも、必要としてる時に繋げなければ意味が無い。
それは2人の間に新たに生まれた絆。



今2人は繋いだ手がほどけた事にも気付かずに寝息を立てている。








2004.7.13 UP
元ネタは聖奈の夢です。
手を繋ごうの部分の夢を見て、ちょっと脚色してみました。
今迄で一番タイトルに迷いました。
一応、鎖で繋がれてるわけでもなく、かた結びされてるわけでもなく
いつでもほどけていつでも結びなおせるという意味です。