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次の週の収録日、中居の楽屋にはまた木村がいた。 「これ」 何も光っていない指にはめられた。 「あげたいんだ」 「……」 「貰ってほしいなんて言わない。捨ててくれてもいい。」 「……」 「でも、今、渡したいから」 「捨てるなんて勿体ない」 絶好の言い訳と理由と共に中居は木村から指輪を受け取った。 きらりと小さく控え目に光るその指輪は中居の中指にぴったりだった。 その事を確認し安堵の溜め息をついた木村は 「じゃあ」 と言葉少なに部屋を出て行った。同室にいるのは限界だった。 「どうすんだよぉ!」 中居は大きな独り言を言い、視線を移した。 その先には朝までなかった筈の指輪が揃えて置いてある。 「こんな時に限ってなんであるんだよ」 「ちょうど無くしたから付けた」 という言い訳までは与えられなかった中居は、ぎりぎりまで悩んだ挙句、 何もはめずに、楽屋を出た。 指輪をそのままに収録に臨んでも、今までのように、いつの間にか無くなってるという事はなく、 二つの指輪は机の上に、一つの指輪はポケットの中にそのまま存在していた。 車の中で矯めつ眇めつする中居がバックミラーに映っている。 「新しいの買ったんですか?無くなったりでてきたり不気味ですもんね」 「うん」 ボソッと相槌をうつと中居は声音を変えた。 「そうだよな。気持ち悪いもんな。だよな。捨てちゃってもいいよな」 「いいんじゃないですか。てゆーか、置いといたら自然にまた消えるんじゃないですか?」 そうじゃない事には薄々気付いていた。きっとこの指輪がまた消える事は二度とない。 けれど、この指輪をもういらないと思っている自分がいる。 想いのこもった指輪を選ぼうとしている自分がいる。 その事にも、もう気付いていた。 欲しかった人から欲しかった物を貰えた。 それでも、それをうきうきと付ける程、中居は素直ではなく、いつかその日が来たら捨てようと思っていた指輪も 結局捨てることはできなさそうだった。 それでも次の日、中居は自分の中指を小さく光らせ、しかし、なんだかむず痒く、過敏に人目から指輪を遠ざけた。 遠くから木村がその様子を見つめている事には気付かずに、 誰もいない、 と、ひっそり自分の中指を見つめ、顔を綻ばした。 窓に映ったその中居の顔を、木村が同じような顔で見ていた。 中指にはめられた二つの指輪。 デザインも印象もまるで違う二つの指輪。 左手の薬指にはめられていなくても小さく光るその輝きが確かに二人を結んでいる。 そして、その指輪は 消えることも、 なくなることも、 一度として なかった。 |
2008.2.25UP
なぜこんなに遅くなったのか自分でも分からないのですが、
やっとこぎつけた最終回です。
途中でもう書きたくなくなったりもしたけれど、
読み返すとやっぱり大事なわが子です。
応援してくださった皆様、ありがとうございました。