外の雨を、じっと見ていた。 窓の外にはすぐ石塀があるから、雨粒しか見えない筈なのに、ずっと見ていた。 窓に微かに映る彼の目には何も映っていなくて、ただ、犯しがたいほどそれは美しかった。 スタジオの片隅、廊下の突き当たり、美しさとは無縁の場所なのに、それでも彼は美しかった。 その肌の白さが、動かぬ彫像のように思えた。 息をしているのか確かめたくなった。 ぬくもりがあるか触ってみたくなった。 その時、彼の頬を一筋伝うものがあった。 大きな瞳から、長い睫毛に押し出されて、恐ろしいほど美しかった顔はそのままに彼の頬は濡れていった。 思わずその華奢な肩に手を掛けようとしたとき、気がついた。 泣いていたのは彼自身ではなく、窓に映る彼の姿。 窓を伝う雨滴が、窓に映る彼を泣かせていた。 彼は雨を見て泣くような人ではない。 そんな簡単な事を忘れていた。 あまりにもその姿が美しかったから。 あまりにもその瞳が暗かったから。 あまりにもその背中が孤独だったから。 光が強ければ強いほど、そこにできる影も濃いのなら、いつも光に溢れている彼が持つ影はどれほどの物なのだろう。 それが知りたくて、無理をした時期もあった。 彼がそれを見せまいと、どれほど努力しているかも気付かずに、土足で踏み込もうとした。 彼も自分と同じ弱い人間なのだと知りたかったのかもしれない。 彼はそれをやんわりと、けれどかたくなに拒み、僕は立ち入る事を許されなかった。 しかし、いくら望んでも垣間見れなかったそれは、皮肉な方法でいともに簡単にみんなに知られることとなった。 彼の脆い姿。 しかし、結局笑顔に戻ったのは彼が先で。 でも、その笑顔が輝けば輝くほど、あの泣き顔が忘れられなかった。 自分が露呈させたその姿。 その時になって、彼がどれほど多くのものを抱えていたかを、抱え続けていたかを知った。 そして、何も無かったかのように笑う姿に甘えていた自分の弱さ。自分達の弱さ。 「何浸ってんだよ。」 突然頭をはたかれた。 「……。」 「雨見ながら、ポエマーにでもなってたんだろ?」 「そんな事…」 僕はムキになったが、彼は余裕だった。 「ま、雨って時々気分が沈むからな。」 そういてまた彼は僕に背を向けた。 そう、彼が僕に見せるのは、いつも後姿。 横顔ですら、簡単には見せてくれない。 『振り向かせたい。』 そんな衝動に駆られた。 肩に手を掛け、乱暴に体を反転させた。 両腕の中にある、改めて間近に見る彼の姿。 目線を下げさせる小さな体。整った唇。長い睫毛と大きな瞳。 それらは女の子のようだった。 しかし、そこに宿る力は、時に厳しく冷たいとまで感じさせる程強い。 ただ、今そこにあるのは、驚いて僕を見上げる姿。綺麗な弧を描く瞳。優しさを伴った視線。 「どうした?」 あまりに温かいその瞳に僕は固まるしかなかった。 もしも、そこに挑むような輝きがあれば戦う気でいたのに。 不意打ちの優しさに僕の中の凶暴さは行き場を失った。 そんな僕に、彼はふにゃっと、そう、ふにゃっと目じりを下げると 「なんだよ。チューしてやろうか?チュー。」 そう言った。 氷が溶け出すような優しい声で。 画面の中では見せない顔で。 それでも固まっている僕を見ると、さりげなく自分の肩を解放し、 「よしよし。」 そう言って、頭をなでてきた。 敵わなかった悔しさ、優しくされた嬉しさ、理解されている幸せ。 雨に泣かされそうになったのは、僕のほうだった。 「ほら、行くぞ。」 そういった彼はまた僕に背を向けていた。 でも、もうそれも気にならなかった。 彼が目を背けたくて背を向けているのではないことも、 背を向けていてもちゃんと見てくれていることも分かっているから。 「ほら。」 そう言って差し出された手は暖かかったから。 いつだって彼は強いわけではないことも、もう分かっている。 自分が彼より強い時だってある。 しかし、それを全部確かめる必要ももうない。 言葉にしなくても、明るみにしなくても、お互いに分かる事がある。 その確信だけでいい。 でも、たまには雨に泣く彼を慰めてみたい。 だって、今日の彼はかっこよすぎたから。 |
2004.10.24UP
雨を見て泣いていたのは聖奈です(^^;)
部屋の中から外を見つめ、切ない曲をかけながら泣く。
それがストレス解消法な自分もどうかと思うのですが、
ちょっと浸ってみました。
今回始めて人名を出さずに書いたのですが、
いわずと知れた彼と彼です。
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SMAPファンに55のお題
thanks to「Wish Garden」植木屋様
http://www.geocities.jp/wish_garden_new/odai/00.htm
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