彼が登場した途端、会場が大歓声に沸いた。
それはどの出演者よりも大きく、止む事を知らないかのように思えた。
歓声にどよめきが混じり熱狂的な盛り上がりを見せた。

ただ、ステージのうえは対照的に無音であった。
音声が入っていないかと思ったがそうではなかった。
メンバー五人とゲスト一人以外の声は確かに聞こえている。
黙りこくった六人を中心において、盛り上げようとする周りの声ばかりが響いていた。

そのうち、何もしようとしない六人の様子に戸惑う人の姿が目立ち出した。
それでも何も話そうとしない彼らは肩を叩く人の声も聞こえていないのかも知れない。
完全に彼らだけの世界に入っていた。
無言の彼らにキャスティングを間違えたかと焦るスタッフがステージ裏を走っていた。

ただ、彼らの空間に緊張感はなかった。
沈黙だったのは、言葉を必要としなかったから。
にこやかに微笑み合うだけで全てが通じ合えた。
それは、まるで自分達の会話を誰にも聞かれずに楽しんでいるようだった。
ただ、慎吾、吾郎、剛の前は目と目で会話しながら通った彼も、中居の前では立ち止まり、
そのまま木村の元へ足を進める事は出来なかった。
見つめあい、言うべき言葉が見つからない二人が画面にずっと映っていた。
と、不意に中居の口が歪み、それを隠すように、高い位置にある首に手を絡ませ、筋肉質な肩に顔を埋めた。

余りにも自然で余りにも愛おしい光景に誰もが、それを見守るしかなかった。
気が済むまで彼を一人じめすると、中居は耳元で何か囁き開放した。
木村はただ固く手を握りしめた。
それでも、誰も言葉を発しなかった。
ベテランの共演者の言葉に、六人揃って何も答えない様子は失礼にも取れたが、
感無量な姿に、周りの人々にも微笑みが浮かび始めた。
口火を切ったのは意外にも剛だった。

「本当、び、びっくり、本当びっくりしたよ。なんか、本当、ね、びっくり。
 や〜、疲れとか全部吹っ飛んだ!すっごい元気が沸いて来た。ありがとう。ありがとう。森君」
「見てたよ。剛、頑張ってたね」
「うん!」

次は僕と名乗り出たのは慎吾。
「森君!森君!森君!森君!」
「何だよ、慎吾」
「あ〜!森君の呼び方だ〜!森君!」
「慎吾」
「森君!」
「慎吾!」
満面の笑みに慎吾の口は顔からはみ出そうだった。

「ちょっと森君聞いて。」
慎吾長いよ、と遮ったのは吾郎。
「吾郎ちゃん。」
「僕さ、ダーツの旅したんだよ」
「見てた、見てた」
「泥の所とかまで入ってさ」
「吾郎ちゃんが行くとは思わなかったよ」
「僕、ちょっと変わったでしょ?成長したと思わない?」

自分で言うなと突っ込んだのは木村。
「ありがとう。わざわざ来てくれたんだ。」
「うん」

「でもさ、何も言ってくれないなんてずるいよね。」
「そうだよ!こないだだって一言もそんな事言ってなかった。」
「だってどっきりだもん!」
「酔っても口滑らさないって、凄いな」
「酔ってたのは中居ちゃんだけでしょ?」
「こないだ、この後はずっとレースがあるって言ってたじゃん。」
「そう言えば、こないだのお店の電話番号教えてね。」
「こないだ、店出て、バイバイってしたじゃん?またちょっと会えないなって。
 そう言った時に、俺、何となく見てたんだけど、目泳がなかったぞ、こいつ。すげーな」
「何時から決まってたの?もしかして僕が報告した時から決まってたの?」
「さすがに、あの時はまだだよ」

次々出てくる「こないだ」の話を驚いて聞いている時、同じように聞いている剛に中居が気付いた。
「何、一般視聴者になってんだよ!」
「や〜森君だ、て思って。」
ニコニコと剛が答える。

「てゆーか、うちら感激し過ぎじゃん!」
「コンサート会場で会ったばかりだもんね。」
「でも、こうやってステージ上で会うのとは違うだろ。」
「あ!大変!また中居君が泣いちゃう!」

本当に泣きそうになっていた中居を救ったのは慎吾。
その見事なコンビネーションを森は嬉しそうに見ていた。

「森君にとって生きるとは?」
いつまでも続きそうな会話の間を縫って、お決まりの質問が投げ掛けられ、彼は自身の九死に一生を得た話をしてみせた。
用意されたVTRを食い入るように見ていた5人は次々と、耐えられないと首を振りつつ、または目を赤くしながら視線をはずしていった。
ただ、中居だけが顔色一つ変えずに見続けると、終わった途端、
「バカッ!!!」
と盛大に怒鳴った。
見る見る大きな目に涙がたまっていくのを見て、そして、その場が目指すものと違う雰囲気に満ちているのを感じて、
フォローの言葉があちこちから上がった。
「中居。」
木村に静かに肩を抱かれ、中居は身をゆだねた。

他の4人は、
「俺、当時も、散々怒られたのに、二重怒られだよ。せっかく来たのに」
「やーい!昔、いつも俺らの事怒ってた罰だ〜!」
「森君って怒りっぽかったもんね。」
とっさに、無理なくその場を和ませた。
「バカにバカって言われたくないよな。」
木村も軽口をたたき、
「♪どうせバカなら元気なバカでいい だもんね」
森が新曲を口ずさんだ。
「ちげーよ。♪元気なバカがいい だよ。」
中居が口を出せば、それで修復完了だ。

「今でも、歌も踊りも得意ですか?」
司会者が話を進める。
「そうですね。恥ずかしくない程度にはキープしようと思ってます。」
「じゃあ、歌ってもらいましょうか!」

その言葉に会場の歓声がさらに大きくなった。
6人はステージの中央に出ると、円陣を組んだ。今も昔も変わらない掛け声がかけられる。

流れた曲は最後に一緒にリリースしたシングル曲だった。
長い足を生かしたダンスと、メンバー1だった、歌声が変わらずに披露される。
楽しそうに、お互いに見つめあったり、噴出したりする姿に会場が幸せを分けてもらっているようだった。
涙ぐむ人も多くいた。

「もう1曲!」
と言って、流れた曲は、さっき話題になった曲。
森が問題なく踊る様子にメンバーが目を見張る。

「♪森君って言葉の半分は バカバカバカ」
と中居が歌えば
「男前だね、森君」
と慎吾が歌い、さらに
「且行って名前の半分は 勝つ!勝つ!勝つ!どうせ勝つなら元気に勝つのがいい!」
と替え歌にし、更なる盛り上がりを見せた。

終わりかと思った会場に、彼らが一番大切にしている曲が流れた。
一瞬、6人の動きが止まり、誰からとも無く、手をつなぎ始めた。
お互いを見やり、うなずくメンバー。
大事だからこそ、涙のイメージが強いその曲を心をこめて、丁寧に歌い上げ、
感極まりそうになりながらも、最後まで歌い上げ、そして、最後に中居が最高の笑みを見せた。
たった一筋の涙とともに。


「We are SMAP!」

誇らしげに叫んだ中居の顔は、それを見た木村の顔は、吾郎の顔は、森の顔は、剛の顔は、慎吾の顔は、明るかった。
その場にいる誰よりも明るかった。

「「「「「「We are SMAP!! 」」」」」」

誰もが、彼らに向ける拍手を惜しまなかった。








2005.8.30 UP
10年前の「24時間テレビ」は6人だったな、
と思っていたら浮かび上がったお話です。
中居くんが無言で森君に抱きつくシーンが頭から離れなくて・・・。

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SMAPファンに55のお題
thanks to「Wish Garden」植木屋様
http://www.geocities.jp/wish_garden_new/odai/00.htm
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