真っ白な上下に身を包み、一人砂浜に体育座りをしている姿は目を引いた。
夕方が近い秋の海。風が茶色い髪を弄ぶ。
じっとしていると肌寒いのか自分で自分を抱きしめ、じっと何かを見つめている。
どこか人を寄せ付けない雰囲気があったが、それをものともせず、若い男子が二 人、近づいて行く。



「ねぇ。ねぇ、ねぇ。」
自分に声がかけられる筈がないと思っているのかまるで耳に入っていないようだ 。
「ちょっと、無視しないでよ」
それでも振り向かない姿に、肩に手をかけ振り向かせた。 乱暴に触られキッと睨む目に二人組は見覚えがあったらしい。
「え?あ!どうしたんすか?オフですか?」
「ええ。」
「え?何してるんですか?一人っすか?」
「いや、まぁ。」
言葉を濁し、遠ざけようとするが、それには気付かずに、質問を続ける。
「よく来るんですか?あ!写真、いいですか?」
「や、ちょっと写真は、」
「駄目ですか…」
「ええ、すみません」
「中居君、一人なんっすか?」
「や…。ちょっとオフなんですみません。」
頑なな態度に二人組は
「本気で女の 子だと思いました。」
と言葉を残して去って行った。
苦笑して見せた彼は二人組から見えなくなった途端表情を変え、視線は変えないまま立ち上がった。
それが合図だったのかしばらくして、海から男が一人上がっ て来た。


「どうした?」
「俺も入る。」
中居の不機嫌な顔を不思議に思いながらも
「じゃ、用意しよう」
と車へと導く。
そこへ例の二人組が懲りずにやってきた。
「木村さんと一緒だったんっすね。」
「ああ、はい。」
「さっき女の子と間違えてナンパしちゃいましたよ」
木村に向けて言われた言葉に中居は(余計な事を言うな)と顔をしかめ、木村は (そういう事ね)と眉を上げた。
「よく二人で遊ぶんですか?」
「そうっすね。」
「仲良しですね。」
「ええ。」
木村は満面の笑みをして見せると
「なんで、二人っきりにして貰えますか?」
と普段なら中居が言うような口ぶりで二人をあしらった。
中居に軽く睨まれたが、それで追い払えるなら、余計に不機嫌になられることは ないだろう。


「だから一緒に入ろうって言ったのに。」
「だから今から入るって言ってる。」
(浜辺でお前を待ってるのが好きなんだ)
素直な気持ちは口が裂けても言えない中居は仏頂面になるしかない。
素直になれない自分に溜め息をつく。
そうとは知らない木村は、言葉少なに中居の為に準備をする。
(今日は喧嘩したくないんだ)
心の中でそっと呟き、
「ごめん」
小さな声で素直な気持ちを伝えた。
少しの間が、気持ちが伝わらなかったかと中居を不安にさせた時、くしゃっと髪を撫でられた。
「着替えるの手伝ってやろうか?」 という軽口と共に。




車に戻ってきたついでにと、何かガタゴトと木村が物音を立てている間、中居は 近くで座っていた。
何故か内股に座る彼の癖。両手の平は腿の下に入れ、両足をぶらぶらさせている 。
木村が嫌な予感に目をやると、案の定
「一人?誰か待ってんの?」
と声が聞こえて来た。
「俺のなんで。」
そう言って肩を抱きたかったが、
「行くぞ!」
と顔を見せずに呼び掛けるだけに留めた。
中居がうまく脱出したのを確かめて横に並ぶ。


「間違えるか?普通?」
確かに中居の好きなブランドのワンポイントが入った白いタオル地のジャージは 女の子が着てもおかしくないものだったが、
黒のウェットスーツは体のラインもはっきり出る。
「彼女のような顔して待ってた?」
木村の切り返しに、中居が顔を真っ赤にした。珍しく素直な反応に木村まで余裕をなくした。
ドギマギしている二人は恋人のように見えてもしかたないかもしれない。
そのまま二人は、 濃密な空気を漂わせたまま海に入る。


木村が簡単にできる事が出来ずに口を尖らせる中居。
中居に感嘆され、憧れの眼差しで見られ、喜ぶ木村。
木村に補助されてうまく波に乗れ、はしゃぐ中居。
より高度な技を決め、自慢する木村とそんな木村が誇らしそうな中居。
二人が上げる歓声が海に響き渡る。




遊び疲れて海から上がる時、中居がそっと腕を絡ませた。
「木村の彼女ならいっか」
覗き込んだ木村の顔は真っ赤だった。
「照れんなよぉ!」
中居はご機嫌に木村の手を大きく振りながら浜辺を歩く。 そんな中居を木村が抱き上げた。
「よいっしょ!」
「うわっ!」
普段なら絶対に嫌がる中居も今日は甲高い歓声をあげた。
キャハキャハと子供のように喜ぶ様子に木村はより一層高く持ち上げた。
「すげー!よかった。俺、ダイエットしといて」
「うん。助かった」
向けられるカメラだけは避けながら、大勢のギャラリーに中居は手を振った。
「もう無理。降ろすよ」
「いいよ」



それから幾時。浜辺を走る中居と、それを見守る木村。
ドラマでも映画でも見れ ないシーンが秋近い一日に繰り広げられた。





2005.9.23UP
いつぞやの雑誌での
「僕は木村が波に乗ってるのを見ています」
という発言を思い出しつつ・・・。
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SMAPファンに55のお題
thanks to「Wish Garden」植木屋様
http://www.geocities.jp/wish_garden_new/odai/00.htm
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