「つよぽ〜ん!!お誕生日おめでとう!!」
0時ジャストにもメールをしたらしい慎吾は、まだ祝い足りないらしく剛が楽屋に着くなり、飛びついていった。
まさに、受け止めきれないほどの想いで、思わず後に倒れそうになるのを木村が支える。
剛は、嬉しさと苦しさが混ざり合った不思議な表情をして、それでも、
「ありがとう!!慎吾!!」
と大きな声を返した。
「俺からもおめでとう!」
後から木村がその肩を叩く。
「ありがとう、木村君。」
背中に慎吾を背負ったまま木村に向き直る。
「いい一年にしろよ。」
「うん、そうだね。頑張るよ。」
「ま、頑張らなくてもいいけど。自然体でな。剛は剛らしくいればそれでいいんだから。」
「うん、ありがとう。」
少し改まって答える。
そういった剛を次に包んだのは、前に立つ木村の熱さとは正反対の穏やかな空気。
静かに吾郎が立っていた。
「お誕生日おめでとう。たくさんの素敵な事が31歳の剛を待っていますように。」
「ありがとう、吾郎さん。」
吾郎らしい祝いの言葉とともに渡されたのは、綺麗に包装された小さな箱。南青山で見つけたらしい。
「後は彼だけだね。」
「そうだな。」
「もう来てるのかな?」
3人が気にしているのは共通の人物。
祝われる本人は、
「今日もギリギリなんじゃない?」
と至って平常心。
「いつ言うかな?」
賭けようか、と木村が持ちかけると、
「難しいねぇ。」
と吾郎は乗るが、
「そんなことより、ケーキどうすんのさ!」
と慎吾は親友の誕生日の祝い方が気になってしょうがない。
実際、その反応が今日の日の正しい反応だろう。
「ビストロの後、セット使えるか聞いてくる!」
言うや否や廊下に走り出る慎吾に、吾郎が目を細める。
「愛されてるね、剛。少し妬いちゃうよ。」
「吾郎さんだって、同じだよ。」
「そうかな?」
「「そうだよ!!」」
2人から言われて、吾郎は小さな歯を覗かせた。
穏やかな空気が3人を包んだ。
暫くすると、廊下から大きな足音が聞こえてきた。
最大級に大きくなった瞬間、ドアが開けられ、勿論そこには慎吾がいた。
「キッチン使えるって!!てゆーか、中居君前室にいたよ。」
「マジで?」
慎吾の発言にさすがの剛も少し弱気になる。
「本当に中居君忘れてるのかな?僕の誕生日。」
「「「そんなことないよ!!」」」
「あ!ついでに、もう始めるから来てくださいって、スタッフさんが!」
「お前、先にそれを言えよ!」
中居がするように頭を小突きながら言い、木村は廊下へと出て行き、3人がそれに続く。
オーナー役の中居とはスタンバイの場所も違い、結局、剛は一年に一度しか言われる事の無い一言を聞かずに本番へと入った。
「まだタイムリミットまではだいぶあるよ。」
吾郎がそう言ってくる所を見ると、剛の表情は気にしないと言いつつも、かなり暗くなっているのかもしれない。
収録が始まると、他のメンバーもそれぞれ集中度が高まる。
ゲストの話に耳を傾け情報を集める。
お互いにアドバイスしあい、そろそろ完成と言う頃、オーナーがゲストを伴って降りてくる。
「剛君とのお仕事は?」
「吾郎君とは?」
一通りゲストとの会話が終了し、もう片方のチームの元へ移動しようとする。
その時、行きかけた足を止め、身体を反転させると、口に手を当て中居がささやいた。
「剛。誕生日おめでとう。」
剛も含め4人が一斉に固まり、周りからは拍手が上がった。
本番中ならば、テンションが上がったまま言える。中居正広を演じたまま言える。
照れ屋の彼も照れずに言える。
「「「やられた」」」
3人は理由のない敗北感を抱いていたが、言われた剛は嬉しそうに少し頬を赤らめ、言った中居は爽やかな笑みを浮かべている。
結果は、吾郎・剛チームの勝利となり、誕生日に花を添える形となった。
収録後5人でテーブルを囲む。
テレビ用の横一列ではなく、小さく丸くなって。
お決まりの歌を歌い、ケーキをカットし、頬張る。
慎吾が作ったものに3人が手を加えてできたそれは、素材と腕がいいだけでなく、愛情もふんだんに盛り込まれていて、格別の美味しさだった。
「みんな、ありがとう!」
生クリームを口の端につけたまま、剛は真ん中に座って嬉しそうにしている。
「でも、中居はずりいよな。」
木村が不服そうに横目で見る。
「何が。」
ケーキを口いっぱいに頬張る姿は木村が前にたとえたリスそのものだ。
「本番中に言うなんて、ずるいじゃん!」
「そうかな。じゃあ、剛、おめでとう!」
突然振られて剛が驚く。
「ほら。本番じゃないところでも言ったぞ。これでいいだろ?」
飄々とした様子で木村をあしらう。
今日は完全に木村の負けのようだ。
「でも、なんかさ。」
と愚痴るものの誰にも相手にされず、その横では
「七夕のすぐ後が誕生日って、なんか素敵だよね。」
と吾郎が気分に浸っている。
「星のイメージを持つ誕生日っていいな。」
「そう?吾郎さんは雪でいいじゃない。」
「中居君はまさに海だよね。」
「慎吾と木村は微妙だな。」
「えー、ちょっと待ってよ。」
「だって、何も無いだろ?」
「そうだね、慎吾は難しいね。」
言い出した吾郎にまであっさりと切り捨てられた。
「ちょっと待ってよ。考えてよ。こういうの考えるのが吾郎ちゃんの役割でしょ?」
慎吾は吾郎の指先を顎にもって行き、無理やり考えさえようとしている。
「木村君は反論ないの?」
剛に振られた木村はまだ一人でぼやいていた。
「なに、ウジウジ言ってんだよ。」
中居に冷たく言われ、更に凹む。
「木村君、食べないなら貰うよ。」
ケーキをお皿に慎吾が手を伸ばす。
「お前食べすぎだろ!」
「またリバウンドしちゃうよ。」
からかう声に、
「甘さ控えめだから平気なの!本当はみんなも食べたいんでしょ?あげないよ!」
と更を抱え込む。
「いらないよ、もう。ああ、美味しかった。」
「よし、帰るか。」
「えー、ちょっと置いていかないでよ。」
こうやって、特別な日は普通の日への境界線を越えていく。
気付かないうちに、時計の針が0時を越えていたように。
|