スキャンダル

スマスマ収録日。スタジオ前室。
慌ただしく走り回るスタッフに吾郎は違和感を感じていた。
番組前の空気が騒然としているはいつもの事だが、今日は何かが違う。
首を傾げながら、見つめていると、何人ものスタッフが目の前を駆け抜けた後に
チーフマネージャー飯島まで走って通り過ぎた。
それを見て、やっぱりただ事ではないんだと確信し、更にじっと観察していると、
手に何か持っていることに気付いた。
テーブルの上に置かれたそれを手に取ると、見慣れた顔が載った雑誌だった。

「なるほどね」

独り言を言った吾郎は、もうすぐ寝不足で不機嫌そうに入ってくるだろう人を思
い浮かべ、紙の上の笑顔と見比べて意味ありげに笑った。

ふふん

と鼻で笑っていると、チーフマネージャーが目の前に立っていた。
「もしかしてこれ探してます?」
雑誌を差し出すと
「そうそう、これ」
と奪い取るようにした飯島は、楽しそうな吾郎を見下ろした。 
「何よ!」
「大変そうだね」
「まあね。」
「でもこれ、女装じゃないと思うんだけど。メイクもしてないし。」
「ええ、まあ。あなた…何か知ってるの?」
「う〜ん、まぁね。」
暢気に吾郎が答えると目の前に立つ人の目が三角になった。 
「ちょっと来なさい!」
いきなりきつく言われ腕を引っ張りあげられた。
「痛いよ」

隣の小部屋に連れ込まれた吾郎は、そのまま詰問されることとなった。

「どういう事よ!」
「その日みんなで遊んでたんだよ。」
「みんなって?」
「え?五人でだよ。」
「ああ。で?」
「うちに来たいっていうから、しょうがないから招待して。」
「で?」
「そんなに急かさないでよ。」

細かく動く指がチーフのイライラを表していた。 

「でね。中居君が猫アレルギーだったのか、むずむずするって言い出して、シャ
 ワー浴びたいって言い出したんだよ」
「それから?」
「だから貸してあげて。で、出て来たときに無理矢理、化粧水とか付けたの。
 ただで貸してあげたんだからとか言って。」
「そう。」
「だって良くないじゃない?かさかさしてるのに」
「そうね」
「で、僕が付けてる4種類の化粧水付けて、マッサージもして、パックまでしたの。」
「よくさせたわね、中居。」
「ま、4対1だからね。剛は興味なさそうだったけど。そしたら、美少女が一人誕
 生してさ!」

その言葉にチーフは再度雑誌に目を向けた。
確かにそこには見慣れた顔によく似た美少女がいた。 

「で、髪の毛もちゃんとセットしてあげて」
飯島の表情を面白そうに眺めながら、吾郎が続ける。
「その頃には、もう中居君、勝手にしろって言ってたよ。」
「でしょうね」
中居も可哀相に。そう思いつつも、その時の中居の顔を思い浮かべて笑いが込み
上げて来た。
「で、そのまま木村君と買い物に出掛けた時の写真がこれってわけ。洋服も彼の
 私物だし、メイクもしてないし…これ見たら嫌がるだろうなぁ」
「でしょうね」
中居が荒れる様子が容易に想像できる。 
「これさ…差し止めようとしてるんでしょう?」
吾郎の聡そうな瞳がチーフを捕らえた。 
「まあ・・・ね。」
「僕達も困るから頼むよ。」
「何故?」
「だって、これが出たら二度と中居君、スキンケアしてくれなくなるよ。
 それに、木村君だって、もう一緒に出掛けて貰えなくなると可哀相じゃない。」
「その理由はどうかと思うけど、中居が拗ねるのは困るしね。いろいろ書き立て
 られるのはもっと困るし。」
「それにしても、中居君もこんなに可愛い顔して笑わなくてもいいのにね」

やっぱり木村君か…と呟く吾郎には気付かずに飯島はもう一度雑誌に目をやった。
美少女と書かれても仕方ない程愛くるしい顔をして微笑んでいる中居とそれを包
み込むように見つめる木村。

『女装写真』

と書かれて、まだマシだったとひそかに思った。これが流出したらそれ以上の事
を書かれること必至だろう。そちらの方がよっぽど困る、そう考え、飯島は吾郎
に微笑んだ。 
「分かったわ。この事はオフレコでね。特に二人には言わないように」
その言葉に頷いた事によって、やっと吾郎は開放された。

念入りにスキンケアをするメイクさんが増え、時には吾郎の手に因るマッサージ
が撮影前に施される事を中居は嫌がり、訝しがったが、仕事も増え、人気も更に上がった
事に事務所は喜び、美貌に磨きがかかった事にメンバーとファンは喜んだ。

この事件は、聡い中居に珍しく気付かれる事なく、一見落着となった。










2005.11.15UP
「人気タレントの女装写真」
見たいな感じのスポーツ新聞のタイトルを見かけて
思いついてみました。
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SMAPファンに55のお題
thanks to「Wish Garden」植木屋様
http://www.geocities.jp/wish_garden_new/odai/00.htm
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