around you





「さ、今日はどんな予定?」
「高尾山に行くんだって。」
「嘘だろ?」
「僕、夜舞台なんだけど。」
「冗談言うな。」


ベッドの上で、周りで、非難の言葉が行きかう。

「だって、スタッフさんが。」
「お前、それいつ聞いたんだよ?」
「夢じゃないの?夢。」
「だって、僕舞台なんだよ。」
「そうだよ、吾郎舞台だよ。」


散々責められて剛が口ごもる。

「じゃ、どうする?」
「って、変更できんのか?」
「知らないけど。てゆーか夢かもしれないし。」

「マッサージとかでいいじゃん。地方では行く気もしないしさ。」

「ある意味、東京ならでは?」
「あ、原宿のさ、いいところ僕知ってるよ。」

結局、吾郎の一言で今日の行き先も決まった。

「すっごい狭い範囲で動いてるよな、俺ら。」
「てゆーかさ、このホテル内にもあるんだけど。」
「提案してこなかったところを見ると、高かったんじゃない?」


5人の会話は、場所を移してスイートルーム内ダイニングテーブルを囲んで続けられている。
運ばれてきたルームサービスを、満足そうに食べながら話が弾む。

「皇居の周りとか歩いてみる?」
「気持ちよさそうだね。」
「時期が違えば、もっとよかったかもしれないけど。」

吾郎と剛の会話を、他の3人はあまり気乗りしなさそうに聞いている。

「ねぇ!ドライブにしたら?」
慎吾の提案に4人も乗り気になるが、

「でも、東京っぽくないけど平気かな?」
「皇居の周りドライブすればいいんじゃない?」
「あ、それで、そのまま原宿行けば?」
「てゆーか、俺、ここでゆっくりしてたい」

「確かに」

「でもチェックアウトの時間もあるしさ」


現実的な慎吾の言葉に上二人は顔をしかめた。

結局、話し合いの末、五人は散歩する事になった。
怠そうに歩く中居の肩を吾郎が叩く。

「元気出して、中居君。何もマラソンするわけじゃないから」

それでも肩を落としたまま歩く中居の携帯が突然鳴った。

緊急の雰囲気に横にいた吾郎は勿論、前を歩いていた三人も振り向く。
眉間に皺を寄せ、確認を繰り返す中居。

「それで今から行くわけね。で四人も同行するのな?わかった」

「何?どうしたの?」

慎吾が心配そうに声をかける。
中居はその慎吾を無視して吾郎に向き直る。
「吾郎。お前今から仕事だって」

言われた吾郎は目を丸くする。

「何?舞台までは時間があるんだろう?」
「なんか雑誌の取材があるんだって」
「マジで?」
「で、吾郎さんどうするの?」
「今から移動。ついでに俺らも」
「何それ」


本人も含め困惑してる中、中居の頭だけが冷静に回転していた。

「今から車に戻って、それに乗って移動」
「そんなの入るって聞いてないよ」
「舞台が終わる前にって事で急に入ったらしい」



車に乗った五人はなんとなく沈んだ気持ちでいた。

「授業参観って感じだな」
中居がそんな空気を盛り上げる。
「中居のサンデージャングル以来だな」
木村が返し、笑いが生まれる。

「吾郎が心にもない事言うのを聞いてよう」
「吾郎ちゃんさ、超かっこいい顔してよ」
「吾郎さん、応援してるから」
「じゃあ俺、吾郎がキメ顔しようとしてる時に変な顔して笑わせようっと」
「ちょっと!なんで邪魔するのよ」
「だって吾郎のキメ顔なんて見ててつまらないじゃん」

え、面白いじゃん
慎吾と木村が同時に返し、吾郎が憤慨する。
「でも、中居のキメ顔も相当笑えるけどな」
ポポロ!
四人が一斉に答え、中居が苦笑する。

あーだこーだとお互いの顔について(よく見ているな)と驚く程に話す五人。
急な仕事に沈んだ空気はすっかり消え、車はスタジオに到着した。

公演中の舞台を意識したのか衣装は白いシャツに、タイトなグレーのパンツ。
アンティーク調のセットに佇む吾郎。退廃的な空気を纏い、物憂げな表情を作る。
小道具にグラスと煙草を渡されればすぐにでもニックに変貌できる。

が…今、目の前にいるのはあの手この手で笑わせようとする四人。
吹き出しそうになるのを堪えるが、とても仕事にならない。

「ちょっとぉ〜」
眉を下げて、手を伸ばしながらセットから出てくる。

「ちょっと、仕事にならないでしょう」
「なんだよ!ちゃんとやれよ!」
「みんなが笑わせるからでしょう」
「お前、役者だろう。ほら、早く。すみません。」


顎で吾郎にセットに戻るように指示しカメラマンに頭を下げる中居。
吾郎は自分がメンバーを怒る気でいたのに、逆に怒られた気分になり不服顔だが、立ち位置に戻りスタッフに小さく頭を下げる。

カメラマンから指示を受けると吾郎の周りの空気がスーッと変わる。
メンバーは再び笑わせようとしたが、その変貌ぶりに諦め、大人しく観覧し始めた。

立ち姿での撮影を終えると、次はソファーに座っての撮影に移る。
傲慢そうに、挑発的に、そして上目使いで誘惑し、時に魅力的に笑って見せる。

「吾郎ちゃん、かっこいいね」
「うん。舞台でも凄くかっこいいだよ。かっこいいというかね、何と言うか魅力的なんだよね」
「へぇ〜。楽しみだな」
「慎吾、見に行くのか?」
「うん!今日行けるようにマネージャーさんに頼んでおいた」
「結局、木村君と中居君は行かないの?」
「だって、なんかやらしいシーンがあるんだろ?俺、そんなの涙目になる」
「面白いじゃん!ねぇ、つよぽん?」
「ん…面白いというか…」

四人が話し込んでる間に撮影は大詰めを迎える。世界に入り込み、くるくると表情をかえる吾郎を話をやめて見入る四人。

「吾郎さんのこんな顔、なかなか見れないでしょう。だから、舞台、凄く刺激的だった。」
「確かに、ちょっと気になるかも。」

「たっのしみ〜!」


慎吾が思わず大きな声をあげたのと同時に撮影は終了した。取材は手短に終わり、吾郎の仕事は終わった。


「お疲れ〜」
「お帰り」
「お疲れ」
「お帰りなさい」

「ただいま」
いい仕事をした吾郎を四人が迎える。


「んじゃ、お昼に行くベか。って規則正し過ぎない?」
「俺達、一瞬歩いただけで後は吾郎の撮影見てただけだもんな。」

「一日三食ちゃんと食べるなんて信じられない!」
「でも、今食べとかないと吾郎コクーンまで送り届けないとだし」
「行こうか。」
「で、どこ行く?」


一瞬悩んだ後、案外すぐに吾郎から一軒のお店が提案された。

「じゃあさ、中居くんがよく行くって言う麻布の定食屋さんは?」
「あ、清原さんやタモリさんも行ってるって言うところ?」
「そうそう。」
「行って見たいかも。」
「マジで?」

中居は「自分の場所」に5人で行くことに一瞬躊躇したようだったが、それでも拒否はしなかった。
お店に着くと、勝手知ったる様子で入っていく。
それは、友達を自宅に招いた時のような、少し気恥ずかしいような態度だったが、注文の段階になるとそれもなくなり、
「その選択は正しい」「ここではこっちを頼むべき」と色々指示を出し始めた。

「もう、中居くん静かにしてよ。僕はから揚げが食べたいの!」
「から揚げなんてどこででも食べれるだろ?魚の方がうまいんだって!」
「いいじゃん!食べたいもの食べたら。中居、から揚げ好きじゃん!」
「そうだけどさ」
「いいの!僕はから揚げ!」


騒ぎながらも注文を終え、運ばれてくるのをじっと待つ。

「別になんもしてなくても、腹って減るもんだな。」
「においに刺激される部分もあるよね。」
「吾郎はしっかり食べないとな。」
「そうだね。」
「後2日?」
「そう。結局、二人は来てくれないんだね。」

じっと見つめられて、中居と木村はわざとらしく動揺してみせる。

「ほら、俺、目がさ。」
「そうそう中居の目がさ。」
「しかも、剛のに行かなくて吾郎のに行くって言うのもなんかね。」
「そうそう。」

「ま、いいけどさ。」
あっさり突き放す口調に、二人は勢い余る。
「それにしても、仲良しだよね。二人。」

仕返しにとばかり、そのまま言葉を繋ぐ。

「だって、剛の時には木村君が調子悪くて、僕のときには中居くん。しかも、副鼻腔炎はおいといて二人とも、ウイルス性結膜炎でしょ?本当、仲良し。」
「本当だよね。だって、目も木村君から中居くんにうつっちゃったんでしょ?」
「んなわけないだろ!」

中居は怒鳴るが、

「でも、そうなんじゃない?」
と剛に静かに言われると、それ以上続ける気が無くなる。

「勝手にしてくれ。」
というと静かになってしまった。

「あーあ、また中居君落ち込んじゃったよ。」
「あ、中居。ほら、来たぞ、中居が頼んだやつ。元気だしなって。」
「だから、食べ物で俺を釣るなっつーの!」

全員分がほぼ同時に来たため、一斉に
いただきますっ
をすると、勢いよく食べ始めた。
食べてる間は無口なのは今も昔も変わらず、5人で100万人以上を動員するツアーを行うようには見えなかった。

「美味しいね」
「うん。」
「ちょっと頂戴。」
「いいよ。」
「これ、貰うね。」

お互いの皿に箸を伸ばしつつ食事が進む。

「これ食べたら移動?」
「ん〜もうちょっと時間あるかもしれないけど…。」
「でも、ぎりぎりまで入ってるのって嫌だよね。舞台のとき。」
「そうだね。」
「じゃ、食べたら移動するか。」

「それこそちょっとドライブするか。」


「あ、今さ、コクーンの近くのアイスクリーム屋さん。ダブル頼むとトリプルに出来るんだよ!」
「お前、まだ食うの?」
「え・・・じゃあ、渋谷のゲーセン!あ、ゲーセン行こうよ!!そしたら、時間になったらコクーンまですぐだし。」
「・・・ま、いっか。な、中居。」
「了解」

目的が決まると、急ぐ必要もないのだが、いそいそと食事を終え、5人は渋谷へと向かった。
今の5人にとっては決して気軽に入れる場所でないが、いつまでたっても惹かれる場所だ。

「あ!プリクラ。プリクラ撮ろうよ。僕、Goro's Barの時、撮れなかったんだよ。」
吾郎のテンションが一気に上がる。

「よし、じゃあ、プリクラっていくらなんだ?」
「400円だって。」
「ん。小銭。」
「ね。どれ?どれ?このモデルが選ぶポーズってのでいいの?それとも、こっちの大人数用?」
「モデルが選ぶポーズの方が楽しそうじゃん。」
「じゃ、これね。」

少しこわごわと吾郎が画面に手を伸ばす。

「ね!ね!6つ選ぶんだって。ね、あと30秒だよ!」
右上に表示された時間がむやみに焦らせる。

「適当でいいな」
一事言うと木村がボタンを押し始めた。

「木村、詳しいな。」
「や、そうじゃないけど。吾郎に任せると、迷うだけ迷って時間切れになりそうだから。」


♪最初のポーズはこれ 画面に顔を近付けておねだり

「だって。」
「ちょっと慎吾、後ろ。」
「背の順になれよ、背の順に。」


♪せ〜の

「うわっ、中居可愛い。」

♪次は 口元に手を当てて にこっ

「慎吾が満面の笑みだ。今日は目も笑ってる。」
「今日は、じゃなくて、今日も。僕はいつも笑顔なの!!」

「はいはい」
「もう!」

♪お口に手を当てて ひ・み・つ

「あ、吾郎がすごい本気な顔した。」


♪最後はピース

「すっげーアイドル顔だ。」

♪落書きはピンクのコーナーに行ってね

「落書きって何?」
「色々書いたりできるんだよ。」

「あ、中居君のマーク発見。」
「なんだよ。」
「ほら、デビルの尻尾。」
「あ、こっちも中居。」
「何?」
「うさぎちゃんの耳。」


ここで、中居は参加することを放棄してカーテンの中から出てきた。

「僕もいいや。狭いから」

次の放棄したのは剛で、吾郎は
「変なのかかかれないか見てる。」
と中に入ってた。


「できた!できたよ!!」
慎吾が掲げるのはSMAP全員で取ったプリクラのシート。

まややを越える可愛さでおねだりポーズの中居。
かっこよくピースを決めた木村。
口に当てられた指がセクシーな吾郎。
爽やかに中心で笑っている剛。
そして、にっこり満面の笑みの慎吾。

「すげー。これお宝だな。」
「一応、お金出すともう1枚プリントできるっぽかったからしといたぞ。」
「これ、俺、コレクションの中に追加しよう。」

マジメな顔をしてはさみでカットする慎吾。
それをこちらも真剣な顔で見つめる4人。

「でーきた。」

カットされたプリクラを持って満面の笑みの5人。
小さなシートに瞳を輝かせている。
自分の映り具合に満足している5人。

「これが一番良く撮れてない?」
「慎吾はこっちの方がいい顔してるよ。」
「この中居君、超可愛い。」
「うん。惚れるな。」

その中で中居が腕時計に視線を落とす。

「そろそろ時間だ。」
「じゃ、吾郎くんを送りに行きますか。」
「なんか幼稚園以来だよ。送ってもらうの。」

5人を乗せた車は渋谷の雑踏を抜け、コクーンの駐車場へと入っていった。

「じゃ、よろしくおねがいします。」

そういいおいて、中居、木村、剛の3人は戻り、慎吾はそのまま残った。

「吾郎、これで1時間後には、そのニックとかになるんだろ。大変だな。大丈夫かな。」
「吾郎さんなら、大丈夫だよ。」
「なら、いいけど。ちょっとあいつにはタイトなスケジュールだよな。」


3人は車中で吾郎の心配をし、慎吾は一人、何度もプリクラを眺めなおしていた。
楽屋に入った吾郎は、(楽しかった)と一度笑顔を見せると、そのまま精神を集中させ、自分の世界へ入っていった。


5人、肩がぶつかり合う距離で過ごした二日間。
今、それぞれ自分の時間を持ち、周りに広がる空気に少し寂しさを感じもするが、
いつもより暖かいその空間にそっと笑みを向けるのもいいかもしれない。












2006.10.18UP
[Fly.] のあやさまにお誘い頂き参加したSMAP15周年企画に載せて頂いたお話です。
毎週5人の旅行をさせようと言うSpecialな企画で聖奈は東京を担当いたしました。
企画本体は無事終了となり、聖奈のものだけを自分のサイトに掲載します。