「約束だよ。」
 そういえば聞かなくなったな。中居はそう思いながらライトの下にいるグループの末っ子を見ていた。
 昔は口癖のように言っていた。


    「僕も連れてってよ!」
    「子供は駄目だよ。」
    「じゃあ、こーこーせーになったら連れてってくれるの?」
    「あー、いいよ。」
    「絶対だよ!」
    「あー。」
    「約束だからね。」



    「あ、僕もコーラ飲みたい!」
    「もうないよ。」
    「飲みたい、飲みたい!」 
    「もうないってば!」
    「飲みたい、飲みたい、飲みたい!」
    「うっせーよ!今度買ってやるよ!」
    「本当に?」
    「あー。」
    「約束だよ!」


 あの時の約束、俺、守ったっけ?
 ぼんやりと考えていたら目の前にその末っ子が立っていた。

 「どうしたの?中居くん。ぼんやりして。」
 「ん?いや。」
 「ふーん。」
 「な、慎吾、コーラ買ってやろうか?」
 「何言ってんの?大丈夫?」
 「なんだよ!人が親切に言ってやってんのに。」
 「じゃー、奢って。でも気持ち悪いな。雨ふんの?」
 (バシッ)
 「痛っ!ちょっとぉ!」

 叩きなれた感触。でも昔はもっと下にあったのにな。
 中居は慎吾の苦情に耳を貸すそぶりも見せず、自販機を目指す。
 慎吾はその様子に首をひねりながらも付いていった。

 「はい、これで約束守ったからな。」
 2人分コーラを買うと中居はそう言いながら片方を渡した。

 「約束?何?どうしたの?」
 「ん?何でもない。」
 「へーんなの。ま、いいや。ありがとう。」
 「んー。」

 それで会話は終わりそうだった。
 しかし、

 「あ゛っ!!」
 「うーわっ!なんだよ。」

 慎吾の大声に中居は思わずコーラを噴出した。
 ぬれた手を振りながら、恨めしげに睨む。
 「ベタベタしてやなんだよ、これ。」
 「思い出した!」
 「何?なんか忘れ物でもしたのか?」
 「違うよ!約束。もしかして、僕が小学生の時のじゃない?」
 「ん?うん、まあな。」
 「どうしたの?そんなのいきなり思い出したりして。」
 「なんか急に。お前、ちっこいころはよく言ってたよな。しょっちゅう約束、約束って、うざかった。」

 中居の目はスタジオの窓からかすかに覗く外の世界に向けられ、まぶしそうに、そして懐かしそうに細められている。

 「だって信用できなかったんだもん。」
 「あ?」

 不可解な慎吾の発言に眉間の皺が寄る。

 「約束だよって言わないと守ってもらえないと思ってたから。」
 「なんだよ、それ。ひでーな。」
 言葉とは裏腹に皺は薄まった。

 「言っても守ってもらえなかったんだけどね。でも、言ってみるもんだよね。10年以上たって実行してもらえるなんてさ。
 ありがとう。」
 爽やかな笑顔を見せられ、中居は照れくさそうに顔を背ける。

 「でも不思議だよね。」
 「あ?」
 中居はさっきからこの調子だ。
 「だってさ、守ってもらいたくない人に約束だよ、なんて言わないけど、凄く信頼してる人にも言わないじゃん。
 守ってくれるってわかってたら言わないでしょ?」
 「うん。」
 「だけど、どうせ守ってくれないだろうなって人は言わないよね?」
 「うん。」
 「だから、約束だよって言う時ってちょっとドキドキするよね。信頼してますって言ってるみたいでさ。」
 「うーん。」

 はきはきした物言いの慎吾に対して中居は口篭ったまま。

 「って事は信頼してる人に、どうしても自分の意見を聞いてもらいたいときに言うのかな?」
 「さっきと言ってる事違うじゃん。さっきは俺の事信用できなかったって言ってたぞ。」
 「うーん、そうなんだよね。難しいな。」
 「契約って事だろ?」
 「ん?」
 「つまり、約束って一種の契約だから、信用してる人同士じゃないとしないけど、心のそこから信用してたら
 それもいらないって事なんじゃないの?」
 「あー。なんか賢いっぽくしてる!さすがキャスターって感じ。」
 「まあな。」
 慎吾のテンションに軽く応じて議論を続ける。
 「じゃあ、結婚式の時とかってお互い信用してないのかな?誓います、って言うじゃん。」
 「それは儀式だからじゃないの?」

 2人の頭がハテナマークでいっぱいになった頃、スタッフが収録の開始を告げに来た。

 「「今、行きます。」」
 「じゃあさ、なんか久しぶりに約束しようよ。」
 「なんだよ、それ。」
 「んーとね、何がいいかな。」
 「じゃあ10年後にまたコーラ奢ってやるよ。」

 悩みだした慎吾に変わって提案する。

 「いいね!それ!約束だよ!」
 「ああ。」

 大きな口を見事に三日月形にし、慎吾はライトの下に戻って行った。中居はそれに軽く手を振って応える。

 「慎吾の約束だよってやつ、久しぶりに聞いたな。」
 「あ、木村。」
 「何約束したの?」
 「コーラ。」
 「は?」
 「10年後にコーラ奢ってやるって約束した。」
 「なんだ、それ。」

 木村は呆れたように言いつつ、笑顔を中居に見せた。

 「木村もする?」
 「何を?」
 「約束。」
 「お前ねぇ。」

 突然子供っぽい事を言い出す中居に照れる木村。

 「なんだよ。しないのかよ。」
 口を尖らす中居の思考は、慎吾と最初の約束をした頃に戻っているのかもしれない。
 「わかった、わかった。する、する。」
 「じゃあね・・・何がいっかな。」
 様々に視線を動かし考える様子を見て、木村が口を開きかける。

 「「10年後も横にいるよ。」」

 同じことも全く同時に言った2人は、同じタイミングで同じように笑顔を見せた。作り笑いでも演技でもない、
 決して雑誌の表紙にはならない笑顔。

 「よし!じゃあ、そういうことで。」
 「おう!」
 「約束だからな!」
 「破るなよ!」

 日の光が入らないスタジオの中、そこだけ柔らかな木漏れ日が差していた。


     








2004.9.13 UP
お題企画初登場作品です。
元々書いてた話がお題に当てはまってラッキー!
途中断念しそうになったんですけど、なんとか収まりました。

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SMAPファンに55のお題
thanks to「Wish Garden」植木屋様
http://www.geocities.jp/wish_garden_new/odai/00.htm

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