「木村。」
「ん?」
突然真面目な顔をしてやってきた中居に身構えた。
「ちょっといい?」
そう言いながら俺の横に座る。
「ああ。」
どこか遠くを見ている目だ。横にいる俺ではないどこかを見ている。
「ドラマ。」
唐突に切り出した。
「ん?」
「ドラマ。」
「うん。」
「……。」
「……。」
こういうときは急かさない方がいい。
「やらないかって。」
「うん。」
「なんか有名な作品で、有名な役者さんが、今までやってきたみたいなんだけど。」
「うん。」
「やらないかって。」
「すごいじゃん。」
「でも、レギュラー抱えたままじゃできなくて。」
「うん。」
「削ろうかって。」
「あー。」
「自分で決めろってさ。」
「ん?」
「やるかやらないかも、何を削るかも、ナカイが決めていいわよってミッチーが。」
「……。」
「どうすっかな。」
「難しいな、それ。」
「うん…。」
「確かにどっちも決められてから言われたら中居は反抗するだろうから。」
「うん。」
「だからだろうけど。」
「うん。でも何を削るかって…そんなのさ…。」
「うん。」
「順位つけろって事だろ?」
「ドラマの撮りのせいぜい3ヶ月?4ヶ月?のためにどれか切るって事だもんな。」
「木村ならどうする?」
「それ、みんなに聞いてんの?」
「ん?別に。木村だけだけど。全部って無理かな?」
嬉しかった。でも中居にとってはどうでもいいことだったらしく、すんなりかわされた。
「レギュラー全部とドラマ?」
「うん。」
「お前の体がもたねーよ。」
「そっか……。」
そう言うと、中居は大きく伸びをしながら
「どうすっかな―。」
と吹っ切れたように言った。
「とりあえずなんか飲むか。奢ってよ、木村。」
初めて俺を見る。真っ直ぐに。
「なんだよ、それ。」
別に中居は答えを求めてここに来ているわけではない。
俺に求められていること…それは、自分の中で決着をつけられるような環境を作ること。
「ま、奢ってやるけどさ。」
つまり一瞬一人にしろって事だ。自分から来たくせに。まったく。
廊下の自販機でわざとゆっくり買う。コーヒー2つ。
「全部無理かな?」
部屋に戻った途端また聞かれた。
「全部を取って全部に悪影響及ぼすこともあるよな。野菜とか果物もいいのをより良くする為に、弱そうなのとか、くっつきすぎてるのとか摘んじゃったりするんだろ?」
「そう言うなー。」
「……。どれをきるか…難しいな。」
「んー。」
「ドラマをやるのはもう決まってんだろ?お前の中で。」
「んー。なんで?」
「やるかどうかじゃなくて、どれをきるかを悩んでるように聞こえたから。」
「んー。チャンスだし。」
「他の4人もやるしな。」
おどけて言ってみせる。実は気にしていたのを俺は知っている。
「んな事関係ねーよ。」
「ふ〜ん。」
ちょっとからかって下から顔をのぞきこむ。
「んだよ。」
そう言って肩を叩いてくる中居の声は笑っているが、顔はまだ曇っている。
「俺が頑張れば全部できるかな?」
「……。」
「一つの番組作るのって大変だろ?みんな今まで頑張って、これからも頑張ってくつもりなのに、俺のせいでストップってさ……。できねーよ。」
「行き詰ってる番組とか……。手っ取り早く考えるとドラマと同じ日のレギュラーだな。」
わざと軽々しく言ってみる。
「っ!」
狙い通り、中居は怒ったようだった。
「じゃあ、ドラマが月曜だったらスマスマ削んのかよ!そういう事かよ!」
ムキになって向かってくる。
「お前が迷ってるから言ってやっただけだろ!てゆーか、お前の中の考えと一致してんじゃねーのか。」
「……。」
「図星だろ。」
下唇をかみ締める中居にこれが正解だと知る。
「……。」
「いつまでに答えだすの?」
「うん。」
「お前聞いてる?」
「うん。」
「聞いて無いだろ?」
「うん。」
こうなったらほうっておくしかない。後は自分で決着をつけるだろう。俺は仕方なく雑誌を手に取り、隣の様子を気遣いながらページをめくる。
「なあ。」
突然コテッと肩にもたれてきた。
「ん?」
「なんでもない。」
「なんだよ。」
「じゃー、行くわ。」
中居は、ソファーから飛び起きるように立ち上がると、後は何も言わず、振り替えりもせず、部屋を出て行った。
その顔がまだ曇っているのかも晴れ晴れしているのかも見せずに。横顔しか見せずに。
俺が一番良く知るナカイマサヒロ。
それは、横顔かもしれない。
2004.1.7UP
いっちばん最初に思いついたのは「仰天ニュース」の占いで、
来年は世界に羽ばたくようになるって言われたのを見てた時。
それから暖め始めて、ドラマが決まったときにこの形になりました。
聖奈の中の理想の2TOP像、まんまかもしれないです。
いつでもいちゃついていて欲しいと思うけど、まあ、これが限度かなって。
行間の多さとかでも2人を表したつもり。
相手が慎吾とかだったらこんなに行間はあかないと思う。