風と共に去りぬレット・バトラー

 一路のスカーレットは、娘時代はちょっと怖かったけれど、中盤以降は魅力たっぷり。本当に、「お茶目でおしゃまで勝気な娘」だった。レットに金の無心に行くところと、ラストのタラのシーンが好き。
 レットは、私が見たのは轟悠バージョン。嫌味を言っても、酒に溺れても、とにかく男らしくて、クラーク・ゲーブルもびっくりのすばらしいレットだった。
 キャリーンをトップ娘役の花總が演じていたが、そんなに必要な役とも思えない。メラニーじゃいけないんだろうか?
 

あかねさす紫の花中大兄皇子

 「茜さす紫野ゆきしめのゆき〜野守は見ずや君が袖ふる〜」古文か日本史か、学校で習った万葉の歌にメロディーがついているのに、ちょっと感動。額田女王をめぐって、中大兄皇子と大海人皇子が争うお話。
 主役は、一路真輝の大海人皇子なのだけれど、どうみても轟悠の中大兄皇子の方が格好いい。傍若無人、問答無用、自信満々。いかにも支配者。「狂ったか、大海人〜!」が最高。こんないい男に言い寄られたら、額田もつい心惹かれてしまうでしょう。花總、女冥利に尽きる役だなあ。
 鎌足役の香寿たつき。嫌味になりそうな鎌足なのに、中大兄に心底尽くしている感じで、堂々としていた。タータンは、こういう大人の役が似合う。天比古(高嶺ふぶき)って何?必要な役なの?少なくとも、2番手さんが演じる役ではない。
 役代わり、高嶺中大兄皇子と、轟天比古バージョンを、随分後から見ました。ゆきちゃんの中大兄皇子は、イシちゃんほどワンマンではなくて、恋する男の色気があった。個人的には、轟バージョンが好きかな。
 

仮面のロマネスクヴァルモン子爵

 パリ貴族社会での、華やかで妖艶な、大人の恋の駆け引きを描いた作品。
 あの娘を堕としたら、わたくしをさしあげましょう。メルトゥイユ夫人、何とすみれコードぶっちぎりな・・・。それが、花總まりが演じると、気品があって美しい。高嶺ふぶきも、かなりプレイボーイなのだけれど、これがまたノーブルで。貴族社会なんだな〜という感じ。ユキちゃんは、これまでわりと嫌味のない役が多かった気がするけれど、このヴァルモン子爵があたり役だったと思う。
 トゥールベル夫人(星奈)は、ちょっと重かった。ダンスニーは、イシちゃんにこの役は、どんなもんだろう。
 
凍てついた明日ボニー
 TVの犯罪番組で見たことがあった、ボニー&クライドの話。強盗殺人犯の話だから暗いのだけれど、ボニーの月影瞳の演技がうまい。触れたら壊れそうな脆さ、追っ手がいることを知っていながら、にっこり微笑みながら死に向かっていくラストでは、涙がこぼれた。
 クライドの香寿たつきは、演技はうまいのだけれど、質実剛健なイメージがあるので、グンちゃんほど身を持ち崩していく感じはしなかった。安蘭けいのジェレミー、2人と行動を共にしたいのに、結局は裏切らざるをえない葛藤がよく分かった。
 
月夜歌聲ウェンフー
 京劇役者として、男として育てられたアンシア(朝海ひかる)と、彼女を想うウェンフー(湖月わたる)&スージェイ(立樹遥)。1幕はベルばら風。アンシアとウェンフーが、お互い愛し合っているのに伝えられず、スージェイはその仲を知って嫉妬する。わたるくんもしいちゃんも背が高いから、コムちゃんが本当に華奢に見える。コムちゃんは女役が良く似合って、秘めた女心が切ない。わたるくんは、人間が大きくて格好いい。(体もだけど、心が大きくて。)2幕は、完全にオペラ座の怪人。
 京劇は全然知らないのだけれど、覇王別姫がキーになっている。現世では結ばれなかった2人が、あの世で覇王別姫を演ずる、というエンディングは素敵だったけれど、その後の延々と続く剣の舞には食傷。しかも、ひげと仮面と大きな衣装で、覇王の中身、わたるくんでもスタッフでも分からないって。
 

アンナ・カレーニナアンナ

 映画で見たあとに見たので、同じ話が宝塚だとこうなるのか、と思いながら見ました。
 悩める仔羊ヴィロンスキー、朝海ひかる。コムちゃんは、悩める青年が本当にお似合い。まさに、道ならぬ恋に翻弄される、若い青年貴族という感じだった。相手役の紺野まひるは、タイトルロールにふさわしく、美しいアンナ・カレーニナだった。落ちついた大人の女性の美しさもあり、可愛らしさもあり。映画のように、どんどん自分を破滅に追い込んでいく感じはなかったけれど、宝塚的にはこのくらいのほうが夢々しくていいのかな。
 カレーニン、貴城けい。なんてプライドが高くて冷淡な嫌な男、と思っていたら、途中からいい人に変わった。最後に妻が戻ってくるのは自分のもと。たとえどんなに離れていても、愛は全てを超えられる(とは言わなかったけれど、セットが最後のボートのようだったので)。その直後のBGMが、オー人事だったのは驚いたけれど。コンスタンチン(立樹遥)とキティ(舞咲りん)のカップルは、初々しくて、暗い舞台でほっとできる。映画のコースチャは、本当に田舎者のさえない男だったけれど、しいちゃんは爽やかでそれなりに格好いいコースチャだったので、可愛いキティとお似合い。
 息子がママを求めるシーンは、エリザベートのようだった。そのわりに、アンナが息子を求める姿が弱かった気がする。ベッツィ(美穂圭子)の落ちついた雰囲気と、セルプホフスコイ(音月桂)の爽やかさがよかった。みんなとても役にあっていてよかったけれど、後半もう少し、破滅的なアリョーシャとアンナを見たかった気もする。
 

殉情佐助

 とにかく泣ける。泣きたいときに見るビデオ、ベスト3に間違いなくランクイン。
 絵麻緒ゆうの佐助。なんでそこまで耐えるかなあ。殴られてもそしられても、口答えすらせず、ひたすら春琴に尽くす姿は、はっきり言って普通じゃない。使用人だからとか、愛してるからとか、そんなレベルじゃないでしょ。ひたすら耐えてるぶんちゃん。でも男役16年のキャリア、包容力ある大人の男の魅力がじわ〜っとにじみ出ている。
 紺野まひるは、もともとが気の強そうなイメージなので、違和感なく春琴を演じていた。めちゃくちゃ我侭なんだけれど、でも心の奥で佐助を信頼しているから、というのがよく分かる。最後、佐助が目をつくシーンは、涙もの。
 利太郎の箙さん、文句なしのコメディでした。とにかく暗い話だから、箙さんがいなかったら窒息してたかも。でも、ストーリーテラーの現代人3人はいらなかった。せっかく盛り上がってきたところで、興をそがれる。