レオナード 宙組
カステル・ミラージュ
ダンシングスピリット


2002年2月26日
於・東京宝塚劇場
エヴァ・マリー




 NYの貧しい少年レオナードは、その度胸と勝負強さを買われて、マフィアの一味になる。 やがて頭角をあらわしたレオナードは、自らの野心と恋人エヴァ・マリーのため、ラスベガスに巨大なカジノ・ホテルを建設する。 このストーリーを初めて読んだとき、それって「バグジー」じゃんと思った。もう10年も昔にやった映画で、荒涼の地ラスベガスにホテル・フラミンゴを建てた男の物語。 実話らしい。映画の細かいストーリーはすっかり忘れているのだけれど、バグジーはとにかくワンマンで、怒鳴ってばかりいる男というイメージが残っている。 ちなみに今回宝塚では、登場人物の名前はフィクションです。

 バグジー改めレオナード。恋人バージニア改めエヴァ・マリー。 エヴァに惚れている新聞王はリチャード・テイラーと名乗っていたが、キャッスル(自宅を城と呼んでいた)を築いたアメリカの新聞王といえばハーストのことでしょう。 ホテル・フラミンゴはブルーバードという名前になっていましたが、それって車じゃないの? ていうか、フラミンゴってバージニアの愛称だったらしいから、この際ホテル・エヴァってつけるべきなんじゃ・・・ま、いいか。

 レオナードの和央ようか。バグジーと較べても仕方ないのだけれど、もうちょっと迫力が欲しかった。 クールな中に、内に秘めた野心とか、エヴァ・マリーに対する情熱とかもう少し見えたらよかった。 マフィアのボスが見こんだほどの男だし、砂漠のど真中にホテルをつくろうなんて、よっぽど野心家でなければ出来ないと思う。 それに、アメリカを動かすほどの力を持ったリチャードの女を横取りするのだから、かなりクレイジーなはず。ちょっとおとなしかった。

 新聞王リチャードを演じた樹里咲穂も、たかこちゃん以上にもっと迫力が欲しかった。 実在のハーストは、新聞王と言ってもあることないこと下世話なスキャンダルを書きたて、新聞が売れるなら誰が不幸になっても構わないと言うくらいの男だったとか。 一声でアメリカを動かすほどの実力者で、成り上りの富豪という感じがもっと見えて欲しかった。 樹里ちゃんの持ち味からして、十分に出せた雰囲気だと思うのだけれど、なんか妙に紳士っぽかった。 ドラッグやるくらいなんだから、紳士じゃないだろう。 もっとワンマンで、逆らうものは決して許さない、紳士面したその下で下卑た笑いを浮かべているなんていうほうが、よっぽどリチャードらしくて目立ったと思う。 エヴァ・マリーがレオナードのもとに去ってしまったときも、ホテル建設を妨害するのをやめてほしいとエヴァに頼まれたときも、あっさり引き下がらないで、もっと執拗にして欲しかった。

 2人の男に愛されるエヴァ・マリー。うらやましい限りだけれど、レオナードもリチャードも中途半端だったから、エヴァもあまり目立たなかった。 結局彼女は女優デビューしなかったのだろうか。

 マフィアのボス、アントニオに伊織直加。 やさしそうな持ち味の直ちゃんに、マフィアのボス?と思ったけれど、堂々としていて、変にきざったりしないぶん風格があった。 前作のキッドとは対照的な役だけれど、専科になってから以前よりずっと目に止まるようになってきた。

 同じく専科の成瀬こうきは、マフィアのフランクという役だった。 フランクはあまり大物とは言えない感じのマフィアで、最期までチンピラぽかった。 役にはよく合っていてよかったけど、成瀬くんの芸風はわりといつもこんな感じな気がする。

 レオナードの親友ジョー役の水夏希は、のびのびしていてよかった。 暗い役が多かったので、ほっとする。

 今回の一番の見せ場は、スーツの男たちのダンスシーンだったと思う。特に、レオナードがホテルの売上に手をつけて、追い詰められていく時のダンスナンバー。 なんとも妖しくて、とても好みだった。ただ、さんざん盛り上げておいて、レオナードが自殺するというのはがっかり。 せっかくマフィアの男たちやリチャードが追い詰めていくダンスだったのだから、実際もアントニオとリチャードがレオナードを暗殺してほしかった。 たかちゃんの死に際は美しかったけれど、レオナードには壮絶な最期のほうが似合っている。

 PS* 湖月リチャードのDVDを見ました。これよ、これ。もう格好いいったらありません。 プライドが高くて、実力派の絶対君主。樹里リチャードを見たとき、この役作りをわたるくんがしたらきっとすごくはまって格好いいだろうと想像したけれど、思った通り。 人間の限界をドラッグで補おうとしたり、プライドを傷つけられたら何をするか分からない怖さも、本当にはまってました。