宙組
Never Say Goodbye


2006年6月9日
於・東京宝塚劇場



 ハリウッドで出会った、カメラマンのジョルジュと、劇作家のキャサリン。始めはジョルジュに反感を抱いていたキャサリンだが、やがてお互いに惹かれあうようになる。スペインで再会する2人。スペインでファシズムとの内戦が勃発すると、ジョルジュは戦地の真実をカメラにおさめるために、そのまま留まることを決め、キャサリンも共に残る。内戦が激しくなると、ジョルジュは撮りためたフィルムをキャサリンに託し、前線に赴いていく。

 ジョルジュ、和央ようか。戦争の最前線を撮り続けたカメラマンというと、ロバート・キャパを思い出します。実際のキャパがどういう人だったのかは知らないけれど、危険を顧みず、最前線の写真を撮ろうという人ならば、意志の強さと、パッションのある人という印象があります。
 たかちゃんの役作りはいつも淡々としているので、ジョルジュはもう少し熱いところがあってもいい気がしました。海を渡ってまでエレンを追いかけたとか、ゴシップ写真を撮るカメラマンとか、そういう浮ついた感じもないし、戦場であえて危険に身をさらすような無謀さも感じないし。最前線で白いスーツ姿というのも、たかちゃんには似合っているのだけれど、絶対ありえない。これで退団だけれど、たかちゃんは、どの作品を見ても同じ印象でした。

 キャサリン、花總まり。気が強くて、男勝りな、社会派の女流作家。演技は下手ではないのだけれど、迫力不足というか、やっぱり花ちゃんはお嬢様のイメージが抜けない。声量が弱いので、歌で表現するところは、とくに弱く感じてしまいました。ジョルジュは、キャサリンのことをどうしても自分の思うように動いてくれない女性と感じていたようだけれど、私にはジョルジュの望むままに生きていきそうに見えてしまった。
 2役の孫娘。戦地で別れたままの恋人たちに、実は子供が生まれていたという暖かいエピソードを入れたかったのだろうけれど、こういう2元中継の舞台は好きじゃない。普通に、アメリカに帰国したキャサリンが、ジョルジュの子を身ごもっていることに気づいたという方がいいのに。カメラを探しに行くエピソードが欲しかったのかな?フィルムが世間に公開されるだけで充分だと思うけど。

 エレン、紫城るい。ジョルジュのもと恋人で、ハリウッドの大女優。誰もが納得するくらいの女優オーラが出ていてほしい役なのだけれど、るいるいはちょっと地味でした。キャサリンに頭が空っぽと言われるほどには、バカっぽそうにも見えないし。るいるいは、キャサリンの方が合ってるんじゃないかな〜と思いながら見てました。

 ヴィセント、大和悠河。スペインの熱い血の流れるマタドール。すごく色濃く頑張っているのだけれど、頑張りが思い切り目についてしまった。和み系キャラのたにちゃんに、男くさくて、情熱的なヴィセント。たかちゃんのように、どの役も自分の色に近づけてしまうのは面白みがないけれど、ここまで必死なのが見えてしまうと、ちょっとつらい。もう少し肩の力を抜いてくれると、格好よかったかも。

 アギラール、遼河はるひ。最近あまり見かけなかった、取り付くしまのない悪人。自分の望みをかなえるためなら、薬物投与も脅迫も何も辞さない。黒づくめでにこりともせず、はるひ君、なんて格好いい。端正な顔立ちをしているので、余計怖さが引き立つ。敵役が結構好きだったりするのだけれど、アギラールが格好よく感じてしまうと、ストーリーが意味不明になってしまうのが困ります。警察隊が銃撃しているときに、盆の上で1人踊るアギラールというのが、何気にツボでした。

 アンサンブルの民衆が、とてもよかった。歌もいいし、ダンスも揃ってる。民衆が出てくると楽しめました。和音美桜ちゃんの歌声が、絶品でした。

 主演2人+るいるいが、全体の中で浮いて見えました。るいるいの役は、1人スペインに溶け込めないアメリカ女優なので、浮いていていいのだけれど、たかこ&花は、浮いていてはまずい役。たにちゃんが組子を率いてる感じがして、やっぱり現トップコンビは限界だったのでしょう。

 ショーでは、男役の赤いマタドールが格好よかった。すごく盛り上がった後、はなちゃんが1人で1曲歌うのは、とても寂しく見えました。トップコンビのデュエットダンスのあとも、はなちゃんはそのまま大階段をのぼってはけて、たかちゃん1人が銀橋で挨拶。すらりとした美しい、いかにも宝塚という感じのゴールデンコンビだっただけに、あまりにあっさりとしたラストが拍子抜けでした。