ファントム

宙組
ファントム

2004年7月22日
於・東京宝塚劇場

クリスティーヌ


 パリ、オペラ座の地下にすむファントム。歌の上手い娘、クリスティーヌの声に魅せられ、歌の指導をするうちに、2人は惹かれあう。クリスティーヌに嫉妬するカルロッタの陰謀に怒ったファントムは、クリスティーヌを地下深く連れ去ってしまう。ファントムの悲しい過去をクリスティーヌに語る前支配人、ジェラルド。クリスティーヌを助けようと、ファントムを追うフィリップ。最後ファントムは、クリスティーヌに抱かれながら、息をひきとる。
 コピット版ということで、四季で見た「オペラ座の怪人」(ロイド・ウェバー版)とはちょっと違った話になっていました。人間の心の悲しさがメインテーマになっていて、おどろおどろしい感じは少なかった。

 ファントム、和央ようか。すらりとして、美しいファントム。陰のある役というのが好きなので、もうちょっと後ろ暗い感じがあってもいいと思ったけれど、たかちゃんのファントムは陰の部分が少なかった。ルックスは大人っぽいのだけれど、もしかして少年?一人称が僕だし、なんとなく言動が幼い。特に、樹里ちゃんとの会話は。

 樹里咲穂のキャリエール。最初、あまり重要じゃなさそうな役だと思っていたら、実はキーパーソンだった。たかちゃんのお父さんと言うのが、ちょっと無理があるけど。ファントムのことを、親しげにエリックと呼んでいるので、実は昔親友だったとかかな〜と思っていたら、パパ?もうちょっと老けてほしかった。父親役者ではないので、頑張っているという感じは見えてしまうのだけれど、ファントムのことを思う気持ちは、すごくよく伝わってきた。銀橋で親子の名乗りをするシーンが、いい感じだった。最後、自分の手で息子を殺さなければいけないのが、すごく悲しい。

 クリスティーヌの花總まり。清純で可憐な娘。ちゃんとそういうふうに見えるけれど、かなり作っているのが分かる。さすがにもう、可愛い娘の役はどうでしょう?トゥーランドットとか、メルトゥイユ夫人のような役は、お花さまでなければ難しいだろうけれど、クリスティーヌは別の人で見たかった。余裕すぎて、役を作りすぎて、魅力を感じなかった。歌声も、以前ほど美しく感じなかった。
 フィリップとのデートシーンで、相手役とのバランスを考えずに高いヒールをはいているのが気になった。たかちゃん相手なら、どんなヒールでもOKだろうし、その方がすらりとして見えるのは分かるけれど、背の低いとうこちゃんが相手のときくらい、低いヒールにするほうがお互い美しく見えると思うし、相手役への思いやりなんじゃないかと。
 ファントムに仮面をはずしてと頼んでおきながら、きゃ〜っと走って逃げるのは、なんてひどい。想像以上の顔ですごく驚いたとしても、後ずさりするくらいでいいのでは?さすがにファントム、かわいそう。

 フィリップ・ドゥ・シャンドン伯爵。安蘭けいがお貴族様?と、見る前はとても不安だった。フェルゼンもアシュレも、これまで私が見たとうこちゃんの貴族キャラは、似合わないの極みだったから。でも、今回よかった。いろんな女性に声をかけて、ちょっとプレイボーイな伯爵さま。いつもの真面目でちょっと重い雰囲気ではなくて、爽やかな青年。本気で遊び人には見えないので、クリスティーヌのことは本当に好きに見える。ファントムとの決闘シーンの殺陣も格好よかった。

 ファントムについてまわる黒天使みたいなの。ビジュアル的には素敵なのだけれど、あまり好みでなかった。「追憶のバルセロナ」とか「永遠の祈り」では、主人公の悪夢の時に現れるし、本家「エリザベート」の黒天使は、完璧にトートの手下。でも今回は、ファントムの手下のように見えるけれど、ファントムはオペラ座の地下で孤独なわけでしょ?黒天使たちがいないほうが、もっとファントムの寂しさが際立ったと思う。

 出雲綾のカルロッタはすごかった。オペラ座の新しい支配人の妻で、プリマ。自分より少しでも他の人が目立つのは許せない。たきちゃん、歌上手いのに、下手な役とは。あそこまでやってくれれば、文句はありません。

 商業演劇としては、とてもいいと思う。ビジュアル的にもみんな美しいし、アンサンブルのまとまりもあって、いかにもミュージカルですという感じ。ただ、ご贔屓さんがいないからなのかもしれないけれど、宝塚の良さである一生懸命さが、トップコンビから感じられなくて、物足りなかった。いっぱいいっぱいなのは見ていてつらいけれど、余裕すぎるのも・・・。宝塚初見の人とか、純粋にミュージカルが好きな人にはいい作品だと思う。ただひとつ、中幕の少女漫画のような母子の絵だけはやめてください。