宙組
FLYING SAPA


2020年9月10日
於・日生劇場



 地球をあとにして、水星「ポルンカ」に移住した人類。 人々は腕にはめた装置「ヘソノオ」によって生命が維持されるかわりに、政府にすべての思想・言動が管理されていた。 危険な思想の持ち主は、記憶を抹消する装置によって更生させられ、危険思想を持つ人物を摘発する兵士として働かされた。
 バラクはそんな兵士の1人で、過去の記憶を失っていた。 ある時、自殺願望を持つ女性の思想をキャッチし、救出に向かう。 その女性ミレナは、政府総統の娘だった。
 ミレナの求めに応じ、バラクは「サパ」と呼ばれるクレーターに向かった。 そこは政府の干渉の及ばない場所で、自由な思想を持つ人々が隠れ住んでいた。 クレーターの中心「ヘソ」にたどり着けば望みがかなうと教えられたバラクは、自分の記憶を取り戻すために、サパの人々と共にヘソを目指した。

 歌はほとんどなかったけれど、プロローグやサパに集まる人々のダンスナンバーが格好良かった。 フィナーレくらいはあっても良かったんじゃないかと思うけど、世界観を大事にしたかったのかな。 モノトーンの衣装が長身の宙組生に似合ってて、近未来感がよく出てました。

 バラク、真風涼帆。 最初はアンニュイな感じだけど、芝居が進むにつれて活動家のリーダーっぽさが出てきて、ロングコートの着こなしも含めてとにかく格好いい。 熱くないのが逆にいい感じで、役にあってた。

 ミレナ、星風まどか。 マキシ丈のロングスカートが似合わない。 スタイリッシュな人が多い宙組で、いつ見ても垢抜けない。 好きになれない。

 スポークスマンの紫藤りゅう。 淡々と説明を続ける硬質なキャラ。 すらっと細身なのもあってアンドロイドかと思ったら、ヘソノオが光ってたので人間だった。 星組の頃よりいい感じになったと思う。 ヘソノオの緑の光がいろんなところで効果的できれいだった。

 瑠衣蒔世は、記憶を消されて兵士にされた革命家。 記憶を消されるたびにキャラが変わるのだけど、濃い演技がよかった。

 ノア、芹香斗亜。 バラクの過去を知ってて、ストーリーの重要な役割を果たすのだけど、この人の演技はいつも私の心に響かない。

 イエレナ、夢白あや。 ミレナとイエレナという響きが似てて混同しやすいので、もっと違う名前だったら分かりやすかったと思う。 金髪ショートに黒の細身のパンツスタイルが、すごく目を引いた。 芝居も上手だし、真風との並びも似合ってて、こっちがヒロインだったら良かったのに。

 瑠風輝は総統の側近、ミレナのフィアンセ。 プロポーションのいい宙組生の中にいても、ひときわ目立つ9等身。 ギラギラしてるわけじゃないのだけど、ミレナを傀儡にして、次代の権力者になろうとしてる野望を感じた。 あっさり殺されて残念。

 総統の汝鳥さん。 思想統制に記憶操作、マッドサイエンティストで、とんでもない独裁者。 だけど、争いのない平和が欲しかったんだって、彼は彼なりにそうせざるを得ない理由があったって納得しそうになる。 さすがベテラン専科さんの存在感です。

 ズーピンの優希しおん。 元気でいい感じの若手だと思ってたら、ちょっとしたキーパーソンでした。

 ミレナの中にすべての人の思想を統合するって言うのは、銀河鉄道999の惑星メーテルみたいに人間としての実体はなくなって、 永遠に意識だけが生き続けるのかと思ったら、何事もなくミレナは生きてた。 いや、普通自我が崩壊するでしょ。 全体の話は嫌いじゃなかったんだけど、この最後の部分だけはどうしても腑に落ちなかった。 ヒロインが壊れて主人公が旅に出るのはあまりに後味悪いと思ったのかもしれないけど、だったら意識を統合するくだりは何だったんだろう?

 ネット評ほど分かりにくくもなかったし、異質でもなかった。 人はただ無為に生きてるだけじゃダメなんだって、今のコロナ禍にぴったりのテーマに感じました。