エロール 花組
不滅の棘


2003年4月2日
於・赤坂ACTシアター
フリーダ


 不老不死の薬を飲まされ、300余年の時を生きるエロール(春野寿美礼)。彼が生涯のうち、ただ1人愛した女性の末裔で、同じ名を持つフリーダ(ふづき美世)が、故フリーダの遺産をめぐって裁判を起こした。そしてエロールは、故フリーダが遺した封書を手に入れるべく、フリーダ、そして訴訟相手の男爵家の母娘にも近寄る。長い人生の中で、人としての愛を見失い、虚無の中に生きるエロール。不老不死とは一体・・・?

 全員、全場面、お衣装も道具類も、基本的に白1色!回想シーンだけならともかく、なんで?と思った。それと、必要以上に台詞を歌で綴っていくのが気になった。もっとストレートプレイぽいほうが、舞台の雰囲気にあっていた気がする。

 17世紀、エリィ(エロールの本名)が不老不死の薬を飲まされた時。「僕を実験台にしたんだ」って、オサちゃん若い。最近こういう可愛い系のオサを見なくなったからなあ。
 その一言だけで、次はもう18世紀。自分を慕ってくるフリーダを、冷たく突き放すエリィ。「俺にどうして欲しい?くちづけするか」は、まあいい。「裸になって抱き合うか」って、おいおい。しかも、彼女のドレスの胸元を引き裂いて。すみれコードって、最近ないのかな。ないんだろうな。どんどんやって(コラコラ)。で、これだけで次はもう20世紀。いくら時の流れは速いといっても、早すぎて、エリィがどういう人なのか全然分からなかった。

 20世紀。人気スター、エロール。永年生きていたために、愛とか死とかに心動かされなくなっているというか、考えたくないというか。その時だけ楽しめればいい、とダンサーの女の子はべらせて、飲んで歌って・・・。でもオサちゃん、どうしてもマジメな感じがぬけない。マミちゃんやリカちゃんに弟子入りして、悪ふざけのノウハウを学んでくるというのはどうだろう。
 1幕ラストのステージで、口紅を手の甲でぬぐうのは絶対違う!その後幕が降りるまで、ずっと頬に口紅がついたままなんだもの。それと、ファルセットで歌うのも嫌。あれはわざと娘役のふりをしていたのかな?今回、調子が悪かったのか、キィが高すぎるのか、舞台の音響が悪いのか、いつものオサちゃんの伸びのある歌声ではなくて、残念。

 享楽的な日々=言い寄ってくる女は拒まず。50年前は若い娘だったカメリア(翔つかさ)でも、若い娘と同じように相手するし。あんないい男に女として扱ってもらえたら、そりゃあ若返りもする。フリーダの「女なら誰でもいいのね!」本当に、エロールは誰でもいいらしい。というか、エロールは実際300余年を生きているので、女の外見年齢は気にならないんだろうな。
 フリーダが遺した封書を手に入れるためとはいえ、男爵令嬢クリスティーナ(遠野あすか)が結婚して、と言った時、あっさりOKしたのは驚き。「1度も結婚というものをしたことがないから」って、籍入れられないでしょ、普通なら死んでる歳なんだから。で、その直後にクリスティーナの母タチアナ(梨花ますみ)とよろしくやってるし。人の愛も感情も、エロールには少しも残っていないらしい。

 クリスティーナに撃たれたときのエロール、もっと痛そうにしてもらいたかった。次の日のステージまで身を隠していたというのは、それなりに傷が痛むからだろうと思うんだけど。手負いというのが私のツボなので、苦しむオサを見たかったな。
 最後追い詰められたエロールが、お酒を片手に、乾いた笑い声をあげながら、フラフラしているところは切なかった。結局誰とも結ばれないし。

 フリーダ2役のふづき美世。現代の元気っ娘の方は、元気で似合ってた。故フリーダのほうの、いかにも貴族のお嬢様というのは、ふーちゃんには違うかな。あの超元気な笑顔は、これからの花組が明るくなりそう。

 フリーダの弁護士助手のアルベルト。脈絡なくいきなり現われたエロールに、疑いの眼差し。それは当然だけど、あさこちゃん、今回はオサとラブラブできなくて残念だったね。

 彩吹真央の、男爵子息のハンス。母親との確執を抱え、酒に溺れ、生きる気力をなくし、あげくのはてに、銃をこめかみに当てて引き金を引くマネをする。どんなに死にたくても、トートは現われないから。も〜、設定似すぎ。
 しかも、結構盛り上がったときに使われるBGM、イントロのじゃ〜んという不協和音が、闇が広がるのイントロとそっくり。そのまま闇が広がっていくのかと思った。
 妹の自殺の原因が母なのを知って、タチアナを責めたてるハンス。自責の念に泣き崩れるタチアナ。この2人の芝居、うまい。どちらにも同情してしまう。それを見ていながら、エロールは無表情〜。

 暗い。とにかく暗い。心から笑っている人がほとんどいない。私はオサちゃんの笑顔が好きなんだって、再確認。いや、トート閣下は別格だけど。