アディナン 花組
ジャワの踊り子


2004年6月2日
於・神奈川県民ホール
アルヴィア


 宮廷の踊り子アディナンは、実はインドネシアの独立運動のリーダー。正体がばれたアディナンは、恋人アルヴィアと身を隠すが、アルヴィアを妻にねらう警視総監や、アディナンを捕らえようとする刑事タムロンに追われる。故国は独立を果たすが、アディアンとアルヴィアはこの世で結ばれることはなかった。

 古いです、作品が。1本ものの芝居にするほどの内容ではないので、かなり間延びして感じた。幕開けの歌、ベルばらが始まるかと思ったし、最後「インドネシア、万歳」と言いながら息絶える主人公って、やっぱりベルばら!?つっこみたくなるシーンが、数限りなくありました。ふざけるな!って怒りたくなるほどひどいわけではないけれど、やっぱりあまりに古い作品はリメークする必要があると思う。

 独立運動のリーダー、アディナン(春野寿美礼)。見ている限り、歌ったり踊ったりしている以外、革命分子らしいことは何もしていない。アルヴィアと孤島に身をひそめているときも、危機感なく魚と戯れて、バカップルしてるし。お魚さんぶら下げて現れた姿には、もう絶句です。にっこり笑顔がかわいいので、許せてしまうのだけれど、こんな何もしない人がリーダーでいいの?マタハリの一味にこんな人もいたんだよ、っていうくらいの方がよかったかも。
 でも、やっぱり歌は上手い。演歌調の歌で、歌そのものに魅力は感じないのに、おさちゃんの歌声を聞いているだけで幸せになれる。特に低音が、よく響いて好き。

 アルヴィア(ふづき美世)は、ひたすらアディナンに寄り添って、けなげ。というか、あまり考えていなさそう。アディナンにも、弟のオースマンにまで平手打ちされて、それでも文句言わないし。エキサイトしてしまっているアルヴィアを正気に戻すためなのは分かるけれど、いきなり殴るのは愛を感じないぞ。
 警視総監に嫁ぐときに、家の前にサロンをかけながら、「ここに戻ってきても、貴方は安全よ。私はいないけれど」と言うシーン、けなげだなあ。おさちゃんとふーちゃん、いい具合に似合いになってきた。
 それはそうと、アディナンがマタハリ疑惑をかけられた時のアルヴィアの台詞。「アディナンは、弟のオースマンが革命分子ということで宮廷を追われたとき、全然かばってくれなかった」って。アディナンを擁護しているつもりなんだろうけれど、非難しているようにしか感じない台詞を、満面の笑みで言われてもねえ。もうちょっといい台詞はないんだろうか。

 ハジ・タムロンの蘭寿とむ。いつになく寡黙で渋い役だった。職務に忠実で、最後は職務の重責と、自分の良心の間で葛藤して、段々精神不安定になっていく人。あの蘭とむが笑わない!陰気そうに、背中をすぼめている。極め付けに、1人称が「わし」!引いてしまうので、わしはやめてください。笑顔のない蘭とむは、ちょっと物足りないのだけれど、なかなか好演していたと思う。
 最後、瀕死の主役カップルの周りに皆が集まっているとき、1人うつ入っていたタムロン、誰も気づいてくれないうちに、ピストル自殺してしまいました。きっと客席の大部分の人たちは、アディナンたちを見ていたんだろうな〜。私はちゃんとタムロンのことを見てましたとも。
 明るい持ち味の蘭とむくんなので、タムロンが暗い表情をすればするほど、無理して職務についているんだな〜と切なくなる。月組バージョンは、ダイジェスト映像で見ただけなので何とも言えないけれど、持ち味がクールな祐飛くんのタムロンは、もともとニヒルな人という感じがした。ちょっと見てみたかったな。
 ところで、タムロンの歌の中で、愛を知り、恐れを知った♪とか何とか歌っていたのだけれど、タムロンの愛って?とりあえず恋人はいなかった。ありがちにも敵の恋人であるアルヴィアを恋したのかとも思ったけれど、最後アルヴィアを撃ち殺していたので、それもない。とすると、やっぱりアディナン?自分にはアディナンは撃てないって言ってたし。アディナンを追いかけるのも、お仕事してお給料貰わないと食べていけないからだと言ってました。考えれば考えるほど、奥の深い(?)男だ、タムロン・・・。

 アルヴィアの弟、オースマン、華形ひかる。アディナンが歌って踊っていちゃついているだけなのに対して、きちんと独立運動らしいこともしているし、恋人もいるし、見せ場も多くてすごく美味しい役。なのに、弱い。もっと押し出しの強い演技ができるようになってほしい。
 警視総監の夏美ようが格好よかった。嫌な敵キャラには見えなかった。昔の作品らしく主役が全てなのに、はっち・らんとむが格好よくて、おさ・みつるが弱い。ちょっと毒があるくらいのほうが、今時は格好よく見えるんですよね。

 今回、一番会場の笑いをさらっていったのが、ストーリーテラーの未沙のえるさん。役名を見たら、「私」というらしい。ストーリーに関係のないストーリーテラーって正直好きじゃないのだけれど、未沙さんくらい存在感があったら、OK。「そろそろ登場するかな〜と思ってたでしょ?」とか、どこからがアドリブなのか分からない未沙さん流のノリで、客席盛り上がりまくりでした。

 ショーが少なくて残念だったけれど、その少ないショーの中で、白い羽を背負った男役さんたちのダンスが格好よかった。おさちゃんも、本領発揮とばかりに眼力こめて。最後は神奈川出身の生徒さん3人の紹介があったり、はっちさんとおさちゃんの挨拶が聞けて、全国ツアーらしかった。