ファントム

花組
ファントム

2011年8月30日
於・東京宝塚劇場

クリスティーヌ


 宙組、花組に続いて3度目の上演。今まで「ファントム」も「オペラ座の怪人」もあまり感動したことがなくて、好みの作品じゃないと思っていたのに、今回自分でも予想外の大感動。 こんなにも印象が変わるとは!

 プロローグ。闇夜のオペラ座にたたずむファントムと従者たちのダンスナンバー。めちゃくちゃ格好良くて、つかみばっちりです。 この後も従者たちのダンスが格好良くて、こんなにダンスあったっけ?スピーディで息をつかせない舞台で素敵でした。
 少女漫画風な母子のイラストがなくなったのもよかった。あれはちょっと作品にあわなかったので。

 エリック、蘭寿とむ。 醜い顔のせいで地下深くでしか暮らせない境遇なのに、本当にピュアで誰かを恨むということのない、いい青年。 和央エリックや春野エリックはもっと孤高の人という雰囲気で、どこか冷めた感じがしたけれど、らんとむエリックはずいぶん違いました。
 キャリエールがオペラ座を出ていくと言った時に「僕も一緒に出ていく」と言うところは、 普段自分が他人と違っていることなんて忘れていて、ふとした拍子に現実に引き戻されるのが、一層かわいそう。 従者たちをつれてきたのも、エリック自身が一人では耐えられないのと、同じように独りで生きている彼らを同情する気持ちからだったのかもしれないと、今回初めて分かった気がします。
 クリスティーヌに対する気持ちも、母への思慕とかではなく、本当に愛して見えました。 たかこ&おさの時は、もうちょっと冷めた愛し方というか、母の替わりくらいの想いに見えたけれど。 シャンドン伯爵と去っていくクリスティーヌを後ろから見送る場面がすごく切なくて、こんなに失恋の感情を持ったエリックは初めてです。
 最期、クリスティーヌの腕に抱かれて死んでいくエリック。お互いの気持ちが通じ合って、哀しいけれどとても幸せそうでした。 「ファントム」がラブストーリーに見えたし、ラストは涙が止まらないくらいの感動で、「ファントム」は怪人の話じゃなくてひとりの青年の話なんだと感じました。

 クリスティーヌ、蘭乃はな。 花總クリスティーヌや桜乃クリスティーヌは、ファントムに対する同情や敬意のような愛情を持っていた感じだったけれど、らんはなクリスティーヌは本当に愛していた。 エリックに顔を見せてと頼むところでは、これだけ愛しているのだからどんな顔を見ても絶対大丈夫という強い確信を持っているのが感じられて、 ショックで思わず逃げ出してしまった自分が許せないくらいに見えました。
 最期エリックの仮面を外してキスをするところは、今までのクリスティーヌは母性と同情で見送った感じがしたけれど、らんはなちゃんは本当に愛してるんだと感じました。 エリックは本当によかったねと思うけれど、逆にクリスティーヌはエリックの死から立ち直れないんじゃないかと心配なくらい。 他のクリスティーヌだったら、このままシャンドン伯爵と一緒になるかな?とも思えたけれど、らんはなクリスティーヌはそれはなさそう。

 キャリエール、壮一帆。 自分の保身しか考えてない、小さい男。エリックに対する愛情が全然感じられない。 クリスティーヌに対して「いつか自分がエリックを倒さなくてはならない」と話しているときも、ジレンマに苦しむ風でもないし、いつもクールというか深い愛情がなく見える。 見せ場の銀橋では、酷い境遇に置きざりにしたパパを恨むわけでもないらんとむエリックが、パパよりできた大人に見えました。

 シャンドン伯爵、愛音羽麗。 気軽に女の子に声をかけるプレイボーイ風なんだけど、嫌みのないさらっとしたお貴族様。 それでいて、クリスティーヌを助けに行こうという時は、なかなか頼りがいのありそうな大人の男。 クリスティーヌが一瞬心をひかれるのは当然な素敵な青年貴族だけれど、今回はエリックとの愛が強すぎて負けました。

 カルロッタ、桜一花。 すごいメークに徹底した嫌な女っぷり。 たきさんのカルロッタはどこか憎めない可愛いところがあったけれど、いちかちゃんのカルロッタはどこまでも意地の悪い女なので、殺されても自業自得でかわいそうと思わない。 エリックが、こんな女のもとにクリスティーヌを置いておいたら大変だと地下に連れていくのも当然です。

 望海風斗くんと瀬戸かずやくんがちょっと気になるので、劇団員3人組のシーンは注目してました。 爽やか笑顔の風斗くん&男っぽくてシャープなあきら君。 キャラが全くかぶらないので、アンサンブルで使われていても楽しめました。 もうちょっと台詞があればよかったのだけど・・・

 フィナーレのダンスナンバーが、プロローグ同様いかにも花組という感じで格好いい。 「宙組の蘭寿とむ」という響きにすっかり慣れてしまって、今更花組!?と思ったけれど、一度見たらやっぱり「花組の蘭寿とむ」もいいな〜と思いました。 真ん中が似合う人。今後の花組が楽しみです。