クラブのダンサー兼コリオグラファーのショーンは、毎日をそこそこ楽しく暮らせればいいと考え、刹那的な日々を送っていた。ある夜ショーンは交通事故にあい、長い昏睡状態に陥ってしまう。奇跡的に目覚めた彼は、世の中に不思議な違和感を感じる。見えるはずのない悪魔、人の弱みにつけこみ、人間を破滅に追い込むことを喜びにしている悪鬼たちの姿が見えるのだった。 彼の元を去った恋人ジェシカを死に追いやった悪鬼。ショーン自身もクラブを追われ、居所なく孤独感にさいなまれる。ショーンは協力者サム、サーシャと共に、悪鬼に立ち向かう。悪鬼に狙われたサーシャが死のふちを彷徨っているのを助けるため、ショーンは自分の命を捨てることを考える。 結末はハッピーエンド。無事サーシャを黄泉の国から連れ戻し、ショーンもジェシカも生き返る。サーシャと2人手に手をとって、愛と正義のために戦っていこう! 全体にハードボイルドで、ショーンもサーシャも笑っているシーンがほとんどない。なのに悪鬼アズ&ラルゥやサムの存在で、なぜかコメディ。そして、最後がそうきたか〜!という落ち。愛と正義のために戦うヒーロー、ショーン・フィンリー!? プロローグ、前衛的なダンスナンバーが格好いい。ダンスの花組ここにありという感じで、つかみばっちりです。他にも素敵なダンスシーンは沢山あるのだけれど、その中でも1番なのがフィナーレの男役のナンバー。息をのむほどの格好よさ、これぞ宝塚の男役という最高のダンスでした。ダンス好きにはたまらない。 ショーンの蘭寿とむ。滅茶苦茶格好いいです。珍しくロン毛で、目つき悪くて、ダンス踊りまくり。熱くて、男らしくて、まっすぐで、優しくて、強い。ファンモード120%で語ってます。 最初の、今が楽しければそれでいいと歌っているところ。らんとむ君だと、そんなに享楽的に見えない。傷つきたくないから、適当に流して生きているだけで、いいかげんな人には見えない。その後の、皆に見放されて孤独を歌うところも、愛されキャラのイメージが強くて、そんなに切なく見えない。いつか、本当にワルで孤独な男も見てみたいな〜と思う1ファンでした。 ショーンはとにかく格好いい。自分を捨てた恋人や、彼女を奪った男、自分をお払い箱にしたクラブのメンバーにも、本気で心配して体を張って助ける男らしさ。正気を失っていく恋人を抱きしめ、無理な願いもうんうんと聞いてあげる、でもただのイエスマンではない優しさ。自分や周りの人間の命が狙われているという、かなりシリアスな状況だから、目つきが鋭くて、なんともセクシィ。こんな男に「あなたに恋してもいいですか」とか「あなたが(俺の生きる、戦う)理由です」なんて言われたら、卒倒してしまう。こんな歯の浮くような台詞も、さらっと嫌味なく言えてしまうのが、とむ君の持ち味なんですね。悪鬼たちは、全身鳥肌たって倒れていたけれど。出ずっぱりで歌って踊って、大満足。 恋人サーシャ、華城季帆。スタイルいいですね。かわいい女の子という感じではないけれど、エキセントリックで、張り詰めた弦のような繊細さと硬質さを持った人。悪鬼(ラルゥ)に狙われて、どんどん正気を失っていくところ。このままフェリーチタ(落陽のパレルモ)になってしまうのかと、ハラハラしました。ショーンに愛されて、全部受け止めてもらって、最後は命を張って助けてもらって。うらやましい限りです。 サム、愛音羽麗。イカレた科学者、コメディ路線のお笑いキャラ。丸眼鏡の風体だけで笑えるのに、やることなすこと可笑しくて。ベタベタの演歌調のテーマソングに表情をきめて去っていくところとか、自慢のプラズマ銃を意気揚々と振り回しているところとか。音程はずれまくりの歌も、頭痛くなりそうですが可笑しかった。 正塚先生のキャラクターは、どんなコメディ路線の人でもきちんと人格あるのが好きなのだけれど、このサムも変わり者なだけじゃなくて、それなりに格好いいところもある。ショーンが自分の命を捨てると言い出したとき、なんとか思いとどまらせようと説得する必死さは、心をうちました。結局自分で殺しちゃうんだけどね〜、そのあとの号泣がまた切ない。悪鬼たちがパーティはじめて大騒ぎするので、あまり感傷にひたっていられないんですけど。1回目見たときには銃の暴発がなくて、2回目に暴発したのにびっくり。あれでは、ショーンも「ちゃんと狙えよ、痛いのは嫌だから」って言うわけです。 みわっちがこんなにコメディできるなんて、思っていませんでした。ナイスキャラです。 この作品で、避けて通れないキャラクターが、悪鬼のラルゥ(桜一花)とアズ(未涼亜紀)。なんなの、あいつら?悪役なのに憎めない。というか笑ってしまう。本当は、絶対許せない存在のはずなのに。 ラルゥは、一花ちゃん以外にできる人はいないでしょうね。「俺さ〜」と男言葉でドスをきかせてみたと思ったら、「いや〜んあたしね〜」みたいなコギャルに変わる。ショーンの背中に飛び乗ったり、ベンチを飛び超えたり、身のこなしがすごく軽くて、体重感じさせない。ショーンが剣を抜いて突き刺したら、自分で引き抜いてトントントンとお料理始める。マシンガンも手榴弾も何も効かない。ショーンが必死になればなるほど、ラルゥは楽しくて仕方がない。翻弄されてよろよろのとむ君が、見ていて可笑しい。ショーンの「お前、キャラクター統一しろよ!」という捨て台詞がたまりません。こんな悪鬼に振り回されて、笑うわけにいかないとむ君も大変ですよね。 ブレードヘア?あの髪型が可愛いです。くるくる変わるキャラクター、表情、声色、すべて絶品でした。 アズ、最初は格好いい系かとおもったのだけれど、どんどんキャラクター崩れてました。サーシャに「椅子!(運んで)」といわれて、「く〜・・・」と言いながらはけていくところ、可笑しい。まっつの独特の持ち味が生かされたキャラでした。 らんとむ君が殴ろうとしても、殴れない。「カナリア」にもこんなシーンあったなあと思いながら見てました。そうそう、「お前、何だ」というショーンの言葉に、「サム」とか「ラルゥ」とかさらっと名前名乗るシーンもありました。そうじゃなくて、何者なんだってことなんだよ〜と思いつつ、正塚先生のこういう言葉遊びが楽しい。随所に言葉遊びがちりばめられていて、すごいシリアスな話なのに笑ってしまう。 ショーンの元恋人ジェシカ、野々すみ花。特別なんてことない普通の女の子という設定なら問題はなかったのだけれど、クラブの花形ダンサーで、ショーン程のいい男の恋人で、さらに別の男からも想われているにしては、幼児体型で色気不足。研1の子に多くを求めてもとは思うけれど、残念です。 フランク、悠真倫。ショーンの昏睡中に恋人ジェシカを奪い、さらにコリオグラファーの地位も奪った男。らんとむ君なら、ダンサー兼コリオグラファーと聞いて納得だけれど、まりんちゃんはとても・・・。さらに恋人の植物人間状態にショックを受けているジェシカの、心の隙間を埋めて新しい恋人になるほどの男の魅力もあまり感じない。せっかくさおたさんという大人の魅力を持ったダンサーがいるのだから、この役はさおたさんで見たかった。 医者(嶺輝あやと)と看護士(扇めぐむ)の幕前トークが、絶妙で可笑しかった。やる気のない看護士ビルと、一体何なんだ〜状態の医者エリオット。同じシーンが2回繰り返されて、微妙に台詞が「ジュース飲んでます」と「スムージィ飲んでます」と違ってたりして、正塚先生やっぱり面白い。というか、ショーンあのキャラクターで、目覚めてすぐにスムージィ?コーヒーのブラックとか飲みそうな印象なのに。 あやと君は背が高くて、ギャングや悪鬼をやっていても格好よかった。らんとむが小柄に見えたもの。 カーテンコールの一花&まっつの小芝居が、毎回違ってて楽しみ。見てた限りでは、まっつが一花ちゃんに聴診器あててお医者さんごっこ。一花ちゃんがポーズをきめて、まっつがカメラマン。2人でバスケのドリブル。他の人たちも、いろいろやってましたね。ショーンはサムに借りたプラズマ銃で、客席を一掃してました。 で、タイトルの「スカウト」。あまり必要のない落ちのような気もするのだけれど、悪鬼と戦うヒーローとしてスカウトされたショーン。サーシャは、途中記憶なかったんだろうと思ってます。ショーンが戦士としてふさわしくなければ、そのままサーシャは死んでしまったのかな?みわっちも戦士の1人なんだろうか。あまり深く考える必要もないですけどね。 正塚先生は、パンフレットで「これといった明確なテーマはない」と書いているけれど、愛する人のために、自分の周りの人のために、そして自分自身のために、キレたり自暴自棄になったりしないで、人生を大切に送ろうっていうテーマを感じました。ちょっとくさいけど、まあらんとむの格好よさに免じて許しましょう。 はじめて最前列センターという良席で見たので、最初から最後まで心臓バクバクでした。遠征してよかった〜。 |