月組
A-Rex


2008年1月11日
於・日本青年館



 如何にして大王アレクサンダーは世界の覇者たる道を邁進するに至ったか・・・という副題がついているけれど、全然違う印象でした。青年アレックスが、神に操られたのか、周囲の人間に操られたのか、自分自身の意思なのか、よく分からないまま戦いを続けて、後戻り出来なくなってしまったという感じ。

 アテナの出雲綾が司会進行役。遅れて入ってきた人たちに「まだ幕は開かないからゆっくり席についてね。転ばないようにね」なんてアドリブを言うところから始まって、皆を芝居の登場人物として紹介していく。かと言って劇中劇なわけではなくて、人生は芝居のようなもの、始めから筋書きが決まっているようでいて、ちょっとしたきっかけでどうにでも変わっていく・・・。荻田先生の独特の世界観は、ちょっと言葉では言い表しにくいのですが、案外嫌いではないので、台詞劇のような今回の芝居も、それなりに雰囲気を味わってきました。

 アレックスの瀬奈じゅん。大王アレクサンダーという印象は全くなくて、普通の青年。世界制覇というわりには、戦闘シーンは全くないし、本人が何もしない間に勝手に勝ち進んで行ったみたい。思いを語るわけでもないし、ダンスの見せ場があるわけでもないし、主役と言われるわりにはいるだけっぽい。
 コマンドー風だったり、軍服だったり、黒燕尾だったり、時代考証無視の衣装が、麻子ちゃんは何を着ても格好いいので、ビジュアル的に楽しめました。

 ニケの彩乃かなみとディオニュソスの霧矢大夢。勝利の女神とワインの神。どちらもアレックスを自分のものにしたいらしいけど、アレックスが何を考えているのかが分からない。ペルシア征伐に行くのも、周りの人が期待しているから?ニケが勝利を約束するから?ディオニュソスが意味深なことをささやくから・・・?アレックス本人の意思があるのかないのか。

 ニケはアレックスが好きで、どんどん自分から離れていってしまうのがちょっと寂しいらしい。でも女神だから、離れたところから見てるだけ。最後ロクサーヌとして現われて、想いを遂げると言うかなんと言うか・・・。「死は人間が最後に得る勝利」なんだそうです。

 ディオニュソスは、自分はアレックスの影だとか言いながら、最後はかなり大胆にアレックスを誘惑してました。ちょっとアオセトナを思わせるような妖艶な印象の役なのだけれど、きりやんには色気を感じない。怪しげなんだけど、妖しげじゃないの。芝居は上手なんだけど。
 この2人がアレックスを翻弄しているようでありながら、結局本当にアレックスを自分の思うままに操れたわけでもない。「神は、人の心の中にしか生きられない」というディオニュソスの言葉が、ちょっと可哀想。

 アレックスの母オリンピアス(矢代鴻)は、「戦争が嫌いだったわけじゃない。戦争好きな夫が嫌いだっただけ。息子を愛していたわけじゃない。自分の後継者が欲しかっただけ」って、息子本人に言ってのけるし。単なる悪女ではなくて、強そうでもろい微妙な味わいが、さすがです。

 父王&ペルシア王、萬あきら。存在感は抜群。アレックスが超えたかったものは、父。これはどんな男の子にとっても、そうなんでしょうね。

 ヴァルシネ(天野ほたる)が、祖国を滅ぼしてほしいとアレックスに頼む理由が驚き。スパイ扱いされずに愛する祖国に帰るためには、祖国が滅ぶしかないって。女は強い。
 妹姫クレオパトラ(麻華りんか)は、自分の結婚式で父王が暗殺されてしまってから、狂ってしまったように彷徨っている。オフィーリアのように、美しくて怖い。
 とにかく女性陣がキャラクター豊富で、インパクト強かった。ニケが綺麗な声で、愛らしく「皆殺し♪」って歌うのも強烈だったけど。

 若手男役さんは、兵士のアンサンブルが多かったけれど、龍真咲くんは華がある。ドレッドヘアがいい感じ。

 ストーリー展開そのものよりも、台詞を聞く芝居でした。言葉の響きそのものを感じて、雰囲気を味わう感じ。
 宝塚らしくないと言えばらしくないけれど、宝塚らしい=おおげさで嫌気がするような愁嘆場やベタなギャグが散りばめられた、某元理事長の作品ならば、宝塚らしくない作品の方がずっと好きです。