月組
グレート・ギャツビー


2008年9月11日
於・日生劇場



 ギャツビー邸で夜ごと繰り広げられるパーティでの人々の関心は、謎の主人ギャツビーのことだった。
 ギャツビーは、家柄の違いから引き裂かれた恋人デイジーを、今も想い続けていた。闇稼業で財をなし、裏の世界のボスに上り詰めたギャツビーは、隣人ニックの引き合わせで、デイジーと再会をはたす。デイジーは既に結婚していたが、夫には愛人がいて、夫婦関係は冷めていた。ギャツビーとデイジーの仲を知った夫トムは、ギャツビーと決着をつけようと申し出る。捨てられたトムの愛人マートルは、トムの車と思い込み、ギャツビーの車に飛び込み即死する。運転していたのはデイジーだったが、ギャツビーは彼女をかばい、マートルの夫に撃たれて命を落とす。

 ギャツビーの瀬奈じゅん。スーツ姿がスマートで、とにかく格好いい。クールそうなのに、熱い情熱を秘めていて、悲恋の末破滅に向っていく。ファンとしては、こういう麻子ちゃんが見たかった。
 あれだけ栄華を極めていたのに、ギャング仲間は「友情は生きているうちだけ」と去って行き、パーティに集まっていた人たちも誰も葬儀に参列しないのが、世の無常を感じます。ただ、デイジーが黙って墓に花を1輪投げ入れるのを見て、心では結ばれてるんだなと、救われました。
 死んでもなお、デイジーを見守り続けているギャツビーの後ろ姿が、やっぱり格好いい。

 デイジー、城咲あい。麻子ちゃんに「永遠の恋人」と称され、「君はばらより美しい」なんて歯の浮くような台詞を2回も言われて、なんてうらやましい。若い頃の奔放な娘ぶりも、人妻になってからの落ち着いた色香も、どちらもよかった。あいあいは、幸せなラブコメより、こういう悲恋が似合いますね。
 手に手をとって駆け落ちしそうな雰囲気だったのに、結局夫のもとにとどまるしかないデイジーは、この後綺麗なお馬鹿さんに徹するのかな。

 ニック、遼河はるひ。上流階級の中に紛れ込んでしまった、平凡な庶民という感じ。ギャツビーの世界に入り込めず、どんどん話が進んでいってしまうのを傍観している人という感じだったけれど、実は最後まで事のてんまつを見届けた人なので、狂言回しっぽい存在感がもっとあったらよかったのに。
 ゴルフ場のナンバーは、ちょっと退屈してしまいました。もうしかして、はるひ君の見せ場だったのかもしれないけれど、長かった。

 トム、青樹泉。滅茶苦茶嫌な奴。自分に愛人がいたことは棚に上げて、妻の浮気は絶対許さない。その愛人も、日常生活に退屈しているマダムとか商売女ならまだしも、上流階級に憧れる素人の庶民相手に、別れ話もなく手切れ金も渡さず、スマートじゃなさすぎる。デイジーが人をひいてしまったのを知って、世間体のためにギャツビーに罪をおし付けて、外国に逃げるし。こんな夫の元で一生暮らさなくてはならないデイジーが、可哀想すぎる。

 マートル、憧花まりな。下町の奥さんぽい、洗練されていない感じがよく出ていた。派手好きなフラッパーにとって、トムは憧れの人だったんでしょうね。ダンナは悪い人じゃなかったのに、悪い男を好きになったむくいかな。

 マートルの夫、ウィルソン、磯野千尋。うらぶれた亭主としては申し分ないけれど、磯野さんほどの演技派の専科さんにはもったいない役かと思っていたら、ずいぶん重要な役でした。奥さんがどんなに派手にさわいでいても、それを静かに見ているだけで幸せだったんでしょうね。マートルの死後、どんどん言動がおかしくなって、最後ギャツビーと心中(?)するのが痛々しい。

 ジョーダン、涼城まりな。大きいはるひ君と並ぶと、本当に小さい。でもすごく勝気で、現代の女という感じ。ぼくとつとしたニックとは、あまり似合いのカップルではないと思っていたら、飽きたらとっとと去ってしまった。強烈なキャラクターの人でした。

 ギャングのボス、越乃リュウ。存在感がすごい。バーのダンスナンバーも、これぞ男役という格好よさ。どこかとぼけた雰囲気もあるのに、いざとなるとビシっと命令を下すあたり、やっぱり大物なんだなと思えます。

 プロローグとフィナーレがないのがちょっと寂しいけれど、ギャングのナンバーが格好よかったので良しとします。
 神の目の前で、カップルが歌い継いでいくところもよかった。女は現実主義者で、感情の赴くままに生きるけれど、男は理想主義。どんなに破綻していても、彼女の心が別の男のところにあっても、妻を閉じ込めて、うわべだけの夫婦生活を守って幸せなの?
 ギャツビーにしても、昔の想いだけでここまで来てしまって、男ってかわいそう。でも、デイジーと引き裂かれたまま一生過ごさなければいけないよりも、彼女のために死んでいけたギャツビーは、案外幸せだったのかもね。