フランシスコ 雪組
追憶のバルセロナ
ON THE 5th


2002年8月22日
於・東京宝塚劇場
イサベル


BGM*追憶のバルセロナ

 ぶんちゃんのお披露目公演にして、さよなら公演。何年も何年も見続けて、トップになる日を心待ちにしていて、それでたった1回かと思うと寂しい限り。しかも星組でなく、雪組かと思うとなおさら。自分の中で、宝塚の1つの時代が終わったように感じてしまいました。ファン・ビジョンで見ていることもあるでしょうが、今回の作品は申し分なし、気に入りました。ぶんちゃん、LOVE☆

 戦いで記憶を失った主人公。記憶が戻ってみると、家族は死に絶え、恋人は親友と結婚していた。主人公は自分の命の恩人である女性と恋に落ち、故国を救おうと立ち上がる。こう書くと、ありがちなストーリーかも。月組の「大海賊」とか、かなり前になるけれど、星組の「炎のボレロ」(日向薫)とか。でも、お約束ものも結構好きだったりするので、全然OK。

 主人公フランシスコ(絵麻緒ゆう)と、その婚約者セシリア(白羽ゆり)。何不自由ない幸せな、若いカップルという感じで、可愛かった。このときのフランシスコの、悩みなんて何もなさそうな笑顔が可愛い。中盤からは思いつめた表情が多いから。個人的には、ぶんちゃんの思いつめた表情も笑顔も、どちらも好きです。
 2人の別れのデュエット。難しそうな掛け合いの歌が、途中から親友アントニオ(成瀬こうき)との戦場での歌に変わっていく。今回、中幕を使わず、盆とセットの移動だけで全幕通していたのが、芝居の流れを止めなくてよかった。ぶんちゃんとなるちゃんのデュエットの後、引き続いて戦闘シーンに。上手下手のレンガ塀の上にジプシーが乗って歌う中、スペイン兵が入れ替わりながら踊る。この辺りの演出が好きだった。あと、負傷したフランシスコが悪夢にうなされるシーンも。黒天使みたいなのが出てきた。

 負傷して苦しむぶんちゃん。好きな人が苦しむシーンが大好きな私は、嬉しくて。「痛い」って言ってる〜、と喜んでしまってごめんなさい。重いシーンになりそうなのに、ジプシーの皆が明るくて、笑ってしまう。ジプシーたちがよかった。イサベル(紺野まひる)はじめ娘役たちは、気が強くて可愛くて、男役たちは、自然なんだけれどユーモアがあって、いい感じ。
 ロベルトの朝海ひかるは、こんなに男気のある演技をすると思っていなかったので、驚いた。もっと可愛いと思っていたので。口が悪くて、でもさりげなく優しいところとか、ナイス。イアーゴー(未沙のえる)とのやりとりも楽しかった。未沙さんは、あんなにうさん臭い役をこなせるなんて、さすが専科さん。
 まひるちゃんは、トップお披露目とは思えないくらい、堂々としていて、役にもあっていて可愛かった。つくづく1回きりなんてもったいない。

 アントニオの描かれ方が、しっかりしていてよかった。フランスに寝返った卑怯者なのではなく、愛する人を守るため、命あってこそと考えて。親友の恋人を奪ったわけでなく、彼女が望むなら、自分の気持ちを受け入れてもらおうと。そして、こうしたことに確信が持てず、思い悩んだりもする。難しいキャラクターなのに、成瀬君上手いよ。
 ぶんちゃんと成瀬君のデュエット第2弾、対立の歌。男役さん同士の掛け合いの歌は大好きなのだけれど、これもよかった。雪組の皆、歌がうまい。
 アントニオ、捕まって拷問されてしまったらしいけれど、公開処刑のシーンのお衣装、あんなに綺麗でいいの?最近「ブラヴォー・ツー・ゼロ」という拷問シーンばかりのビデオを見たばかりなので、ついそう思ったり。
 フランシスコに再会したセシリアが、夫を愛していると言い切ったのが好きだった。変に昔の恋愛感情むしかえして、うじうじやられるのは嫌なので。

 フランス軍のクリストフ大尉(貴城けい)。横に未沙さんなんていう、色濃いのを従えてるので、ちょっとかげ薄くなりがちだったけれど、職務に忠実なできる軍人という感じで、敵=嫌な奴でなかったのがよかった。
 今回、どのキャラクターもしっかりしていて、それはないだろう、という人がいなかった。フランシスコの父母、セシリアの父母の性格もちゃんと見えたし、使用人フェイホオ(音月桂)は重くなりそうなシーンに軽さを与えてくれた。

 ラストのフランシスコの演説。スペインのために立ちあがる日のために、皆生きぬこうと言うフレーズが結構好きだった。たった1人の英雄が一瞬にして敵国を打ち負かしてハッピーエンドなんて、かえって嘘っぽいし、アントニオの、愛するもののために生きるべきだという意志を受け入れてもいる。それに賛同する人々の歌も、一斉に合唱するのではなくて、1人、また1人と歌い始め、やがて皆の合唱になっていくのがよかった。

 あと、見どころはぶんちゃん(だけじゃないけれど、今回ファン・ビジョンにつき)のお衣装。おおよそ見たいお衣装を全て着ていた。
 スパニッシュ風な礼服。金モールの軍服。胸もとを紐でしめる白シャツ。(←こういう感じのをエレジーのノルちゃんが着ていて、自分でも欲しくなってつい買ってしまったんです。で、今回着て行ってたので、気分はぶんちゃんとお揃い。)ジプシー風。極めつけが、黒いマント。なにもそこまで翻さなくてもいいでしょう、というくらいにマントを翻すのが好みなんです。

 今回のショーは、ちょっといつもと違っていた。幕開け前に道化が出てきて前芝居したり、パレードの後に、さらにショーが続いたり。あと、せりの新しい使い方発見。脱いだお衣装を、下がっているせりの中に投げ入れていた。
 ショーと言えば、ちょっと個人的に嫌だったシーン。去年のNYのテロを、1シーンとして入れていた。私の知人が、あのテロで亡くなっているのです。まだ喪も明けてない。あのシーンは、普通の事故で恋人を失うのだって構わないわけなのに、なんでわざわざそんな現実的な事件を入れるのだろう。せっかくぶんちゃんが素敵なのに、すっかり現実に引き戻されて、嫌な気分でした。

 P.S 成瀬くんも今回で退団。成瀬君の笑顔は周りを明るくしてくれて、ショー向きでよかったのに。最近の劇団の方針は、かなり気に食わない。