夫差 雪組
愛燃える -呉王夫差‐
Rose Garden


2002年1月17日
於・東京宝塚劇場
西施


 宿敵同士の呉と越。戦に負けた越王は、恭順のしるしとして、呉王夫差(ふさ)に、美女西施(せいし)を贈る。だがそれは、機を見て呉に攻め入るための罠だった。夫差は、偽りと知りつつ西施への愛に溺れ、ついに呉は越に攻め入られてしまう。

 轟悠の、トップとしては最後の作品。なのに夫差は、なんだかふにゃけた国王だった。国を失っても西施を愛する、なんて家臣の前で言ってはいけないでしょう、何があっても。家臣の忠告は聞かないし、軍も国政も上の空で西施にうつつぬかしてるし、そんなに西施がいいなら、国王の地位は誰かに譲って、西施と駆け落ちでも何でもすればいいのに。男らしさに関しては、その辺の男優の比ではないくらい男らしいイシちゃんに、こんな情けない男を最後にやらせるなんて。でもまあ、最後炎にまかれて紙ふぶき舞う中死んでいく姿は、さっきまでの情けない夫差とは思えないくらい、迫力があって、男役・轟悠を見た感じがした。ただ、国を滅ぼしても愛した西施が自分の目の前で死んでいったのに、抱きおこすこともなく、西施はせり下がっていき、夫差だけせり上がるという演出はどうかと思う。せめて2人抱き合って、炎にまかれてもよかったのに・・・

 月影瞳の西施。夫差だけでなく、家臣の王孫惟(おうそんい)からも命がけで愛されておいしい役ではあったけれど、夫差を愛するようになってしまって苦しむとか、越の策と夫差の愛の間で悩むとか、何かなかったのだろうか。なんとなく回りに流されるままになっているだけに見えた。幼馴染の范蠡(はんれい)を愛しているのか、夫差を愛しているのかも、よく分からなかった。 夫差は西施のどこに、国を滅ぼすほどに心を奪われたのだろう。絶世の美女というから、やっぱり顔?夫差も西施も、相手を憎みながらも愛してしまう心の葛藤とか、理性で抑えきれない感情とか、もう少し見せて欲しかった。

 絵麻緒ゆうの范蠡も、中途半端な役だった。自分に想いを寄せている西施すら、越の国のために利用するほどの男なら、下剋上するほどの野心家でもいいと思ったのだが、お役目を果たす以上のことは特になかった。西施を愛しているのかも分からなかったし、「我が愛」のチャムガのほうが、ずっと格好いい将軍だった。

 一番いい役だと思ったのが、朝海ひかるの伍封(ごふ)。呉のため、夫差のためを一番真剣に考え、疎まれることを覚悟で夫差に進言するのだが、聞く耳を持たない夫差に自刃を申し付けられてしまう。この人にも、ちょっとくらいラブロマンスがあったほうがよかった気もするが、命を賭けても忠心をつくす、というのが私のツボなので、今回の中ではベストキャラだった。あとは、死に際をもう少し研究してくれると、もっと格好よかったかも。さくっと首を切って、あっさり死んでしまった。過去の死に際で良かったと思うのは、やはり「我が愛」のチャムガ(絵麻緒ゆう=断崖絶壁の上から、まっさかさまに落下)、「大海賊」のエドガー(湖月わたる=絶命後、暗転まで目を見開いたまま)、「エルドラド」のワルパ(紫吹淳=直立のまま、後ろに倒れる)。死に際を制する者は、男役を制する。←自論。

 これからどれくらい、轟悠の男役がみられるのか分からないけれど、今度は男らしい男を見たい。「凱旋門」のラヴィックや、「風共」のレットのように、哀愁を含んだ男でもいいし、「茜さす」の中大兄皇子のようなワンマンでもいいし。