雪組
仮面の男
Royal Straight Frush

2011年10月30日
於・東京宝塚劇場



 アレクサンドル・デュマ原作「仮面の男」。フランス国王ルイ14世には双子の兄がいた。 仮面をかぶせられて投獄されている兄フィリップを、もと三銃士のアトス・ポルトス・アラミスが救いだし、ルイと入れ替えようと計画する。 以前は三銃士と共に活躍し、友情を誓っていたダルタニャンは、今は銃士隊長として国王の警護にあたっていて、彼らとは対立する立場にあった。

 「三銃士」。学生時代からの愛読書で、半端ない思い入れのある物語なのに、宝塚での評判は散々。 東京に向けて大幅に修正があったとは聞くけれど、いったいどんな作品なのがドキドキしながら見に行きました。 結論としては、噂よりは良かった。

 プロローグ。大きな鉄仮面のセットの前に現れるルイ・・・いやたぶんフィリップ。「望んだ運命じゃない♪」みたいな歌詞だったので。 続いてダルタニャンとルイーズ、最後に三銃士たちが出てきての総踊り。 このナンバーがとにかく格好良くて、つかみバッチリです。

 ところがこの後の、早分かり世界史とかいうのが最低。 水戸黄門やマリーアントワネットなんて、今回の時代背景を説明するのに全く関係ない人物を出してきて、くだらないったらありゃしない。 時代背景の説明をするんだったら、ルイ13世の御世にダルタニャンと三銃士が活躍したエピソードでも入れてくれればいいのに。
 王妃が双子を出産して、兄フィリップをコンスタンスに託す下りからは、やっと物語が始まったという感じ。 でもこのシーン、宝塚ではなかったそうで。これがなかったら、意味不明だと思うのだけど。

 国王ルイの傍若無人っぷりが分かる舞踏会。 ちょっと長い気もしたけれど、ルイの感じの悪さがよく分かります。
 この後、真っ赤な唇型ソファーのシーンがあるのだけど、そこでもルイが女性を手玉に取るナンバーが続きます。 これって、どっちか片方でいいと思う。 それと、ドレス型のセグウェイみたいなのに乗って出てくる演出も、なんか変。 唇のパペットを持った貴婦人方がたくさん出てくるのもなんか変な気がするけど、うわさ好きの宮廷人というイメージを表してると思えば、まあいいか。
 ただ、あのミレディー何? コンスタンスが国王の秘密を知って殺されたっていうのは、上手い具合に話をまとめたなと思ったけれど、ミレディーはさすがに生きてないでしょう。 それに、あんな妖怪みたいなキャラになって。 ネームバリューのあるキャラクターだから、ミレディーにしたかったのかな? アトスとも全然からまないし、それだったら全然関係ない妖婦を登場させればいいのに。

 いよいよ三銃士登場。待ってました!と思う間もなく、なぜか銀橋で「ハウ・トゥ・サクシード」を歌う。 しかも、「いかにして無銭飲食を成功させるか」!? さらにそれをアトスが残りの2人に手ほどきしている。 あの公明正大なアトスが、そんなことするはずがありません。 というかあのメンバーだったら、無銭飲食するつもりがなくても、みんな誰かが払ってくれるだろうと思ってて、散々飲み食いした後に「お金ない」って平気で言いそう。 飲んで大騒ぎするのも、日常茶飯事だろうし。 著作権的に絶対まずそうな「ハウ・トゥ」の替え歌なんて歌うより、普通に飲んで騒ごうよ〜。

 そして、ここでやっとダルタニャン登場。 クールです。影背負ってます。格好いいです。 相変わらずグダグタな三銃士とのギャップがいい。
 恋人コンスタンスの謎の死が語られます。 コンスタンスは気の毒だし、ダルタニャンも悔しいだろうとは思うけど、「任務が完了して帰ってくるのを待ってる」って、そこが間違いでしょう。 預かった子供を育てる任務が終わるのって、ものすごく先だと思わない? しかも極秘任務。いつまで待つつもりだったのやら。

 ラウルも出てきます。でも、ラウルがアトスの弟って、どうして?息子じゃいけないわけ?というか、息子でなきゃ変でしょう。 ミレディーに翻弄され、自分の過去の全てに嫌気がさしていたアトスが、ラウルの存在にどれだけ生きる意味を見出したか。 自分の過去に負い目を感じるあまり、ラウルに自分が父親だと名乗ることもできないアトス。 この複雑な心境は、単に大切な身内っていうだけの話ではないんです。
 ルイーズに目をつけたルイが、無実の罪でラウルを処刑するところ。 血染めの手紙を読むアトスが、どう見ても「父」です。 まっつの演技がすばらしくて、「息子(脳内変換済)」ラウルを殺された悲しみがひしひしと伝わってきました。 はじめに1人で酒を飲んでいる、哀愁漂う感じもよかったです。

 三銃士が牢獄に忍び込んで、フィリップ奪還。あっという間に済んでしまいました。 囚人たちの妙なナンバーとか、おふざけシーンが盛りだくさんだったって聞きますが、特に変なシーンはなかったです。
 さらに、ルイとフィリップの交換劇。これもあっという間。 人間ミラーボールなんて奇をてらった演出をする前に、もうちょっと見せ場のあるナンバーにしてもらいたかった。 三銃士たちが仮面をつけて踊るあたりは格好いいのに、肝心の交換のところが物足りない。

 交換成功を祝って飲む三銃士のシーンは、すごく好き。 能天気なポルトス。この人好きだな〜。 心の奥底には常に重荷を背負っているけれど、それを酒で吹き飛ばそうとするアトス。 アラミスが女ったらしの優男だって分かるシーンがなかったのが残念だけど、綺麗系キャラだってのは出てました。 この3人、もう40代(下手したら50代)なんだけどね・・・ あまり年齢を感じさせない演出になっていたけれど、ここはきっちりオヤジで行ってくれてもよかったと思う。

 ラウルの仇を討とうとやってきたルイーズが、フィリップの正体を知るシーン。 ここの美海ちゃんからは一生懸命さが伝わってきて、とても心をうちました。
 それを立ち聞きするダルタニャン。 えっと・・・本当ならルイがお気に入りのルイーズを寝室に呼んで、今宵ひと夜の愛をかわすはずだったわけですよね? ダルタニャン、あんたって人は・・・。最近のルイの様子が変だから、何か探ってたってことですね、きっと。

 銀橋で逃避行のフィリップとルイーズ。 ルイーズの優しさと、コンスタンスが愛情を持ってフィリップを育てたんだというのが分かる、心温まるシーン。 だけど、長い。 影絵のウサギとカメに何の意味があるのでしょう? 結構2人が頑張ってるのだけれど、それでフィリップが決心するような内容じゃないし。 それに、ラウルの仇を討とうとまで思いつめていたルイーズが、フィリップに心変わりしているっぽいのも気になる。 ここは、さらりと流してほしかった。

 馬で駆ける三銃士。この映像の使い方は面白かった。 ゾロの時みたいに並足の映像を流すより、スピード感があっていい。 このあと、海に落ちるシーンがあったと聞くけれど、そんなものなくなって大正解。

 ダルタニャンや三銃士たちが勢ぞろいして、大階段まで使ってのナンバー。 ここは格好よかったです。 赤いマントを翻すのも効果的だし、殺陣も迫力ある。 ルーヴォアがコンスタンスを殺したと知って、復讐を誓うダルタニャン。 「俺の手で決着をつける」と言うダルタニャンを、置いて去るポルトスが好き。 心配だから見守っているとか、助太刀するとか、そういう友情の押し売りっぽいことをしないのが、銃士らしいというか、ポルトスらしいというか。 手傷を受けてしまうけれど、ダルタニャンは大丈夫だったんでしょうか? 結構痛そうだったのに、そのあと何てことなさそうに三銃士と友情を確かめ合ってました。 手負い萌えなんで、本当は最後まで痛がっててほしかったです。
 「Un pour tous,tous pour un.(1人は皆のために、皆は1人のために)」何度もあった台詞ですが、最初何言っているのか分からなかった。 日本語でいいんじゃない?分からない人も多いと思う。 キーワードなのに。 で、なんだかんだで大団円。
 改定したというわりにはいらないって思うシーンが多かったけれど、とにかくダルタニャンと三銃士が格好良かったので、一応満足です。 (余計なことしなければ、間違いなく素敵な作品なんですけどね。)

 個々の感想。
 ルイ&フィリップ、音月桂。 態度、表情、声色で、どっちを演じているのかすぐ分かるのがすごい。 ルイの傍若無人っぷりも半端じゃないし、やっぱり上手です。

 ルイーズ・ド・ラ・ヴァリエール、舞羽美海。 ルイに目をつけられなかったら、何の苦労もなく、ラウルと幸せに暮らしていたんだろうなと思います。 優しくて可愛い女性だから、フィリップが想いを寄せるのは当然だけど、そんなにすぐラウルのことを忘れないであげて。

 ダルタニャン、早霧せいな。 職務に忠実な、クールでキレ者の近衛銃士隊長。格好いい。とにかく格好いい。 でも、本当はコンスタンスの死の謎を解くのが一番の目的だったみたいです。 ルイがフィリップに替わっても、銃士隊長に変わりはないから、私怨抜きで職務に励んでください。

 アトス、未涼亜希。 ちょっと影のある、知的でクールなおじさま。 飲んだくれて暴れることもあるけど、ダルタニャンやラウルに対して、父親の愛情を惜しみなく注ぐ人格者。 私が三銃士の中で一番好きなキャラなのだけれど、期待を裏切らない好演でした。

 ポルトス、緒月遠麻。 アトスの次に好きなキャラ。 単純明快、情に篤く、男気のある美丈夫。 美丈夫って死語じゃないかと思うけれど、ポルトスにはこの言葉がぴったり。 男らしくたくましいイケメンってことでしょうか。 きたさん、まさにポルトスそのものです。

 アラミス、蓮城まこと。三銃士の中では、一番のきれいどころ。 アラミスらしいシーンがあまりなかったので、他の2人ほど個性が感じられませんでした。 ルイの傍若無人っぷりを語る横で、アラミスがご婦人がたといちゃついているわけにはいかないですしね。

 ラウル・ド・ブラジュロンヌ、彩凪翔。 アトスに庇護されるおぼっちゃまという以上の印象は受けませんでした。 優しげな雰囲気で、ルイの陰謀に翻弄される感じはしました。 でもやっぱり、アトスの息子がよかったな。

 サンマール、沙央くらま。 功績を認められて嬉しくなって、フィリップにべらべら秘密をしゃべってしまうのは、かなりの大罪だと思うのだけど。 ラスト「仮面の中身が誰であろうと厳重に監視する」という、忠実さというか適当さが好きでした。

 コンスタンス、愛加あゆ。 ダルタニャンの思い出の中にだけ生きる恋人。 責任感が強く、優しい女性だったんだろうなと思います。

 ミレディー、舞咲りん。 何でこんな妖術使いのようなキャラになっているの? 映像で妖気吐いてるし。 どうしてもミレディーがいいなら、きちんとアトスとからませて。そうでなかったら、全然別人でいいでしょ。 美しくないミレディーは嫌です。

 ショー「Royal Straight Frush」。
 全体にごちゃごちゃした印象を受けました。 通し役のジョーカーのきたくんが格好良くて、これは見ものです。 ロイヤルストレートフラッシュの5人が銀橋に勢ぞろいするところは面白い。 格好いいんだけど、ゴレンジャーだ。 きむちゃんのアメリカンインディアンは、どうしても「ゾロ」を思い出してデジャヴ感が強すぎる。 宝塚の時にかぶっていた酋長のような羽根飾りをかぶっていなかっただけまだマシでしたが、ファンはあれで格好いいって思えるんでしょうか。
 タイトルのカジノのイメージ通り、ラスベガスのショーっぽい洗練された雰囲気のショーだったらよかったのに。 映画スタジオとか西部劇とかベトナム戦争とか、極めつけにインディアン。 どこがロイヤルストレートフラッシュだったのやら。