雪組
壬生義士伝
Music Revolution!


2019年8月16日
於・東京宝塚劇場



 南部の貧しい暮らしを捨てて、妻子のために新選組に入った吉村貫一郎(望海風斗)。 守銭奴と言われても、故郷への仕送りのため刀を振るい続けた。 鳥羽伏見の戦いの戦いで負傷した吉村は、幼馴染の大野次郎右衛門(彩風咲奈)に助けを求めた。 だが、藩の要職に就く大野は、吉村を助けることはできないと苦渋の選択をする。

 以前映画で見たことがあるけど、佐藤浩市の斎藤一と中井貴一の吉村貫一郎がW主人公って印象でした。 宝塚では大野次郎右衛門が2番手の役だったけど、やっぱり斎藤一(朝美絢)の方がおいしい役だった。 最近、あーさはおいしい役が多くて、咲奈の方がパッとしない役が多い気がする。 たまにはおいしい役回してあげたらいいのにって、特にファンじゃなくても思ってしまう。 世間的には感動のストーリーってことになってるみたいだけど、個人的に突っ込みどころが多すぎて、全然感動できませんでした。

 幕開け鹿鳴館のダンスシーンが、あまりに唐突すぎてびっくり。 ジェラール山下(@るろうに剣心)が出てくるかと思ったから。 回想シーンのためだけに取ってつけたような婦人とか、凪七を出演させるために用意した松本良順とか、本当いらない。

 ゴロツキどもを制圧する斎藤一。 いくら何でも、もと新選組3番隊組長って名乗りを上げるのはおかしいでしょ。 そもそも斎藤じゃなくて、藤田五郎って名乗ってるはずだって言う突っ込みも入れたいところだけど、100歩譲って警視庁の警官だって名乗ろうよ。

 食べるにも事欠くほど貧しいのに、3人目の子を身ごもった吉村の妻しづ(真彩希帆)。 バースコントロールって発想のない時代なのは分かるけど、計画性なく子供作ってる吉村に、何だかな〜って思ってしまう。

 大野の実母が吉村を様付けで呼ぶのに、強烈な違和感を覚えた。 吉村は貴方の主君じゃないでしょ? 様って主君につける敬称だからね。

 何だかイマイチ乗り切れないまま、舞台は京都に移る。 なんであんな変な隊服にしたのかは分からないけど、新選組のシーンは好きだった。
 新選組登場の群舞は格好いいし、斎藤一・沖田総司(永久輝せあ)・原田左之助(橘幸)・永倉新八(真地佑果)がワチャワチャしてるところは楽しい。

 沖田の「斬っちゃいましょうか」がいい。 爽やかなルックスであっけらかんと毒舌を吐く感じ、最近の沖田像はこれが定番な気がする。 ひとこの沖田、ぴったりです。月代も似合ってる。 それに対して「土方さんを?」って返す原田永倉、そうは言ってないよね。 この4人組(たぶん斎藤は一緒にされたくないだろうけど)の掛け合いが、絶妙で面白い。
 斎藤のことを「はじめ君」って呼ぶのもいい。沖田の方が年上だもんね。 それでも丁寧語で話すのは、どうしても沖田像を崩しきれないのか〜。

 はじめ君な斎藤。 自分ではクールな切れ者を目指したいんだろうけど、あちこちにじみ出てくる普通っぽさがかわいい。 吉村に20両まんまと巻き上げられたところから、沖田原田永倉に折半させようとして失敗するところ、土方に見透かされるところまで、何とも隙だらけ。 いつ死んでもいいとか言ってながら、腹が減っておにぎりをガツガツほおばるところは当たり前に人間ぽくていいし、そのあと吉村に詰め寄るところでは感情をあらわにして、そんな一面もあるんだなって思った。 吉村が気に入らなくて、でも認めざるを得なくて、2番手の役じゃないの?ってくらい、おいしい役でした。
 斎藤左利き説は、いい加減やめてもらいたいんですけどね。 今回は大事な伏線になってるから仕方ないかもしれないけど、仮にも武士が左利きってありえないでしょ。 左利きだったとしても、刀は右に差さないでください。

 原田と永倉はニコイチ扱いで、どっちが何を言ってたか覚えてないのだけど、殺伐とした新選組のムードメーカーって感じが好き。 少なくとも原田はこうじゃなきゃね。 「星逢一夜」みたいに全体が暗い話だと見てる方はキツイから、こうやって息抜きシーンを入れてくれるのは助かります。

 土方歳三(彩凪翔)が二言目には「めんどくせえ」って言いながらも、きっちり面倒見るところがいい。 そんなに鬼の副長っぽい怖さはないけど、仕事はしっかりしてるし、隊士にもきちんと目を配ってて頼れる感じ。

 近藤勇(真那春人)がオジサンじゃないのも嬉しい。
 伊東甲子太郎(煌羽レオ)のスッとした感じが似合ってる。
 谷三十郎(奏乃はると)は嫌なヤツなのだけど、しょせんコモノに過ぎない感じとか、あっさり殺されてしまうあたりとか絶妙です。 写真撮影でくしゃみして台無しにするところも、普通に笑える。
 池波六三郎の縣千。美しいわダンスうまいわ、芝居もしっかりしてて、あれ?こんなにイケてる子だったんだって目からうろこでした。 ショーでもついオペラで追ってしまった。

 吉村が妻子のために金にこだわるのは分かる。 でも、新選組の良心?正義?そんな風に呼ばれるのは意味が分からない。 まして斎藤がそんなこと言う? 内心では認めざるを得ないけど、やっぱりキライでいいじゃない。
 近藤土方もやたら吉村のこと気にかけてるけど、一隊士にそこまでする? って言うか、見合い話とかいらないから。 宝塚的事情で、どうしてもトップコンビのきれい目なデュエットを入れたかったのかもしれないけど、別にいらない。

 鳥羽伏見の戦いで、吉村が突然義とか言って西軍に突っ込んで行くのも意味不明だった。 剣をふるうのはお金のためでしょ? 守銭奴って言われても、仲間からバカにされても、それでも妻子に仕送りするって言う一念で戦ってきたんでしょ? 切腹の介錯の後土方に金をせびるところとか、斎藤から20両カツアゲするところとか、いい感じだったのに。 義って何? 妻子に会いたくて脱走したのならすごくよく分かるのだけど、一貫性なさ過ぎ。 そのあと大野に会いに行くって、義のためなら1人で死ぬのがセオリーでしょ?

 大野の態度はすごくよく分かる。 吉村の事情は分かるし、個人的には助けてやりたい。 でも藩の要職に立ってる責任上、それはできない。 派手に格好いいシーンじゃないけど、咲奈がじんわりいい演技してる。 ダントン(@ひかりふる路)あたりから、いい芝居するようになったなって感じます。 るろ剣の斎藤一を、今の咲奈でやってもらいたい。
 カフェブレークで見て気がついたけど、歯の矯正したんですね。 遅すぎた感はあるけど、良かった。 歯並び悪いと、それだけで印象悪くて好感度下がるから。

 吉村に華を持たせようとしすぎて、変なことになってる気がした。 守銭奴で変な奴だった、それも妻子のためだった、自分の生きる道を貫いた。 シンプルにそういうストーリーにしてくれたら、こんなにソウジャナイ感に襲われなかったのに。