ロレンツォ 雪組
霧のミラノ
ワンダーランド

2005年9月8日
於・東京宝塚劇場

フランチェスカ


 オーストリアの占領下にあるミラノ。もと貴族で、今は市職員のロレンツォと、兄がレジスタンスの疑いを持たれたため、家業の業務停止処分を受けたフランツェスカ。2人はお互いに惹かれあうが、ミラノの独立に向けて情勢は動いていく。

 ロレンツォの朝海ひかる。家を取り潰されたもと貴族でも、今は市職員として現状に甘んじて、平凡に暮らしている。軽口をたたいたりもする普通の青年。それが、一転してレジスタンスの厳しい表情に変わる。
 今までのこむちゃんは、とにかく思い込みの強い陰気な雰囲気が多くて、正直見ていて息がつまったのだけれど、今回は軽妙だった。きちんと相手役を見て演技をして、落ち着いた大人の男の雰囲気もでていて、よかった。明るい演技が出来るようになったので、逆に陰の演技が際立って、いい感じ。まーちゃんに対する愛情も感じられた。やっとトップらしくなったかな、という印象。

 フランツェスカの舞風りら。ちょっと大人で、しんのしっかりした可愛い女性。まーちゃんの演じる女性は、好きです。性格の割に、衣装がかわいらしすぎるような気もしたけれど。もうちょっとシックなほうが好み。
 ひなげし。フランス語でココリコ?あ、コクリコですか。田中遠藤の顔が浮かんでしまいました。ひなげし=ポピー=虞美人草ってことも、初めて知りました。個人的には、フランツェスカって、ポピーのような大輪の花のイメージではないのだけど・・・。

 カールハインツ、貴城けい。レジスタンスを追うオーストリアの将校。貴族らしい気高さと、人当たりの優しさとをあわせもつ。今回の芝居の中では実は一番美味しい役かも。これまで、かしげちゃんの芸風は、ちょっとクールで受け入れがたかったのだけれど、今回は優しさと大人の雰囲気が程よくミックスされていて、よかった。
 台詞にも、目立つ態度にもないけれど、フランツェスカが好きなのが垣間見えて、切ない。「貴女を守る立場になりたかった」は、彼の精一杯の告白。ロレンツォを連行する兵士の中にジャンバティスタの姿を見つけても、見ないふりをして行かせるところも、彼の唯一のフランツェスカへの愛情表現なのかな。
 ただ、なんで退役したの?ロレンツォの件の責任をとりたくないから、というふうに見えてしまった。あのまま将校でいるほうがよかったのに。最後の行動が謎でした。

 ジャンバティスタ、水夏希。相変わらず色っぽい。もと恋人のエンマとは、大人のカップル。ミラノの5日間から10年、お互いにいろいろあったけれど、落ち着くところに落ち着いたという感じで、見ていて安心できる。あまりに普通のお友達キャラで、せっかくの水ちゃんの個性を生かしきれていなくて、もったいなかったかな。
 カーニバルのシーン。あれはどう見ても、「追憶のバルセロナ」。衣装もそのままだし。イタリアのカーニバルではないでしょう。違和感がありすぎて、シーンに集中できなかった。

 ジャンバティスタの恋人、エンマ。天勢いづる。今までよく知らなかったけれど、大人っぽくて演技もしっかりしていて、上手い。メインキャストが皆きちんと大人なのがいいです。

 オーストリア将校クリスチャンの音月桂。えらそうで、若造で、彼女からの手紙にはデロデロになって。上司には持ちたくないタイプだけど、きむちゃんはやっぱり上手いです。部下2人とのやりとりが楽しい。

 新聞記者、壮一帆。個人的に、こういう話に全く絡まないストーリーテラーは好まない。おじさんと若い男女の3人組というのが定番だけど、今回は男女2人だけ。もうちょっとストーリーに絡んだらいいのに。

 皆とてもキャラクターがしっかりしていてよかったけれど、ストーリーのラストが唐突。ロレンツォの解放もかなりご都合主義だと思ったけれど、その後がさらに、え?という感じ。生きていました→死にましたって。どっちかにして!
 カールハインツが、故国を敗戦に導いた責をとって、ロレンツォを見つけ出して射殺しようとするというのはなんとか納得。銃をフランツェスカに渡すのも、結局彼女はカールハインツを撃つことができないのも、まあOK。ただ、あのポピーの咲き乱れる草原というのがイヤ。あまりに唐突で。せめて、独立運動後の混乱した街中で再会したとかなら、まだよかったのに。思い出のアマポーラの丘で愛を確かめ合って、そこで息絶えるっていうベタな演出をしたかっただけ?死ぬなら戦場で、そうでなかったらバカっぽくてもいいからハッピーエンドで。途中までいい感じに進んできて、最後の最後でがくっときました。

 ショーでは、水ちゃんのエイハブ船長が格好よかった。ただ他は、眠くなってしまった。「ジュビレーション」と構成が似ていたような。