ラダメス 星組
王家に捧ぐ歌


2003年10月16日
於・東京宝塚劇場
アイーダ


BGM*世界に求む

 
 オペラ「アイーダ」。エジプトの名将ラダメスと、敵国エチオピアの王女アイーダとの悲恋。舞台セットが大掛かりで、お衣装は絢爛豪華。音楽も美しい。ゴージャスな舞台でした。作品のテーマは愛、もあるけれど平和かな。1幕目はあまり感情移入できなかったけれど、2幕目からは、どんどんストーリーに引き込まれていった。

 ラダメスの湖月わたる。あんなにお人よしでいいんだろうかというくらいの実直さ。大型犬ほど性格は温厚だったりするけれど、まさにそんな感じ。「たとえ火あぶりにされようと、アイーダを愛している」って、なんてストレートな言い方。挙句の果てに、アイーダとの仲をファラオに認めてもらおうって、貴方ねえ・・・。アムネリスのこと、分かってるんだろうか。
 将軍の正装で堂々としている時も格好いいのだけれど、囚われ人になった時の、裸足でもあの背の高さ。人はよさそうなのだけれど、自分の信念は絶対まげないのが、男らしい。
 3度のドラのシーン。アイーダとの駆け落ちの約束があるのに、アムネリスの夫になるように言われて、エチオピア軍は攻め込もうとしているし、見ていて本当にハラハラしました。ラダメスの「裏切ったのは、おそらく私だ。」最後まで正々堂々としていると言うか、お人よしと言うか。あたふたしないラダメスが素敵です。せりで下がりながら消えていくシーン、奈落に消えていく感じがなんとも。
 地下牢の銀橋芝居。銀橋を這って2人が近寄るのが、真っ暗なんだなと分かる。こんな中で一人取り残されたら、どんなに心細いだろうと思うけれど、それでもアイーダを思って前向きにいられるラダメス。本当に愛しているのね。

 タイトルロール(正確には違うけど)のアイーダに安蘭けい。男役さんが重要な女性の役を演じることはよくあったけれど、トップさんの相手役ヒロインが2番手男役さんというのに驚いた。
 トウコちゃんのアイーダは、心が強くて、あたりのやわらかい女性。家臣や女官たちに、あんなに蔑まれたりいたぶられたら、私だったら歯向かってしまいそうなのに、ひたすら耐えて、それでも卑屈にはならない。アイーダが女官たちのいじめにあうシーンで、アムネリスが着飾って権力を見せ付けるほどに、床に伏しているアイーダが神々しく見えてしまった。これは、トウコちゃんのキャリアの賜物でしょう。
 ラダメスに愛していると言われて、拒もうにも拒みきれずに飛び込んでいくアイーダが、恋する女性らしくてかわいらしい。トウコちゃんが全身で飛び込んでいくのに、動じないわたるくんもすごい。
 父と娘は離れられないという歌では、アムネリスの幸せを望むファラオのことを歌っているようでいて、父アモナスロの頼みを断れない自分の悲しさを歌っているのが分かる。ラダメスに、アムネリスのもとに帰れと言うシーンでは、この人は王女なんだという威厳を感じた。端々まで、トウコちゃんの演技力に感動した。
 この辺りから涙なみだだったのだけれど、ラスト、地下牢に閉じ込められたラダメスを追ってきたアイーダ。2人抱きあいながら死んでいくシーンでは、かなりきました。こんなに似合いのカップルがトップコンビじゃないなんて、もったいなさすぎる。トウコちゃんの濃い男役も捨てがたいので、このまま娘役を続けて欲しいと思えないし・・・。

 アムネリス、檀れい。最も絢爛豪華な衣装に身を包み、富と権力を持ち、あらゆるものを手に入れてきたエジプト王女。ラダメスを手に入れるためには、卑劣な手段に訴えたりもする。気位ばかり高くて、意地の悪い女・・・と思って見ていて気がついた。アムネリスが、ラダメスを愛しているように見えないのが原因なのでは。アイーダに負けないくらい強くラダメスを愛していれば、ファラオの娘なら、そういう行動にも出るだろうと思うけれど、トウコちゃんの情感豊かなアイーダに比べて、檀嬢のアムネリスは情感薄い。月組時代に比べたら随分よくなったけれど、難しい役なだけに、もっと秘めた感情を出してほしい。
 ファラオになると宣言した後のアムネリスは、迫力があってよかった。ファラオとして、愛するラダメスを殺さなければならない悲しさもよく分かった。このくらいの愛情を、最初から見せて欲しかった。

 アイーダの兄ウバルド。仮にもエチオピア王子なのに、汐美真帆が演じると、ガラが悪い。アナーキストかと思ってしまった。それにしても、濃い兄妹。ラダメスの戦友、ケペル&メレルカ(立樹遥、柚希礼音)。重苦しい役が多い中、この2人は爽やかでほっとした。

 話題のプリセツカヤさん振り付けの場面は、思ったほどではなかった。宝塚には、宝塚に合う振りがあるんだろう。違うと言えば、女官たちのエジプトは強いのシーン。どこもいい感じのシーンばかりなので、かなり引いてしまった。なくていいんじゃないかな。
 「エリザベート」ほどではないけれど、全体を歌で綴るミュージカル。ただ、星組は歌の組ではないと思う。わたるくんもトウコちゃんも、体当たりの演技をする人なので、そんなに歌を多くしないで、普通に挿入歌くらいのほうがよかったかも。歌メインでいくなら、是非花組で。

 ショーでのわたるくんを見て、ああトップさんになったんだなぁと実感。それも星組のトップなのが、感無量。阪急交通社の貸切公演で、司会に千珠晄。サミーさん、顔は覚えていなかったけれど、「ジュビレーション」(サミーさんのさよならだったはず)で、ダンスのうまい上級生だと思った記憶が。そして、その「ジュビレーション」で、わたるくんの存在に気がついたんだな〜と、しみじみ昔の星組に想いをはせてしまいました。わたるくんも、サミーさんを前にして、すっかり星組の下級生の顔になって、「よく後ろで躍らせてもらいました」と。サミーさんに、あの「わたるちゃん」がこんなに立派になって、と言われていたけれど、本当にわたるくん、大きくなったなあ。(いや、ナリは昔から大きかったけど。)