大西洋を横断する豪華客船。そこに、養父の会社を継ぐために帰国途中のフレッドが、友人のアンソニーと乗船していた。船上で出会ったショーガールのバーバラが、実はフレッドの幼馴染だと気がついた2人は、どんどん惹かれあっていく。けれども、フレッドには帰国後結婚する相手が決まっていた。結ばれることのない2人は、船上でつかの間の愛をはぐくむのだった。 わたる君のさよなら公演と言われれば、たしかにそういう要素のある作品。でもそんなに湿っぽくなくて、新しい世界に踏み出していく心意気のようなものを感じます。結ばれない2人と言っても、ロミオとジュリエットみたいに悲恋ではなくて、お互い大人だから、自分の定められた道を自分で選んでいる。とても等身大の話だと思いました。 フレッド、湖月わたる。わたる君のための役と言っていい、まっすぐでやさしい、やさしすぎる人。尊敬し感謝している養父の期待を裏切ることはできない。自分を待っているフィアンセを捨てることもできない。けれど今回だけは、自分の気持ちに正直に、バーバラを愛したい。私個人的には、ここまでやさしい男はどうだろう?相手のことばかり考えて、結局相手も自分も幸せになれなさそう。でも結婚したら、奥さんは幸せだろうな〜。ひたすらいい人なわたる君でした。 仮装舞踏会の衣装は、いくつかパターンがあると聞いたのですが、今回はアリスティド・ブリュアンのような赤黒衣装でした。(2度目観劇時は、濃紺の銃士風衣装でした。このほうが豪華で好き。) バーバラ、白羽ゆり。もっと早くわたる君と組んでもらいたかった。他愛のないラブロマンスなだけに(本人たちはいたって真剣だけど)、主演2人がしっかり愛し合って見えるのは重要。踏み出すまでは臆病なのに、いざ恋仲になったら結構積極的で、自分からキスしてしまうし、とても自然に恋する女性っぽくて好感持てました。3人の男役に想われて、うらやましい役です。 アンソニー、安蘭けい。フレッドとは反対に、調子のいいことをぽんぽん言って、自分の思うままに行動する人。とうこちゃんの台詞回しが絶妙で、ず〜っと笑ってました。客室でフレッドと話してるところとか、ランチのシーンとか、バーバラを助けるところとか・・・正塚先生の台詞回しが楽しいのはいつもなのだけれど、今回は最高。調子のいいだけの男だと嫌な人になりそうだけれど、とうこちゃんのアンソニーは嫌味がない。 長身のわたる君と並ぶと、とうこちゃんはかなり背が低い気がしてしまうけれど、それがむしろ普通に男同士という感じがしていい。つっこみ役のアンソニーが、フレッドに振り回されるダンスも楽しいし。本当に息のあった親友という感じで、この2人ががっぷり組んだ芝居をもっと見たかった。 バーバラに言い寄るフランク、柚希礼音。チンピラっぽくて、嫌味たっぷり。礼音君、いいところのお坊ちゃんの役も似合うのに、こういうワルもできて、ますます楽しみです。ショーダンサーのリーダーで、群を抜いてダンスが上手い。こんな嫌味なヤツなのに、こんな素敵なダンスを踊るってどうよ?アンソニーに好きなだけの金額を小切手に書き込めと言われたのに、フレッドたちにしたら大した金額じゃなかったという辺り、フランクのワルぶりも小者でかわいいもんです。 船長の立樹遥。見せ場も多くていい役だと思うのに、頑張りすぎていてから回っている感じ。元気で明るいキャラクターはしいちゃんの持ち味だと思うから、もっと自然でいいのでは。声も無理に低くしようとして、こもって聞こえにくいし。普通に明るいしいちゃんが見たい。 陽月華ちゃん、やせすぎて痛々しかった。もっとお肉つけないと、かなり見ていてきつい。あんなに肩出しのドレスじゃなければいいのに。 未沙さんは、正塚作品には必須ですね。とぼけたタイミングが絶妙です。 ショーは、幕開け、大階段板付きの男役さんの総踊りが圧巻。でもそれ以上に素敵だったのが、謝先生のオマージュのシーン。謝先生の演出、振り付けはかなり好みです。 流れ星の中からわたる君が現われて、男役同士いいコンビだったとうこちゃん、素敵な相手役だったとなみちゃん、新公で全信頼を寄せていた礼音くん・・・1人1人としっかり組んで踊って。とうこちゃんの歌声が、こんなに透明感があって心地よいのだと、今回初めて感じました。セットが引っ込むと、宇宙空間のような広がりの背景で、そこに向かってまっすぐ歩いていくわたる君。やっぱりさよならなのだけれど、組子皆にしっかり送ってもらって、やっぱり寂しいというよりどこか清々しさも感じました。わたる君の持ち味なのかな〜 飾りのないのが格好いい、本当に大きな男役さんで(体もだけど、心が)、見ていて暖かい気持ちになれました。最近珍しく、ずっと一緒に舞台を踏んできた2番手男役さんにトップをバトンタッチというのが、さらに暖かい気分で見送れるさよなら公演でした。 |