ブエノスアイレス。かつての反政府ゲリラのリーダー、ニコラスが特赦で刑務所を出てきた。武力の時代は終わり、新しい生活が始まる。クラブで働き始めたニコラスは、タンゴダンサーとしての才能を見出され、パートナーのイサベラと共にオーディションを受けるまでになった。 一方、ゲリラの仲間だったリカルドは、現政府に失望し、改革のために戦いを求めていた。ニコラスは協力を拒むが、リカルドはチンピラのマルセロを引き込み、1人で計画を進めていく。事情を察知したニコラスが止めに来たが、もみ合ううちに、マルセロがリカルドを射殺してしまう。 生きることは辛いことばかりだけれど、生きていればいつか何かに出会える。そんな思いを胸に、皆それぞれの人生を歩んでいく。 ニコラス、柚希礼音。とにかく格好いい。初演の紫吹ニコラスも本当に格好よかったけれど、礼音くんも負けてない。礼音くんのニコラスは、りかちゃんほど達観してないというか、まだ過去を捨てきれないで苦悶している感じとか、誰にも干渉されたくないというわりには優しさがにじみ出てるところとかが、人間味があって魅力的。リカルドと熱くなって話しているところは、確かに昔ゲリラをやっていたんだなと思わせる。 リカルドの死を知ったリリアナを後ろから抱きしめるところが、大人の男の包容力満載で、見ていてクラクラしました。格好よすぎるよ〜。 イサベラを待たせていたことを思い出して、舞台を猛ダッシュするところも、言い訳せずに頭を下げるところも、ニコラスの優しさがあふれてる。遅刻したことを責めないイサベラも優しいし、ニコラスが「(リカルドに対して)もう何もしてやれない」と壁を拳でたたいて嘆くのも切なくて、このシーン大好きです。 こんなに包容力があって、大人で、優しくて、その上ダンスがうまくて、いい男。惚れるなっていうほうが、無理な話です。 礼音くんは、タンゴも踊っていたけれど、やっぱりソロの方が上手さが際立ちますね。今回の役柄的には、もうちょっとバレエチックでない方が合ってると思うのだけど、最近あまり礼音くんのダンスを見てなかったので、踊ってくれて嬉しい。 リカルド、和涼華。感情のままに、血潮をたぎらせている。自分の感情をどうやってコントロールしたらいいのか分からなくて、大人なニコラスと好対照。レッドとブラック(@エル・アルコン)のイメージもあるのかもしれないけれど、2人がとても仲よさそうで、いいコンビ。 そんなリカルドが死んで行く時のニコラスの嘆きっぷりに、見ているほうも涙が出てきました。和くんの腕時計のとめ具が外れて落ちそうなのが、またリアルで。樹里リカルドは、ある程度現実を分かっていても、こういう生き方しか出来なかったという感じだったけれど、和くんは本当に少年のままの心で突っ走ってしまった感じでした。 ニコラスのダンスパートナー、イサベラの夢咲ねね。大輪の花、そんな形容詞がぴったり。 西條イサベラはダンスは抜群だったけれど、冷たい印象が強かったので、ねねちゃんのイサベラは女心の弱さや優しさが感じられてよかった。ニコラスと恋仲になる予感がないのは今回も同じだったけれど、前回はリリアナとダブルヒロインという印象だったのが、今回はイサベラがヒロインに見えました。 クラブのシンガー、フローラ、音花ゆり。フローラの歌声で幕が上がる。初演では矢代さんが演じてたほどの大役を、好演していました。見た目が若くて、とても成人している息子がいるようには見えないけれど、歌声は充分雰囲気が出ていました。 フローラの息子マルセーロ、真風涼帆。体が大きいだけに、余計にいきがって見える。本人はいたって真面目なんだろうけれど、「得体の知れないヤツには関わらないことにしている」とか、リカルドとリリアナがいちゃついているのを見て、「あてられっぱなしっていうのは、どうも・・・」とか、素直な台詞が笑いをとっていました。 あと、水ちゃんに似てる・・・ リカルドの妹、リリアナの水瀬千秋。叶リリアナは、体は一人前に成長しても、兄貴が大好きで、絶対的な存在で、頼り切っていたけれど、千秋ちゃんはそこまでには見えなかった。 ニコラスのもと恋人エバ、蒼乃夕妃。この役は、あまり個性がなくて、誰が演じてもぱっとしないのかな〜。 エバのフィアンセ、ビセンテ、紅ゆずる。クールで職務に忠実で、別に悪い人ではないのかもしれないけれど、好かないタイプ。結婚した後、妻の気持ちなんて絶対考えてくれなそう。 どこからともなく流れてくるタンゴのメロディと、街を行きかう人々。何が正しくて、何が誤りなのか、答えの出ない結末。そんな正塚ワールド満載で、たっぷり余韻にひたれました。 |