フランスの田舎で暮らす青年が、ルイ17世と名乗る旅人の形見を手に入れたことから、自分がルイ17世になりすますことを考える。野心をあおる人々によって、パリに出てルイ17世を騙るようになるジェラールだが、最後には恋人アンヌの言葉に自分を取り戻す。 ちょっと前に、タンプル塔で亡くなった王太子は、間違いなく本人だとDNA鑑定されていたけれど、やっぱり夢のあるフィクションはありでしょう。 田舎の青年ジェラール、湖月わたる。ストーリーを読んだときは、もっと野心家なのかと思っていたけれど、純朴でハートの暖かい青年だった。旅人が残したルイ17世の形見の指輪を手に入れて(人の心を惑わすものは、やっぱり指輪)、さらにタイムリーに、祖母からジェラールは革命で逃げてきた貴族の子供だと聞かされたことで、少し歯車が狂ったという感じ。ルイ17世を騙るのも、自分自身の野心以上に、周りにのせられているように見えた。「ばあちゃん」と別れの抱擁をするジェラールに、感動してうるっときてしまった。最近、涙腺ゆるいかなあ? マダム・ロワイヤルの前で、自分の生い立ちを語るときに、わたるくんの目からぽろぽろ涙がこぼれてました。今回かなり端の席だったけれど、それでも3列目といういい席だったので、感情がすごく伝わってきて、感動してしまいました。本当は、他人をだますようなガラじゃないし、一瞬の気の迷いだったんだな〜と。わたるくんの悪役も迫力あって大好きなのだけれど、こういう暖かい人柄がじわ〜っとにじみ出てくるのも好き。 ジェラールをルイ17世に仕立て上げようとする友人コンスタンに、柚希礼音。ジェラール以上に、コンスタンの方がよほど野心家。礼音くんが、かなり骨太に悪そうに演じていて、王家に捧ぐの時とはイメージが違う。今回一番いい役だったかも。声も通るし、格好よかった。 ジェラールの恋人アンヌ、檀れい。ずっと檀嬢は苦手だと言い続けてきたけれど、今回は結構かわいかった。いかにも村娘という感じで、わたるくんに可愛がられて可愛がられて、それに応じて可愛くなったのかな。まあ、あんなに熱く愛されたら、変わってもらわなければ困ります。あと、お願いだから台詞かまないで。最近、花組トップ娘、雪組トップと、トップの台詞噛みが多くて、いい加減うんざり。 ルイ17世の姉君マダム・ロワイヤルの、矢代鴻。矢代さんの雰囲気は好きなのだけれど、今回は合っていなかった。パリの場末のアンニュイな感じは他に真似できる人はいないと思うけれど、王族の気品はあまり感じないし、何よりわたるくんのお姉さんには見えない。7〜8歳の年齢差のはずなので、芝居を見ながら計算して、30代半ばには見えない!と突っ込みを入れ続けてしまいました。 立樹遥のニコラスは、2幕目しか出ない上に、どういう役回りなのか全然分からなかった。ジェラールの嘘を見破る役だけれど、あまりに中途半端で、しいちゃんがどうのこうのというよりは、演じようがないのでは・・・。ルイ17世を名乗った旅人、涼紫央。あっという間に亡くなってしまって、薄幸な人だった。 ジェラールの悪夢に現れる、黒天使たちのダンスが格好よかった。目の前で踊っているので、見とれてしまった。貴族の振る舞いをレクチャーされているときの、わたるくん&礼音くんのコメディっぷりがなかなか笑えた。田舎者なのね♪と言う感じで。 最後ジェラールが、形見の品は自分のものではないと白状した時に、一瞬フラッシュバックする昔の記憶。記憶が戻るわけではないけれど、もしかしてジェラールは本当にルイ17世なのかもしれないと思わせられて、とても気になる。仮に本当にルイ17世だったとしても、ジェラールは田舎の暮らしに戻る気持ちは変わらないだろうし、マダム・ロワイヤルも権力の渦に弟を巻き込むつもりはないけれど、真実はどうなんだろう。こういう、余韻を残した終わり方は結構好きなので、想像が膨らみます。 ドラマシティから出てきたら、ちらほらと白いものが舞っていました。ちょっとムードがあって、余韻にひたりつつ帰路に着きました。神奈川から出かけただけのことはある、暖かい気持ちになれる作品でした。 |